長期化するコロナ禍で売上高が減少した個人経営の飲食店を救うため、クラウドファンディングで緊急支援を募っている。声を上げたのは一人のプロボクサーだ。育ててくれた地元への「恩返し」として、仲間に声を掛け、有志チームを結成。著名アスリートも続々と加勢する。地元出身のプロボクサーがハブになり、地域の危機を一致団結して救おうとしている。(オルタナS編集長=池田 真隆)

「応援してくれた人たちへ恩返しをしたい」。こう話すのは、水谷直人さん(31)。横浜市を走る相鉄線沿線の三ツ境で生まれ、隣駅の希望ヶ丘で育ったプロボクサーだ。

プロボクサーの水谷直人さん

中学・高校は希望ヶ丘にある公立校に通い、東京・池袋にある立教大学に進学した。大学時代は朝まで営業している地元の居酒屋でアルバイトをした。社会人になった今でも、相鉄線沿線にある「KG大和ボクシングジム」に通い、地元で暮らしている。

三ツ境、希望ヶ丘、そして隣駅の瀬谷にはそれぞれ商店街があり、顔見知りは多い。2015年に25歳でプロボクサーになった時、すぐにスポンサーに名乗り出たのも地元の会社だ。人柄の良さもあり、試合には毎回約100人の応援団が駆け付ける。

水谷さんの試合で掲げる特性の旗をデザインしたのも地元の仲間たち

試合後に応援団と

アマチュア時代には全日本社会人選手権で準優勝した功績があるが、プロ転向後、調子が上がらず負け込んだ時期があった。そんな時に、自身に喝を入れるために決起会を開いた。地元からも多くの人が集まり、「まだあきらめない」と決意する水谷さんの背中を押した。そこから調子が上がり、今年1月に日本ランカー入りを果たすと、日本スーパーバンタム級6位まで昇りつめた。

チャンピオンへの挑戦権を得て、いよいよという時に起きたのが、新型コロナウイルスによる外出自粛だ。4月7日には政府が緊急事態宣言を発令し、予定していた試合は2戦連続で延期になった。ジムでの対人練習は禁止され、自宅周辺で個人練習を繰り返していた。

飲食店の経営状況が心配になり、話を聞きに行ったのはこの頃である。水谷さんには、個人で飲食店を経営している会社が2社スポンサーに付いていた。

「大手の資本に頼らず個人で経営する飲食店は地域の人に支えられながら生き残ってきた。オーナーは感謝の思いがあるので、自粛明けにみんながまた戻れる場所でありたいと思い、必死で耐えているが、終わりが見えない状況はかなり辛いと言っていた」と水谷さん。

そこで考えたのがクラウドファンディングによる緊急支援だ。支援先は、水谷さんが、つながりの強い個人経営の飲食店を15店舗選んだ。目標金額は300万円だが、6月末で締め切り、その時点で集まった金額を飲食店に届ける。

世代を超えて多くの人とつながる、写真中央が水谷さん

きっかけは卒論研究

水谷さんは大学生のときに都市政策を学ぶゼミに所属しており、卒論のテーマは「プロボクサーと地域活性化」だった。ボクシングジムの多くは地元密着型で、地元の企業とのつながりは濃い。それゆえに、ジムが輩出するプロボクサーも地元の企業や団体から応援を受ける。この特性を生かして、プロボクサーが地域のハブ的存在になることで、地域を活性化できるという仮説を研究していた。

クラウドファンディングを思い付いたのも、この卒論のおかげだ。たまたま自粛期間に、時間ができたことで卒論を書き直していた。そのため、飲食店を救うアイデアはすぐに浮かんだという。

緊急事態宣言が発令されて1週間後には、高校の同級生などに声を掛けて有志チームを結成した。デザインや映像編集、アートディレクターなどを本業とするプロフェッショナルたちだ。さらに、地元出身の著名なアスリートにも声を掛けた。

3階級制覇を成し遂げたプロボクサーの八重樫東さんを皮切りに、横浜Fマリノスで活躍した栗原勇蔵さん、横浜DeNAベイスターズで8年間プレーした荒波翔さんらもチームに加わった。クラウドファンディングで支援した人向けのリターンに、彼らのサイン入りTシャツなどを用意した。

水谷さんは、「ここまで応援があったからがんばれた。プロボクサーは、試合に勝つことが恩返しになるが、いまは有事なので、できることで恩返しをしたい」と述べる。

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