内容紹介

日本には7つの少年刑務所があります。よく耳にする「少年院」は保護処分であるのに対し、「少年刑務所」は禁錮や懲役刑を受けた受刑者を対象に、再教育をしています。少年といっても多くは20歳を超えた大人で、罪名の中には殺人や強姦、強盗といったものがあります。

本書の舞台は、そんな少年刑務所の一つ、奈良少年刑務所。奈良少年刑務所では2007年から「社会性涵養プログラム」という独自の取り組みを行っています。家庭環境のために極端に内気であったり、自己表現が上手くできない受刑者を対象に、様々な方法で答えを自ら発見させる教育を実践しています。

その取り組みの中で、編者が担当することになったのが「童話と詩」の授業。童話を読み、詩を読み、最後に自ら詩を書いてみる。そんな簡単なことでも、受刑者の中には小学校へ行ったことがない人もおり、その表現はひと通りではありません。

詩集には受刑者が書いた57編の詩が収められています。詩をほとんど知らないため、決まった形も飾り気もない。知らないのだけれど、心に伝わってくる詩が紡ぎだされます。


ゆめ

ぼくのゆめは・・・・・・・・・・・・


長期刑に服している受刑者の詩です。彼は子どもの頃によく父親と競艇に行っていたそうです。競艇選手になろうと試験を受けたこともあるそうです。出所後にその夢をまた追いたいのかもしれません。しかし世間の風当たりや誘惑を考えると不安になるのでしょう。

内気な子でも、詩を通すとその子の不安や興味が見えてきます。それをきっかけにすると、不思議なくらいに饒舌に話しだす子もいます。ふんぞり返って座っていたのに、詩をほめられたら姿勢正しく座るようになった子もいます。

「受刑者たちは、加害者であると同時に、この社会の被害者なのかもしれない」と編者は言います。家庭で育児放棄され、お手本にすべき大人がおらず、学校では問題児として扱われ先生に相手にもされない。心の奥底には家族や友人、自然に対して様々な思いを持っているのだけど、その情緒が上手く耕されないままに大人になってしまった。

2011年度版犯罪白書によれば、20歳未満の少年の再犯率を示す再非行少年率は過去最悪の31.5%になったそうです。犯罪そのものは憎むべきであるし、被害者に対する哀憐の情は耐えない。それでも彼らの荒んだ心に寄り添い耕すことが大切であり、そのきっかけを与えてくれる一冊です。



空が青いから白をえらんだのです−奈良少年刑務所詩集
2011年6月1日
編者:寮美千子

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単行本:1500円(税抜) 新書版:476円(税抜)