特定非営利活動法人フレンズ・ウィズアウト・ア・ボーダーJAPAN(以下、フレンズ 東京・中央)の代表を務めている赤尾和美看護師は、2015年2月に開院した「ラオ・フレンズ小児病院(LFHC)」のプロジェクトに関わっています。2016年夏に、クラウドファンディングを成功させ、病院に安全な手術室をオープンしました。

今回のプロジェクトで赤尾さんが取り組んでいるのは、遺伝性の血液疾患「サラセミア(地中海貧血)」という病気を抱える子どもたちへの支援です。サラセミアは、予防が不可能かつラオスでは根治できない病気であるため、疾患を抱えている患者は一生治療し続ける必要があります。サラセミア患者の子どもたちのための支援について、赤尾さんの想いを聞きました。(聞き手・Readyfor支局=徳永 健人・オルタナS支局スタッフ)

ラオスの医療事情、難病「サラセミア」について語る赤尾さん

――昨今のラオスの医療事情、衛生事情について伺いたいのですが、フレンズはラオスでは現在どのような活動を行っているのでしょうか?

赤尾:昨年のクラウドファンディングで支援金を募り、小児病院に安全な手術室をつくることができました。外来から始まり、救急、手術室や新生児室と、院内すべての部署を開くことができました。

しかし、院内部署はすべて開けたものの、今後の課題はアウトリーチでの「予防教育の充実」です。私は今、実際に疾患を抱える患者さんへのフォローアップを行っていますが、そもそも、その病気にかからなければ病院に来る必要はないし、負担になりません。

コミュニティアウトリーチプログラムという予防啓発活動を、今年の9月ぐらいから始めようと考えています。まずは患者さんの数や現状のニーズを正確に把握するところから始めていき、これから数年をかけ、活動立案と評価を繰り返して内容の充実を図る予定です。また、病院全体としては、現地のラオス人のリーダー的存在を作るため「教育」をメインに取り組んでいきます。

――コミュニティアウトリーチプログラムでは、どういった方を対象に「教育」していくことになりますか?

赤尾:対象は、主に村人ですね。実際にニーズ調査を行い、調べてみないと分からないこともありますが、例えば衛生が良くない理由は、「物がないから」なのか、それとも「知識がないから」なのか、そういった分析をまずは行う必要があります。

そして、その原因に沿ったアプローチをとっていくつもりです。村単位を管轄している保健センター、そしてそれを管轄している郡病院へのアプローチと啓発活動になると考えています。

――教育の対象はコミュニティ全体なのですね。村人・保健センター・病棟で働く人など多数の対象になると思います。具体的に啓発活動はどのようなことをするイメージでしょうか。

赤尾:基本的には予防教育ですね。例えば、「手を洗うのであれば、こうする必要があります」とか、「栄養の摂取の際に気を付けること」などです。

私の活動地域では、栄養失調が思った以上に多いです。いろいろな要因があるのですが、文化的な背景による食事制限が散見されます。民族によっては「肉は、皮膚の黒い肉しか食べちゃいけない」などが代表的な例です。

ただでさえ食べ物がない時、皮膚の黒い鶏肉とか豚肉が手に入らない時、手元に残されるのはお米などだけ。彼らはお腹を膨らませるために、それに水をかけて食べたりしているんですよね。彼らの文化の中で、「現実的に信じているもの」と、「栄養が足りていないという事実とその対策」をどうマッチングするか、がとても難しいです。

もちろん彼らが信じているものを否定することはできないので、うまくやっていかなければなりません。ですので、予防教育はとてもチャレンジングになると思います。

村の人たちとのコミュニケーションから気づかされることも多々あるという

例えば、民族・部族のくくりだけでも、様々な違いがあります。一見すると分からないこともありますので、私でもすべてを理解することは難しいです。

同じ村の同じモン族でも、信じているものが違う時もあります。ですので、教育者となるローカルのスタッフには、「モン族出身のスタッフが、モン族の村を担当する」などしてもらい、ピアエデュケーション(仲間同士の教育)のような形で予防教育ができればと思います。

――ありがとうございます。質問は変わりますが、今回クラウドファンディングで挑戦している、血液疾患である「サラセミア」とはどんな病気でしょうか?

赤尾:サラセミアとは、遺伝性の血液の病気です。遺伝で発生するので予防することができず、その病気を抱えた子どもは、サラセミアと一生付き合っていく必要があります。

ラオスでは病気にかかっているかどうかは症状が出て初めて分かることがほとんどです。主な症状としては、貧血です。極度の貧血が続き、心臓に大きな負担がかかるので、その軽減のために輸血を繰り返す必要があります。

日本では考えられないと思うのですが、ラオスでは輸血をする際には、血液を買わなければならないのです。それが1パック大体10ドルします。山岳地帯で暮らす、農業に従事している方で月収30ドルしかない人が、10ドルの血液を買わなければいけないということは、家計をかなり切迫してしまいます。

それも2カ月に1回など、頻繁に輸血しなくてはいけません。家族にとっても本人にとっても大変な負担になります。

また、輸血は貧血の改善に必須であるにもかかわらず、度重なる輸血によって鉄分が体に溜まるという副作用が発生してしまいます。過度に体内に鉄分が溜まると、他の臓器にも異変が起き、どんどん身体の調子を悪くしてしまうのです。

腎臓が悪くなったり、他にも様々な疾患にかかるリスクがあります。途上国で、アジアやアフリカに多くみられる疾患であるという報告もあり、遺伝性の病気なので特効薬はありません。

村での訪問看護の様子

――サラセミアを根治する方法はないのでしょうか?

赤尾:いまのところありません。遺伝性の疾患なので1家族の中に2人の患者がいるケースもあります。遺伝性の病気と考えると、日本人がイメージしやすいのは色盲などでしょうか?

サラセミアの根治の方法はないのですが、「定期的に輸血をすること」と、「身体に鉄分が溜まりすぎていないか検査すること」で様々な症状発現を抑えることは可能です。サラセミア自体は逃げられない問題ですが、定期的な検診を受けることで長く生きることができ、Quality Of Lifeを高めた人生を送ることができます。

そこで、今回私たちは、サラセミアの子どもたちに不可欠な輸血の費用と、その輸血による鉄分過剰などの二次的問題を早期発見・治療するために必要な検査器械を購入したいと考えています。

――ラオスのサラセミアの患者さんの家族はどのような生活を送っているのでしょうか?

赤尾:ラオスに行って最初に訪問看護へ行った際のサラセミアの患者さんとその家族のことが忘れられません。ひとつの山に3世帯しかないような場所で暮らす家族の話です。

その山のてっぺんにその家族は住んでいました。2カ月に1回、お父さんたちが作ったお米を背負って下山し、それをお金に換えて治療費にあてていました。

患者さんの家まで行くまでにはかなり険しい道のりがあり、川を30本くらい超えて行かないといけません。まさに、けものみちです。山を下りて暮らせばいいのでは、という話かもしれませんが、彼らはそこで稲作をしているため、そこを離れるわけにはいかないのです。

雨が降ると山道は一気に過酷な道へと変わる

もちろんその地域は無医村で、医療を受けられる環境ではないので、街まで下りないと医療を受けることはできません。お父さんたちは、ある年は年間累計1トンのお米を担いで山を下り、息子の治療を続けていました。

サラセミアの子どもたちが、貧血になる→元気がなくなる→輸血する→次第に貧血に→元気がなくなる→輸血・・・という単純なサイクルだけでは、上述の副次的な病気に侵されることもあります。

現在、私たちの病院には検査器械がないので、ビエンチャンへ血液を送らなければなりません。年間に輸血と検査にかかる費用は、一人当たり約100ドル~150ドルかかります。私たちの病院内でそれができるようになれば、その負担を減らすことができます。

以前フレンズが活動していたカンボジアでもサラセミアの患者さんはいたのですが、ラオスの患者の数はカンボジアと同じか、もしくはそれ以上に多い気がします。ラオ・フレンズ小児病院に定期的に通院する必要のあるサラセミアの患者さんは、100名以上います。2年前からラオス内で活動してきましたが、こんなに多いとは思いませんでした。

また、先日、首都のビエンチャンから血液疾患専門のドクターに来てもらって、サラセミアクリニックを一週間開催したりもしました。病院のスタッフにとっても、サラセミアの問題を知ってもらえる良いきっかけになりました。ラオスには専門的なデータもないので、きちんと「サラセミア」の診断をくだせる方も少ないです。現在では、毎週木曜日をサラセミア外来の日として診療にあたっています。

もしかしたら患者さんの数はもっと多く、これまで病院の中でサラセミアという説明を受けていなかったかもしれません。また、これまでサラセミアという診断を受けても、医療従事者がそのことについて理解しておらず、治療を正しくできていなかったかもしれない。ですので、クラウドファンディングが成功した後にも、サラセミアについての医療従事者のトレーニングが必要になってきます。

ラオスでの取り組みについて語る赤尾さん

――今回のクラウドファンディングが成功することで、サラセミアの患者さんの治療が可能になると思いますが、ラオスの医療業界に与えるインパクトにはどんなものがありますか?

赤尾:サラセミアの子どもたちを支援することで、サラセミアに対する人々の認知度があがり、その子たちが質の高い人生をより長く過ごすことができるようになります。ひいては国全体の小児の死亡率も下がり、国レベルで取り組めるプロジェクトにもなっていくと思います。

今日のラオスでは、まだまだ血液の疾患というものに、光が当たりにくい現状です。救急で治療が必要な病気であるにもかかわらず、注目が集まりにくい状況を変えたいと考えています。

この取り組みが、国全体などで注目を集めるきっかけにもなればと思います。こういった病気は「しょうがない」と思われないように、その諦めモードから抜け出せるように、私たちも支援したいです。

――最後に、今回のクラウドファンデングに対する意気込みを教えてください。

赤尾:正直、2年続けてクラウドファンディングに挑戦することに対して抵抗はありました。でも、私たちの活動を見つけてくれた方々がいるということに大きな価値を感じています。

この活動が成功することで、多くのサラセミアで悩む子どもたちのQuality Of Lifeを高めることができます。皆様、ご支援をよろしくお願いします。

挑戦期間は8月10日(木)まで。是非、下記の画像をクリックして、挑戦をご覧ください。

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