NPO法人アニマルライツセンター、NPO法人動物実験の廃止を求める会(JAVA)などの4団体はこのほど、立教大学池袋キャンパスでエシカル消費と動物への配慮を考えるシンポジウムを開いた。動物福祉について、行政・企業・NPOの担当者が講演した。当日の模様を報告する。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
シンポジウムの冒頭、日本のエシカル消費運動をけん引してきた山本良一・東京大学名誉教授は、地球並びに複雑な生命は稀であるというレア・アース仮説に基づき、「人類文明と地球生命圏の両方を永続させていかなければならない」と話した。「人類は狭い人間中心主義を乗り越えて、動物にも深く配慮していくことが必要だ」と力を込めた。
自身が座長を務める消費者庁の「倫理的消費」調査研究会の動向を含め、国内でのエシカル消費の取り組みの必要性、その中で動物福祉が重要になってきていることを説明した。
小川勝也参議院議員からのメッセージが読み上げられた後、消費者政策、消費者教育を専門とする細川幸一・日本女子大学教授が登壇した。消費者の目線に立った動物への配慮の必要性について、具体的な事例を交えながら説明。生産と消費の距離が離れてしまっている動物の問題を身近に感じさせた。
次に、動物行動学をベースにした産業動物のアニマルウェルフェアについて、日本の第一人者である佐藤衆介・帝京科学大学教授が講演。動物福祉(アニマルウェルフェア)という概念の登場から現在に至るまでの流れを紹介した。
「5つの自由」という考え方がさらにポジティブな方向に見直されている経緯を説明し、鶏はケージと屋外のどちらが好きか、豚は運動と仲間とどちらが好きかといった研究結果の紹介をした。EU、OIE(世界動物保健機関)、ISO(国際標準化機構)などで動物福祉の取り組みが進むなか、日本政府も対応が迫られているという現状を報告した。
主催団体の一つであるアニマルライツセンター代表の岡田千尋氏は、持続可能性という観点から、毛皮や皮革などのファッション、そして畜産が環境に及ぼしている影響について講演した。毛皮産業の街、中国河北省・辛集市では公害が発生し、多くの村人に健康被害が出ている。
さらに、森林破壊、地球温暖化、水や食料など資源の過剰利用など、持続可能性に多大な悪影響を及ぼしている。畜産の問題について、動物に対する感傷的な視点を排除しての問題提起をした。
さらに、クレアンのCSRコンサルタントである山口智彦氏は、畜産動物の福祉について企業評価を行い、その取り組みを促進するNGO、BBFAW(Business Benchmark on Farm Animal Welfare)が今年5月、英国のコラーキャピタル等合計1.5兆ポンドを運用する複数の機関投資家が畜産動物福祉の推進に署名したことを紹介した。世界最大の機関投資家である日本の国民年金を運用しているGPIFもこの動きを無視できないのではないかという企業への警鐘を鳴らした。
最後に、英国発の自然派化粧品ラッシュの日本法人である小林弥生・ラッシュジャパン取締役が、企業規模が大きくなれば社会への影響も大きくなるという前提に立ち、倫理観を取り込んだビジネスモデルの構築から社員教育の重要性を説明。社員の倫理観向上が企業の倫理観をつくり、それがビジネスに発展する好循環を生み出していると話した。
■今日がまさに始まりの一日
休憩後に行われたパネルディスカッションでは、環境教育を専門とする阿部治・立教大学教授、消費者団体を代表して、古谷由紀子・サステナビリティ消費者会議代表、エシカル・コンシューマー主筆のロブ・ハリスン氏らが登壇。全員が異なる立場で議論が行われた。まずは先進的な取り組みがなされている英国での状況について、ハリスン氏に質問が集中した。
英国ではエシカル消費運動・動物保護運動を進めるNGOがどれも歴史がありパワフルであること、そのベースには多様な存在を包摂する市民社会があることを説明した。また、SNSなど最新のツールを使った運動が奏功している事例も紹介された。
阿部氏からは、現在日本の環境倫理学、SDGsの対象には野生動物は含まれているが家畜動物は含まれていないことに対する問題意識が示された。今後、動物福祉を含めた持続可能性に関する教育を広げていく必要があるとした。
古谷氏は、今後は具体的な問題解決を視野に入れて、動物保護団体などから消費者団体に対する情報提供・コミュニケーションが必須であり、企業も含めたさまざまなステークホルダーによる横断的な取り組みが必要であると述べた。
会場からは、日本の消費者運動の一役を担ってきた「暮らしの手帖」の創刊当初から編集に携わってきた小榑雅章氏が、消費者を変えていくには、消費者にとって具体的にどんな利得があるのかという点を明確にしていかなければいけないと指摘があった。
これに対してJAVAの亀倉弘美氏は、これまでは金銭的・物理的な利得だったのに対し、化粧品の動物実験反対運動にみられるように、「自らの消費が誰かを搾取している」「自分が美しくなるために動物を苦しめ命を奪っている」という罪の意識から解放されることも、現在の消費者の利得であると回答した。
最後にハリスン氏は、「今日の会議には、来場者も含めて、政府関係者、大学教授、企業関係者、消費者団体、動物保護NGOと、すべてのステークホルダーが集結している。今日がまさに始まりの一日ではないか」と述べた。
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