障がい者に対する差別の禁止を定めた法律「障害者差別解消法」が施行されてから1年以上が経つ。しかし、障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを手掛けるゼネラルパートナーズ社(東京・中央)が行った調査によれば、障がいがある当事者の約9割が差別・偏見は「改善していない」と回答している。障がい者への差別としては、神奈川県相模原市の「津久井やまゆり園」で起きた大量殺人事件も記憶に新しい。差別・偏見をなくすためには、どうしたらよいのか。アートや音楽、映像などエンターテインメントを通じ、誰も排除しない「まぜこぜの社会」の実現を目指す一般社団法人Get in touch代表の東ちづるさんに話を聞いた。(聞き手・オルタナS編集長=池田 真隆)

インタビューを受ける東ちづるさん

――障害者差別解消法が施行されて1年以上が経過しますが、ゼネラルパートナーズ社の実施した調査では、いまだ多くの障がい者が法律の効果を感じられていないようです。差別・偏見をなくすためには、どうしたらよいとお考えでしょうか。

そもそも世の中には差別・偏見をしようと思って、している人は少ないように思います。逆に言えば、「無自覚な差別」が多いのではないでしょうか。彼/彼女らからすれば、「これが正しい」と思い込んでやっているだけであって、「差別してやろう」「偏見の目で見てやろう」とは思っていない。だから、やっかいなのです。

例えば、ある自治体では、「障がい者とともに生きる」ということを誇らしげに宣言していました。ですが、そもそもこれまでも障がい者は普通に身近に暮らしていたはずですよね。また、仮に障がい者から「健常者とともに生きる」と言われたら違和感を覚えるはずです。このように、ことさら「障がい者とともに」と強調するのは、無自覚に分断しているといえるのではないでしょうか。

寄り添っているつもりでも、結果的に分断をつくってしまう。そして、この分断は差別・偏見だけでなく、遠慮をも生み出してしまいます。「相手に障がいがあるから、素直に思ったことを伝えられない」ということもそうです。以前の私も、障がいのある方から「東さんには私たちの気持ちは分からない」と言われたときには、どう返事をしてよいか分かりませんでした。

ただ、いまは「そうね、分からないでしょうね。でも、あなたも、そう言われている私の気持ちは分からないでしょう?」と話をします。そこから対話が始まるんです。障がいの有無に関係なく、一人一人ちがうのだから、きちんと思っていることをぶつけ合わないと相手のことは分かりませんよね。

――たしかに「無自覚な差別」というのは非常に多いでしょうね。一方で、明らかに差別と思われる事件もありますよね。記憶に新しいのは、2016年7月に神奈川県相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺人事件。この事件では、元施設職員だった26歳の男が入所者19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせました。容疑者の男は、警察の取り調べに対して、「障がい者は生きている意味がない」という趣旨の供述をしています。東さんはこの事件について、どのように見ていましたか。

私自身は、容疑者の発言に対して、多くの人が怒るものと思っていました。ただ、ネットを見ると、「分からないでもない」という声が広がっていて、あの広がりがものすごく怖かったですね。

「人は社会の役に立たなければいけない」という刷り込みができていると感じました。多くの人が、子どもの頃から教育現場や家庭で「ちゃんとしなさい」「愛される人になりなさい」「人に迷惑をかけてはいけません」と言われてきました。ただ、人は誰しも失敗や間違いはするし、迷惑をかけるもの。なのに、それらのことをネガティブなことと捉えられ、できない人は排除されてしまう。そんな寛容性のない社会になってしまったのではないでしょうか。

また、この刷り込みは、障がいのある子どもを育てる親御さんにもあるように思います。時々親御さんとの会話の中で、この事件に触れることがあるのですが、みなさん一様に口を開こうとしません。「うちの子は社会の役に立たない」「税金を使い社会のお世話になっている」という思いから、口をふさぎがちになっているんです。

そんなときに、「それじゃ、ご両親は社会の役に立っているのですか」と聞くと、ハッとした表情を見せます。自分たち自身が、子どもに障がいがあることを理由に、健常児と比べてしまっていたことに気付くのだと思います。

今回の事件のように、もしも障がいがあるだけで「社会の役に立たない」と判断されてしまうのであれば、本当に怖い社会がつくられていくでしょう。

本来は、「社会の役に立つ人」という考え方ではなく、「人の役に立つ社会」であるべきなんだと思います。

東さんは芸能活動をしながら骨髄バンクやドイツ平和村、障がい者アートなどの支援を25年以上続けている

――東さんはGet in touchの活動で、障がいの有無に関係なく誰も排除されない「まぜこぜの社会」を目指していますよね。この活動について教えていただけますか。

Get in touchは、東日本大震災のあった2011年に被災地の障がい者や施設を応援する活動からスタートしました。その後、2012年の法人化に伴い、すべての生きづらさを抱えた人たちが自分らしく暮らせることを願って、「まぜこぜの社会を目指すこと」を理念にかかげたんです。

今の日本には、障がい者を含め、誰かと「ちがう」ことが原因で生きづらさを抱えている人たちがたくさんいます。でも、そうした「ちがい」をハンディにするのではなく、特性としてアドバンテージにしたり、おもしろがれる社会にしたい。そう思い、障がいのあるアーティストの作品展やファッションショー、ライブ、映像制作など、さまざまなエンターテインメントを通じた啓発活動を行っています。

昨年12月10日には、車椅子ダンサー、小人プロレス、全盲の落語家など、さまざまなパフォーマーがくりひろげる一夜限りの舞台「月夜のからくりハウス」を開催し、おかげさまで大盛況のうちに終えることができました。

ご覧いただいた方々からは、「次も期待しています」という言葉をたくさんいただいています。でも、私たちは同じことを継続してやろうとは考えていないんです。それは手段であって目的ではありませんから。そのため、「月夜のからくりハウス」も、公演は今回の一回のみにしたいのですが。

社会を変えようとしている以上、何度もやらないといけないということは、そこでは変化を起こせなかったということです。

障がいのあるプロのアーティストやパフォーマーが存在するのに、なぜテレビなどのメディアで活躍できていないのだろう、とよく考えます。もっと障がいの有無に関係なく全ての人にチャンスがある社会になればと願っています。

東ちづる:
女優。一般社団法人Get in touch 理事長。
広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。
ドラマから情報番組のコメンテーター、司会、講演、出版など幅広く活躍。
プライベートでは骨髄バンクやドイツ平和村、障がい者アート等のボランティアを25年以上続けている。2012年10月、アートや音楽等を通じて、誰も排除しない、誰もが自分らしく生きられる“まぜこぜの社会”を目指す、一般社団法人「Get in touch」を設立し、代表として活動中。自身が企画・インタビュー・プロデュースの記録映画「私はワタシ~over the rainbow~」が順次上映。著書に、母娘で受けたカウンセリングの実録と共に綴った『〈私〉はなぜカウンセリングを受けたのか~「いい人、やめた!」母と娘の挑戦』や、いのち・人生・生活・世間を考えるメッセージ満載の書き下ろしエッセイ「らいふ」など多数。

◆一般社団法人Get in touchについて
2011年、米国の自閉症支援団体 Autism Speaks の働きかけで開催された「日米自閉症スペクトラム研究会議」で、「Get in touch実行委員会」としてイベントを開催したことを機に団体を設立。理事長は東ちづるさん。障がいがある当事者とともに、音楽や映像、アートなどのエンターテインメントを通じて、誰も排除しない「まぜこぜの社会」の実現を目指している。
http://getintouch.or.jp/

◆ゼネラルパートナーズ社が実施した、「障がい者に対する差別・偏見に関する調査」の結果はこちら


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