生産者の高齢化に歯止めがかからず、衰退が続く日本農業。再生の道筋は、営農と発電を組み合わせた「電園復耕」にあると提唱する研究者がいる。寄稿してもらった。(寄稿・吉田 愛一郎=GreenT会長)

GreenTが山梨県北斗市にオープンしたテレワーク施設

施設内にはwifiも完備、自然に囲まれて仕事ができる

日本農業再生への提言として「電園復耕」という考え方を述べたい。考え出した背景には、輸入に依存した食糧供給とエネルギーシステムに危機感を持ったことがある。

日本に食料は余っている。日本の食料自給率は40%を切る危機的状態だと農水省は主張するが、そもそも食料自給率とは食料の国産と輸入の比率を指すので、自給率が低いからといって食糧供給の危機では全くないのだ。

食糧の供給過多が起きたことで耕作放棄地は増えた。そして、後継者不足の問題へとつながっている。
本当の危機はエネルギーにあると考えている。人間の生活と産業に必要な「生活産業エネルギー」の自給率は20%を切っているからだ。

燃料なければ米炊けない

エネルギーの多くは中東から輸入している化石燃料によるものだから、シーレーンが断ち切られたら残念ながら日本は停電するだろう。燃料がなけなれば、自分たちでお米すら炊くことができなくなる。 

そこで、エネルギーを自給する必要があるのだ。現実的に考えられる国内完結型の発電は自然エネルギーだけだ。原子力に関しては、いくら政府が躍起になっても、もう民間は動かないだろう。核のリサイクルも絵空事だ。

しかし、自然エネルギーといっても、水力は環境負荷が低くないし、バイオマスは石炭の代わりに有機物を燃やすことになるし、風力も様々な問題から、日本のメーカーは手を引いてしまった。

太陽光発電が残るが、広く平坦で日当たりのよい土地が必要だ。しかし山が多い日本では用地獲得がままならない。そこで以前からわれわれGreenTが提唱し続けてきた、「電園復耕」案を提案したい。

ソーラーパネル、耕作放棄地に

日本の耕作放棄地の面積は合計すると100万ヘクタールに及ぶ。耕作放棄地は農水省の発表では約43万ヘクタールだが、1950年代からの減反政策や消滅した桑畑などから計算すると埼玉県の二倍を超す面積に匹敵する。

これにソーラーパネルを敷き詰めると、福島第一原発に相当する発電量が確保できる。1ヘクタールに1メガワットのソーラーパネルを敷設すると、大体年間1兆キロワットの電力が得られる。これは現在の日本の年間発電量に匹敵する。

つまり日本の耕作放棄地をすべて発電用の電園にするとそれだけで日本の必要電力は賄えることになるのだ。

しかし、農水省は農地法をかざしてそれを許さない。たとえ耕作を放棄され、食料生産に寄与していない土地でも、その土地を農業以外に利用してはならないのだ。

食料(生存エネルギー)は余剰している、自給がままならないのは燃料と電気(生活産業エネルギー)なのだといっても聞き入れてはくれないのである。しからば、そこで農業を再開して、その農地を復耕して、そこで太陽光発電をするという案が、営農型太陽光発電である。別名「ソーラーシェアリング」と呼ばれているものだ。

しかし、そもそも農産物の余剰が原因で起きた耕作放棄地で作物を栽培しても、売れ残ることは目に見えている。ましてやソーラーパネル下の日当たりの悪い場所で栽培された作物など売れるわけがないのではないか。農場の土に埋め戻されるのが関の山だ。まったく反エコロジックな話である。

そこで、われわれは考えた。農業は何も米やイモなどカロリーに資する作物だけではない。ハーブやキノコ、薬草など、カロリー摂取過多の日本を含む先進諸国では、健康に役立つ作物を栽培すればよいではないか。特にキノコは植物ではないから、光合成をせずに日陰を好む。

われわれはこの手法を「ソーラーシェーディング」と呼んでいる。農地を覆うパネルに隙間を持たせて採光するのではなく、積極的に遮光してしまうのである。ソーラーシェアリングに比べて必要な土地の面積は半分で機材も大幅に少なくてすむ。

日射を抑えるソーラーシェーディングはキノコやハーブ類にとっては最適な環境

農業の電化で災害リスク減

ソーラーシェアリングの二倍のパネルが搭載できるソーラーシェーディングは農業の電化を促進する。農作物の半分は石油でできているといわれるような日本の農業をエコな産業に変革させる。

ソーラーから得た電気でトラクターを動かせば、環境負荷を限りなく低下させた農業が実現できる。地産地消の独立型電源だから、自然災害からの被害リスクを最小限に食い止めることができる。

コロナ禍で今後はますます食やエネルギーの地産地消は進むだろう。生活の価値観も劇的に変わった。そんな中で、環境に配慮しながら、自由に楽しく稼ぎながら農業を続ける一つの選択として電園復耕はいかがだろうか。

吉田 愛一郎:
太陽光発電の企画・開発を行うGreenT会長。早稲田大学大学院環境エネルギー科で電園復耕の研究を行う。東アフリカでは野生動物の保護活動を、ケニア、ナイロビ、タゴレッティ地区では孤児院(グリニッシュハウス)を建設。日中の会社をクライアントにコンサルタントとして、自然エネルギーの研究も行う