内戦が勃発してから三年以上。なかなか国際社会が解決に導く事ができないほど、現地の状況が複雑化しているシリア。日々、空爆や戦闘によって大切な命が失われている。筆者が以前にシリアを取材した時、シリア北部の町で一人の少年と出会った。(吉田 尚弘)

筆者がシリアで出会ったバッシャール君

写真に写る少年は、バッシャール君(十二歳)とそのお父さんだ。私がシリア入りした初日。無線で空爆を受けた怪我人が緊急搬送されてくるとの連絡があった。そこに、バッシャール君はタンカーに乗せられ運びこばれてきた。

当時の彼は、足の皮が捲れ垂れるという大怪我を負っていた。野戦病院で、すぐに手術が始まった。医師は、「命に問題は無い。むしろ軽症なくらいだ」と言った。

バッシャード君は、なぜ空爆の被害を受けたのか。
その時の状況が実に悲しい。

彼は、お父さんに頼まれて街のパン屋にパンを買いに行った。パン屋は焼き上がりを待つ子どもから大人までの人で、列ができていた。そして気がついたら、その列に空爆が落とされたのだ。バッシャール君は、ただ食料を買うために、パンの焼き上がりを待っていただ
けなのだ。

現場には、即死の人も居た。その中でも、幸運な事にバッシャール君は、命を落とすことは無かった。術後、バッシャード君は、私に言った。

「ねぇ、タカ(私の名前)。僕の名前は、バッシャール。だけど、アサドじゃないからね。(空爆を落とした政府側の代表の名はバッシャール・アサド)足、怪我しちゃった。歩ける様になるか分からないんだって。でもね、僕は治って病院を退院したら、サッカーの練
習するよ。そして、全力で走るよ」

バッシャール君が居る病院のベットの横には、彼のお父さんが居た。お父さんは、終始私の顔を涙目で見つめ、私に頷く様に取材を許可してくれた姿が未だに忘れられない。