佐藤特殊製油(大阪市城東区)は1928年の創業以来「共に良くなる」の理念のもと、顧客のニーズに合わせた製品の開発や製造、販売を行ってきた。機械の動きを滑らかにする潤滑油や、金属を切削したり研削したりする際に性能やスピードを上げる金属加工油、固形の潤滑油のグリースが主な製品だ。1979年に大手企業から転職し、現在は代表取締役を務める佐藤和彦社長(67)に、企業を経営する楽しさや今後の展望を聞いた。(オルタナS関西支局特派員=別宮薫)

油を溶かす機械の前に立つ佐藤和彦社長(大阪市城東区)

佐藤社長は元々、大手企業でコンピューターを利用した自動制御システムのエンジニアとして働いていたが、入社後3、4年で自動制御を専門とする社内ベンチャーに配属された。

10数人の小規模な職場で、研究だけでなく経営や営業にも関わるようになったため、採算性を常に考えるようになったそうだ。「慣れないことだらけだった。でも、それが面白かった」。エンジニアとして働いていた頃は指示をただ待つだけだったが、自主的に会計や簿記を勉強するようになった。

転機が訪れたのは1979年のことだった。前社長の娘との結婚を機に、佐藤特殊製油に転職した。社員として製品や会社経営について学んだ後、義父の跡を継ぎ1997年に社長に就任。それ以来、赤字を出さない安定した経営を何よりも心がけてきた。

「当社は要望に応じて細かく材料や製法を変えている。うちがつぶれるとお得意様が困ってしまう」。自社だけが利益を得るのではなく、油を通して顧客の役に立ちたいとの思いから「共に良くなる」を理念に掲げた前社長の経営方針を受け継いでいる。

常時500~1000種を扱い、製品は車や電化製品などさまざまな部品に使われる。少量からでも注文を受け付けており、少ない種類を大量に販売する同業種の大手企業との差別化を図っている。

今後は海外との取引が増えていく見通しだ。佐藤特殊製油は日本企業、外資系企業問わず、海外工場にも製品を出荷している。海外で消費される製品は、10年前は売り上げの10%を占めていたが、現在では30%になったという。

自社ブランドVADEN製品の前に立つ佐藤和彦社長(大阪市城東区)

もちろん海外進出にはリスクもある。だまされて技術が流出してしまった話も聞いたことがあるそうだ。安定した経営を心掛けてきた佐藤社長が海外進出を決心した理由は2つある。1つは海外進出した顧客からの注文を受け続けているから。

もう1つは海外を視野に入れなければ市場が縮小しつつある日本の製造業は生き残れないと感じているからだ。現在は主に中国、韓国、東南アジアと取引をしているが、今最も注文数が多いのは、自動車産業に力を入れているタイ。発展途上と言われる東南アジア諸国と比べても日本人はやはり英語が話せないと強く感じ、社内で8年前に英語教室を始めた。

3年前の新卒採用では、面接で「海外で働くのは平気か」と海外で働く覚悟を問うた。社員の英語勉強を推進するために、50歳を過ぎてから自らTOEICを初受験。「海外進出、と堅苦しく考えているわけではない。会社の安定のため、身の丈に合わせて頑張っている」と佐藤社長は語った。

佐藤特殊製油株式会社:http://www.satooil.co.jp/