途上国の中高生へ映像授業を届けるNPO法人e-Educationを立ち上げた三輪開人氏。2016年、米国の経済誌「Forbes」が選ぶアジアを牽引する若手リーダー「Forbes 30 under in Asia」に選出される。一体どのような人物なのか。(小林 咲月=慶応義塾大学法学部3年、谷 美奈帆=法政大学経営学部4年、余承知=慶応義塾大学商学部2年)
三輪開人氏。早稲田大学法学部在学中の2010年にNPO法人e-Educationを税所篤快氏とともに創設。
同大学卒業後はJICA(国際協力機構)に就職し、東南アジアの教育案件やNGOの海外事業総括を担当する。2013年e-Educationの活動に集中するためJICAを退職、翌年には同団体の代表理事に就任した。
生まれ育ちは静岡県。両親は大学へ進学していなかったものの、彼の受験を応援し続け、「一人で受験したというよりも、家族のために頑張ろうという気持ちが強かった」と受験のころを振り返る。
大学進学と同時に上京した。「今まで見たことがない世界やその広さに衝撃を受けた」と言う。もっと広い世界を見たいと思い、大学3年生の頃からバックパックで世界を旅するようになった。
最初のボランティア体験は、タイのフリースクールで折り紙を教えるものだった。この体験が、三輪氏にとって近寄りがたいものだった「国際協力」に対する認識を変えた。
折り紙を教えるという他愛ないことでも、子どもや学校の先生を笑顔にすることができた。やりがいを感じることができ、「国際貢献といっても、案外自分でもできるのではないか」、そう捉えられるようになった。
そんな彼が教育に対して明確な問題意識を抱き始めたのは、マザーハウスのインターンシップで、バングラデシュに滞在していた最中に知り合った税所篤快氏との出会いだった。
税所氏から、当時バングラデシュでは教師不足が社会問題になっていることを聞いた。調べてみると全国で4万人ほどが不足しており、特に地方には高校生に指導できる教師が圧倒的に少なかった。
そんな逆境でも諦めないバングラデシュの高校生たちの姿は、税所氏と三輪氏 を突き動かした。
「大学へ行き、いい仕事について家族を幸せにしたい」。責任感の強さから、暗くなっても街頭の灯で必死に勉強する高校生たち。
大学進学へ、一家の期待を背負いながら挑むその姿を自分と重ね合わせ、胸を打たれた。「もっと勉強がしたい」、泣きながらそう訴えてくる高校生もいたという。
なんとかしよう。強く問題意識を抱いた2人は、動き出した。
高校時代に東進ハイスクールに通っていた税所氏と三輪氏は、「映像授業」がバングラデシュの教育格差の改善に有効なのではないかと考えた。
優秀な教師の授業をより多くの子どもに受けて欲しい。授業を映像に収めることによりそれを実現させた。
当初の受講料は無料にしたが、全ての子ども達に平等に教育を行き渡らせるために家庭の経済状況に合わせて授業料を徴収する制度も導入した。2017年時点での受講者は、14カ国1万5千人にまで拡大している。
しかし、活動を軌道に乗せるのは決して簡単なことではなかった。特に初期の頃は安定した収入源が無く、知り合いや友人に寄付をお願いするなど苦しい日々が続いた。
なんとか活動を続けて半年後、ついにe-Education初の国立ダッカ大学への合格者が生まれた。「本人からはもちろん、お母さんから頂いた感謝の言葉は今でも忘れられない」、と三輪氏は回想する。
年を重ねる度に合格者は増えていき、e-Educationの評判はバングラデシュ国内に広まっていった。そんな中2016年に発生したのが、バングラデシュでのテロ事件だった。
テロ首謀者が大卒の優秀な若者達だったという事実は三輪氏をさらに苦しめた。自分たちの活動は、もしかしたら原因の一端ではないか。活動の意味を見失いかけ、テロの後は思い悩む日々が続いた。
この時に三輪氏を支えたのは応援してくれる地域の人たちと仲間の存在であった。現地の人が体調を心配して、夜ご飯をホテルまで運んで来てくれた時には思わず涙が溢れたと言う。
三輪氏は次第にこのピンチをチャンスと捉えることができるようになっていった。テロの首謀者たちが卒業した大学にも足を運び、講演を行った。多くの学生が三輪氏の話に感激し、誇りを持って学習できるようになった。
自分たちのDVD教材を待っている子どもたちがいる、そう信じた三輪氏は立ち止まらずに歩き続けた。
現在は、14カ国まで広がった映像授業を6カ国に絞って展開し、その中で成功モデルを探している段階だ。
教育は一瞬で変えることはできない、いわば文化のようなものである。彼らの教育を根付かせるため、彼らは毎日動き続けている。
e-Educationは大規模な社会的事業だが、我々読者には敷居の高いものに感じられがちだ。しかし三輪氏によれば、国際協力をしたい人にとって、現代は非常に恵まれた時代だという。
その根拠が、資金調達を容易にするクラウドファンディングの存在だ。クラウドファンディングは、インターネットを介して不特定多数の人から資金を調達することができる手段だ。
2016年度のクラウドファンディングの市場規模は前年度比で31.5%増の477億8,700万円を見込む(矢野経済研究所調べ)。
海外では、既に大きな市場規模を形成している。日本では2011年、初の運営サイト「Ready for 」が誕生した。実はこのReady for の第一弾プロジェクトがe-Educationだった。
「税所君が、“インターネットを使ってお金が集まるらしい!”と持ちかけて来た時、“怪しい手口じゃないか、大丈夫か?” と不安になった」と話す。
当時はまだクラウドファンディングが日本に浸透していなかった。資金繰りには苦労したと三輪氏は微笑みながら振り返る。
社会起業にとって、一番の障壁ともいえる資金調達。クラウドファンディングの急成長は、今後ますます(起業への)敷居を下げていくだろう。
「今は、想いを持っている人に対して、周りが応援する仕組みができている」。やりたいことや変えたいものがあるならば、まずは世界へと発信してみよう。少なくとも、私たちはもう1人ではない。e-Educationの躍進は、そう私たちに教えてくれている。
*この記事は日本財団CANPANプロジェクトとオルタナSが開いた「NPO大学第2期」の参加者が作成しました。
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