*この記事は、ソーシャルウェブマガジン「エシカル&スマート」から転載しています。




東日本大震災を機に改めて見直されるようになった企業のボランティア休暇制度。しかしながら、制度として導入はされても、実際には取得者数が伸びないケースもある。そのような中、アウトドアブランドのティンバーランド ジャパン株式会社では、社員のボランティアを推奨するプログラム「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」が今年2012年で20周年を迎える。社員の ボランティア参加率や、その取り組み姿勢についてお話を伺った。




―御社では、環境や社会への配慮についてどのように取り組んでいますか。

マーケティング部 マーケティング エグゼクティブ 平沢志保氏

大きく4つのテーマがあります。1つは「気候変動」で、地球温暖化防止のため、自社のCO2排出量削減などに取り組んでいます。2つめは「製品」で、作る工程や素材で環境に配慮した製品作りを行っています。

例えば「アースキーパーズコレクション」の中には、全てのパーツを分解できるようなブーツがあり、履き古した後にパーツをリサイクルして新しいブーツを作ることができます。

3つめの「工場」は、ティンバーランド製品を作っている世界約300ヶ所の工場で働くスタッフが、公正で安全に働けるように配慮するものです。そして4つめは「サービス」です。これは、社員が地域社会に貢献できるボランティア活動を推進していく取り組みです。

―4つめの「地域コミュニティ活動」は御社にとってどのような意義があるのでしょうか。

創業者の言葉に、「奉仕は事業の一部である」というものがあります。

社員の力によって、それぞれの地域コミュニティを良くする活動を続けていくことは、ティンバーランドの企業理念そのものなのです。

―「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」というプログラムがあるそうですが、これはどのような取り組みでしょうか。

20年前に創業者の孫であり、元CEOのジェフ・シュワルツが、あるボランティア活動に触れる機会があり、とても感銘を受けたそうです。それを機に開始したプログラムが、年間16時間の有給ボランティア休暇制度によって地域社会に貢献する取り組み「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」です。

20年間、その信念は社員たちによって受け継がれ、現在は年間40時間のボランティアのために有給休暇が与えられています。

月に1度くらいの頻度で活動を行っているのですが、4月と9月の年に2回は、オフィスを1日クローズして、社員一同活動に参加できる機会を設けています。社員だけでなく、お客様やビジネスパートナーにも参加していただいています。

―これまではどのようなボランティア活動をされてきたのですか?

例えば、オフィス近隣のゴミ拾いから、都内公園での環境整備、富士山周辺のゴミ拾いや山道の整備などを行ってきました。

IT部 ITエンジニア 小林裕典氏

活動内容は、最終的にはアメリカ本社の承認が必要なのですが、基本的には、各国で地域のニーズや社員の意向、興味をヒアリングして、それらに添えるように決めていきます。

今年の社員アンケートでは、東日本大震災の復興に繋がる活動がしたいという意見が多かったので、復興支援活動を行いました。その他は、アウトドアブランドなので、社員からは環境保全活動の希望が多くあります。

―毎年どのくらいの社員が参加されるのですか。

グローバルでの統計ですが、2011年の社員のボランティア参加率は79%です。

また、ボランティア休暇の消化率ですが、年間で割り当てられている40時間の内42%ですので、平均1人あたり約17時間はボランティア活動に費やしていることになります。2015年には60%を目標にしています。活動の数としては、2011年には全世界で1125のボランティアプロジェクトが実施されました。

2011年にボランティア参加した社員は79%。2015年には84%を目指す。


―社員の皆さんはどのようなモチベーションで参加されているのでしょうか。

40時間の有給ボランティア休暇取得を目指す人もいますし、純粋に地域貢献に参加したいという気持ちの人もいます。普段仕事をしている同僚達と共同作業をして親睦を深めたいという社員もいますね。

―いつも参加する方、全く参加しない方という偏りはあるのでしょうか。

ホールセール営業本部 セールスエグゼクティブ 栗原隆馬氏

参加者には偏りはないですね。参加できない人は、たまたま仕事とスケジュールがかぶってしまったといった理由が主で、基本的にスタッフはみな参加する気持ちはあるんです。全く参加しない人はほとんど居ないですね。いつも参加しているなっていう人はいますけどね(笑)

―制度があっても参加者が少ない企業もあります。どのように参加者のモチベーションを上げる工夫をされているのでしょうか。

ティンバーランドのカルチャーとして、地域貢献に参加することは当たり前という意識があるんです。逆に、参加しない方が「何で参加しないの?」と周りから言われてしまう空気感がありますね。

社長やマネジメント層も率先して参加しているので、業務を休んでボランティア休暇を取るのは気まずいといった抵抗感も全くありません。

スタッフ面接の時に、面接官がボランティア活動に興味があるか聞いているので、そもそもティンバーランドの奉仕の理念を受け入れているスタッフが入社しているとも言えるかもしれません。

―ボランティアプログラムの運営はどのようにされているのでしょうか。

私たちは、それぞれ違う部署から、今年1年間の運営スタッフとしてアサインされています。参加する社員もローテーションで運営側になった事がある人ばかりなので、話が通じやすいのです。

―運営側として苦労される点はありますか。

参加する社員はみんな慣れているので、率先して何かやろうとしてくれます。なので、現場での苦労というのは無いのですが、参加する社員が納得感や満足感があるような活動を企画することが大事だと思っています。

社員はモチベーションが高いので、生易しい活動だと不完全燃焼になったりするんですよ(笑)参加者の意見に耳を傾けて次の活動に生かすようにしています。

―ボランティア活動が普段の業務に何か影響することはありますか。

オフィスで勤めている社員は、店舗のスタッフと顔を合わせることが少ないのですが、ボランティア活動で一緒に汗を流した経験を持っていると、久しぶりに業務で連携を取る必要があった時でも、スムーズに事が運んだりしています。

リテール営業本部 Eコマース担当 木村泰典氏

―参加した社員の方からはどのような感想が寄せられますか。

普段、私たちは都会のコンクリートジャングルで生活している訳ですが、山や川といった自然環境の中で活動をすることで、地域貢献になるだけでなく、自分にとってもリフレッシュになって良かった、といった声を多くもらいますね。

―「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」の取り組みをお客様にはどのようにして伝えているのですか。

店頭や、ホームページ、SNSを使ってメッセージを発信しています。店頭でスタッフがお客様とボランティア活動についての雑談をする中で、お客様も共感してくださって、活動に参加されたりと、スタッフとお客様との繋がりで活動が広がっていったりもしているんですよ。

―今年「パス・オブ・サービス(社会貢献への道)」は20周年を迎えられるそうですね。

子供たちに絵本の読み聞かせを行う場となるドームを竹で創作。

アメリカ本社からの「今年は尚一層ボランティア活動に取り組める環境を整えてほしい」というリクエストもあり、活動を強化しました。

9月には、お客様やビジネスパートナーを含めて多くの方に参加して頂ける機会を設けました。東京の多摩動物公園での森づくりの活動では約100人、大阪の「芥川緑地資料館(あくあぴあ芥川)」での自然整備の活動では約30人で活動を行いました。

多摩動物公園では、人と自然が共存できるようにすることを目指しているので、そのお手伝いとして、丸太で遊歩道や階段を作ったり、山の草刈りを行いました。自然の中での絵本の読み聞かせを行うという東京都の緑化フェアの企画のために、竹でドームを作ったりもしました。

―今後の課題を教えてください。

これからも、社員に積極的に参加してもらえるような環境を整えていきたいと思っています。それが活動時間を増やしてもらう事にも繋がります。そしてお客様に向けては、このような活動を行っていることをお伝えして、より多くの方に参加して頂けるようにしていきたいです。

地域コミュニティ活動への参加は、毎回本当に有意義な時間となっています。今後も、ティンバーランドがそういった価値ある時間をもたらす機会をより多く作れるようにしていきたいと思っています。


ティンバーランド – Timberland Japan
Timberland Online Shop(ティンバーランドオンラインショップ)


●編集後記
ボランティア休暇制度が形骸化しておらず、お客様と接する店舗スタッフにまで企業理念が浸透していて、地域コミュニティ支援への参加が当たり前の感覚になっているとは、素晴らしい会社だと思いました。社員の一人ひとりが地球環境や地域コミュニティを大切にしているティンバーランドのような会社が、これからの愛される、選ばれるブランドとなっていくのではないでしょうか。

取材・文:杉山香林
写真:小禄 慎一郎