ネットで複数の個人・団体から資金を集めるクラウドファンディング(以下CF)が社会活動を後押しする存在として注目を集めている。戦時中の広島と呉を舞台にした映画「この世界の片隅に」(監督:片渕須直)や調査報道メディア「ワセダクロニクル」もCFから生まれた。CFを活用することで、ビジョンに向かうために必要な資金と応援者の二兔を得られると評判だ。(小嶺 晶子)
2016年11月から公開された映画「この世界の片隅に」は、観客動員数100万人を突破し、現在も興行収入を伸ばしている。
戦時中の広島と呉を舞台にした同映画は、当初はヒットしないと思われており、製作資金の調達が難航していた。そこでCFを利用し、約3900万円を集めた。
2011年に立ち上がったMotionGallery(モーションギャラリー)は主に映画製作の資金を集めてきた。同サイトで実施したプロジェクト数は累計1500件以上で、約半分が映画制作に関する案件を扱ってきた。
代表の大高健志さんは、外資系コンサルティング会社に入社するも、映画を作りたくて東京藝大に入学したという異色の経歴の持ち主。映画を制作している時に痛感したのが、アートと事業の同居だ。「制作費の調達方法を工夫できないか」と考えていた時に、米国で流行り始めていたCFを知った。
大高さんが敬愛するドイツの現代美術家・彫刻家であり、教育者・社会活動家でもあるヨーゼフ・ボイスの「みんなの思いや活動を形にし、創造的な社会を作り上げる活動全てがアートである」というビジョンを、CFで具体化できるのではないか。その思いが、クリエイティブ領域に強いCFサービスMotionGalleryを生み出した。
映画、演劇、音楽など表現のクリエイティブだけでなく、リノベーションや場づくり、街づくりもクリエイティブだと大高さんは言う。MotionGalleryは、自然とクリエイティブなプロジェクトが集まるプラットフォームとなった。
毎月約100件のプロジェクトが進行しているにも関わらず、大高さんは常に全てのプロジェクトの状況を把握している。自身もクリエイターだったからこそ、プロジェクト一つひとつに込められた熱さと想いを知っている。
大高さんにとって、自社サービスを利用する人は「顧客」である以上に「伴奏していくパートナー」だ。もとは無名でも、CFで共感を集め、世に出て行ったプロジェクトも数多い。
大高さんの伴奏は、CF終了後も続く。2017年にオープン予定の「誰もが映画を上映できるサービスpopcorn(ポップコーン)」。大高さんと日本仕事百貨(運営:シゴトヒト、東京・江東)の代表、ナカムラケンタさんが立ち上げた。
映画の自主上映は簡単ではない。一回上映するだけでも数十万円かかることもある。仮に10万円で1800円の入場料だとしても60名を集客しなくてはいけない。
集客の壁が高く、損益分岐点を超えられないからと自主上映を諦める人は多い。popcornは上映権や作品探し、集客の問題を解決し、上映を簡単にする仕組みを作った。上映者は上映会を気楽に開催することができ、入場料から手数料を除いた金額も利益として受け取れる。
同時に、映画を制作しても、上映する場がないという制作者側の課題も解決される。CFで映画の制作コストを調達し生まれた映画が、劇場公開を終えた後も、マイクロシアターpopcornでの上映を通して、より多くの人に伝わっていく。映画業界の革命ともいえる循環が生まれようとしている。
CFが小さな革命を起こしているのは、映画業界だけではない。「CFが民主主義にできること」として、大高さんは早稲田大学を拠点とする調査報道メディア「ワセダクロニクル」とタッグを組んだ。
広告モデルでのメディア運営は、スポンサーの影響を受けることでジャーナリズムと相反することがある。CFを利用して一般から広く小口の寄付を募り運営資金を集めることで、独立した形で調査報道を進めていくことができる。
ワセダクロニクルは、新聞のステマ記事問題の調査報道継続のため、今年の5月末までMotionGallery上で応援者を募っている。
社会起業家、NPO・NGOなど社会的意義のある活動もまた、資金面の壁にぶつかりやすい。「経済指標だけでは語り切れない、より良い社会を創造している活動にこそ使ってもらいたい」と大高さんは言う。
「CFでプロジェクトに共感する人は、消費をするためではなく、一緒に創造するためにお金を託してくれる。お金だけでなく応援してくれるファン作りにもつながる」
CFを活用することで、ビジョンに向かうために必要な資金も応援者も同時に得られる。CFとの相性が抜群の社会活動もまた、大高さんのいうところのクリエイティブである。CFが社会活動にできることは大きい。
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