リアル脱出ゲームの産みの親であり、京都を中心に展開しているフリーマガジン『SCRAP』の編集長でもある、SCRAP代表 加藤隆生さんにインタビューする機会を頂いた。

音楽活動、フリーマガジン刊行、そして全国規模でのリアル脱出ゲームを展開し、そして世界規模でリアル脱出ゲームを運営されていく加藤さん。広くマルチに活動される加藤さんの考え方を、インタビューを通して迫りたい。

イベントを通して、相手が見えてくる

—–他の加藤さんのインタビュー記事を読んでいると、イベントでの繋がりがキッカケとなるケースが多いようですね。
そうですね。なんとなく挨拶をするとか仕事をひとつ一緒にするよりも、イベントを一個やったほうが、何となく相手が見えてくる。この人だいじょうぶかな?とか、この人は直前でピリピリするなぁ、とか。
—–僕もイベントを主催していますが、イベントを通してスタッフと仲良くなることが多いように思います。
イベントは、上手くいこうが、いかなかろうが、時間が経てば終わるので。能力に関係なく。終わった後の、『終わったなぁ』という達成感があるので、パッと盛り上がりますよね。ひとと仲良くなったり、距離感が近づいたりするのは作りやすいジャンルのものかな、とは思いますね。
—–終わった後は、打ち上げもされるのですか?
やりますね。現場でそのまま飲むこともありますし、そのまま居酒屋に流れることもありますし、ここ(渋谷事務所)で行うこともありますよ。30人あつまって、ギューギューになってやったことも。
—–大規模にイベント展開されていますが、数多くのスタッフに支えられていると思います。どれくらいのスタッフさんが参加を?
社員として7人、ボランティアスタッフは全国に何百人という規模でいます。
年齢構成も様々で、学生から40代のおじさんまで。会社帰りに来て、チラシを詰めていただいたり。学生よりも、社会人の方が多いかもしれないですね。

今できる一番大きなことを、今持っているものでやって、積み上げていったら人が集まってきた

—–リアル脱出ゲームではアニメやゲームとコラボレーションされていますが、これは先方からお話を頂いたことがキッカケですか?
そうですね。ウチから頼んで、なにか頼むということは基本的にはしないので。

(姿勢として)今できる一番大きなことを、今持っているものでやろう。お金も無かったら、TV広告も出ないし、場所も凄いところを借りれないけど、WEBであればお金もかからないし、友達もいるし。出来ることのなかで、あれもある、これもあるっていうなかで、一番できる面白いことは何かと考えて、それが出来れば、狭い部屋の中でも塔がちょっとだけ積み上がる。塔が出来れば、近くの人は気付いてくれて、集まってくれて。そうして、もうちょっと遠いところからも見えたりして。

今出来ることをちょっとずつ積み上げていったら、何となく人が集まってきたかなぁ。
お金を借りて大きなことをするとかじゃなくて、今できること、今持っているものの中で出来ることは何かなぁと考えて、おもしろいことをやれば、だんだん広まっていくんじゃないかな。

だから、横に広げて営業に行くとかあんまり考えたことが無いし。集まってきた人の中で、じゃあ何をやりましょうか。

—–大きな資本をかけ、初めに大きなイベントを打って告知していくスタイルではされないんですね。
そうですね。ビジネスモデルがちゃんとある業種であれば計算が出来るし、事業計画を作れるから良いのですが、僕らのイベントは他にだれもやっていないことを、新しく取り組んでいくので、イベントが終わってみないと成功かどうか分からない。
思いつくことはできるけど、それを終わらせてクロージングする瞬間まで、それが成功か失敗かは分からない。
僕らの業態って、いくら借りて、いくらペイできるか全く読めない。『夜の遊園地からの脱出』で1万人が来た時も、3000人ぐらい来たら良いなぁと言っていた。逆に2万人ぐらい来たら良いなぁというイベントでも、実際は7000人ぐらいしか来なかったりとか。

だから、積み上げていくしかないんですよね。

あとは、音楽をやっていたときに、周りで無理な投資で潰れていった音楽レーベルとか音楽事務所が山ほどあったので、あぁはなるまいと。

—–御社の社員さんは『番頭』という肩書きを自分で付けられている方もいらっしゃるようですが、ご自身に肩書きを付けられるとしたら、どうされますか。
一応、SCRAP代表と言ってるんですけどね。
2年前までは僕も本業はミュージシャンと言いはっていましたけど、さすがにこれだけ差がつくと言い難いなぁと。
一回テレビに出されそうになったときには、企画書には僕の肩書きが空間ゲームクリエイターとか空間ゲームデザイナーと書いてあって、今後の肩書きになるのかなと思ったけど、特にならなかったですね。
そのときはリアル脱出ゲームばかり作っていたし、実際に空間ゲームを作らせたら、僕が一番うまいと思っていましたが。その後は、WEBのキャンペーンなんかも色々やらせていただいたので、リアル脱出ゲームも携帯電話を使ったり、GPSを使ったりしだしたので、空間だけじゃないような気もしているけど。『空間ゲームデザイナー』・・・75点ぐらいはある気がするね。
—–イベント運営には苦労も多いと思うんですね。他のインタビュー記事を拝見していると、音楽イベントの運営経験も長く、慣れていらっしゃると思うのですが、運営上でコツのようなものはありますか?
数ですね。また、どれだけ数字を埋められるか。50万円しか稼げず、10万円しか使えないイベントだったら、徹底的に10万円のなかで何ができるか、どう集客するかを考えるし。どんなイベントでも50回やれば、そのうちの10回は凄い儲かったりするし、そのうちの数回はもの凄い大赤字もするし。
1回のイベントで400万円ぐらいの赤字を出したことがあって。そのときの教訓はいっぱいあって、失敗した理由は1個や2個じゃないので、20~30個の理由がいっぺんに集まって失敗するから。たとえば、値段が高過ぎたとか、人の流れと別の場所を借りてしまったりとか、時代とタイミングが合っていない人ばっかり集めちゃったとか。出演者のマッチングが合ってない。ジャンルが限定されていない。季節的な要因もあり、気温や、雨天なのに野外のイベントだとか。飲食店があまり集まらなかったりだとか。広告だけは集まってしまって、広告だけが全面に出ちゃって変にプロっぽい感じになってしまったりとか。チラシのデザインをミスっていたりとか。ぼくらのインタビュー時の受け答えがあまり良くなかったりだとか。

そのイベントでは、会場代は無料なのに、いろんな費用が発生してしまって。照明代、音響代、バトン使用料であるとか。そのときに初めてキャパが2000を超えるイベントをやって、本当に怖いなと。会場の人との接し方とか。誰が敵で、誰が味方かというのも、そのときに分かる。400万円の赤字のイベントを手伝ってあげるよ、って言ってくれる人はそのあとずっと味方だし、そのイベントのあとでパッと離れて行ったひともいますし。いまだに許せない人も何人かいますからね。

2000人を越せば損益分岐点を越すようなイベントで、前日までのチケット売上が200枚というイベントもありましたからね。死ぬかと思った(笑)。そこから色々とやりましたよ。弾き語りをやったりとか、WEBで毎日毎日なにかを書き込んだりとか。結局、何もならなかったですね。

聞き手:オルタナS特派員 滝井圭一、中川真弓