2009年に設立されたバングラデシュにある旅行会社Tiger Tours。同社では、バングラデシュの豊かな自然と多様な人々の営みを観光資源として生かし、持続可能な発展への貢献を目的したビジネスを行っている。ツアーをアレンジできるオーダーメード・ツアーが人気で、バングラデシュのNGOや企業を見学できる「フェアトレード・ツーリズム」に注目が集まっている。



■未来の子どもたちに残すサステナブルな社会と環境の構築を目指して
Tiger Toursと一般の旅行代理店との違いは、ツーリズムを通じた社会貢献を最優先の目標に掲げるソーシャル・エンタープライズであること。バングラデシュの自然環境の保護、文化や伝統の育成を重視、ビジネスによる経済開発を調和させ、「フェアトレード・ツーリズム」という新しいコンセプトを打ち出している。

■バングラデシュの英雄:ムイード・チョウドリー氏の挑戦
Tiger Toursの創業者・現会長のムイード・チョウドリー氏は、バングラデシュの英雄の一人だという。政府や民間事業、NGOにおいて様々な要職を歴任してきた。政府では暫定政府の大臣、国税長官を始めとした様々な省庁の事務次官を歴任した。バングラデシュ最大のジョムナ大橋建設の最高責任者として1千億円をかけた工事に成功。西と東に分断されていた国土を一つにした功績がある。また、世界最大のNGOと言われるBRACのExecutive Directorの経験もあり、これらの功績は誉れ高い。





彼の残りの人生を賭けたライフワークが、観光を通じたバングラデシュの持続可能な社会の実現だという。「世界中の人々がバングラデシュを訪れ、その豊かな自然と人々の溢れるパワーや優しさに触れて欲しい。歴史を学び、文化や伝統、食生活を体験できる、そんな時代を作りたい」。彼の夢と信念に共感した国内外の多くの賛同者の出資を受け、Tiger Toursは設立された。

■川が重要な観光資源。環境に配慮した遊覧船でのツアー
古来より、人々の生活に重要な役割を果たしていた川が、バングラデシュの観光資源を貫く大切なテーマである。観光遊覧船の運航を事業の要として、現在は遊覧船の建設を開始している。世界自然遺産に指定されている地域では、夜間に発電機の騒音を出したり、生態系に影響を与えたりしないように、船体に2機の風力発電と太陽光発電の装置を備えている。

■歴史のロマンを現代に。政府と市民への啓蒙活動
Tiger Toursのユニークな点は、考古学上の遺跡や歴史の発掘と紹介に力をいれていること。バングラデシュの仏教遺跡、シルクロードについて独自の綿密な調査を行い、小冊子にして配布するなどの努力を行っている。バングラデシュでは、遺跡保存の意識が低く、手法も未熟なため、適切な保存がなされないまま放置されている歴史上の遺跡が多数存在する。適切な保存と観光資源としての有効活用を、政府と市民に啓発することも重要な活動の一つだという。


世界最長の砂浜が続くコックスバザールでは、サーフィンや救命の技術を教える活動を行う。2011年は世界中から400人を超えるサーファーが集まった。



■オーダーメード・ツアーで自分だけの旅を
Tiger Toursが得意とするのは、訪問客の目的に応じてツアーをアレンジするオーダーメード・ツアー。バングラデシュの多様なNGOや民間企業を訪問することができる。チョウドリー氏の多彩で幅広い人的ネットワークを生かして、訪問者のニーズに細かく応える最適のツアーを提案している。

日本向けにも、一般の方々のスタディツアーからビジネスマンの市場調査まで手掛けている。ビジネスでは、官民学の3セクターに渡る多彩な関係者を紹介し、市場調査から市場開拓まで、顧客のニーズに応じたツアーをセットしてきた。これまでビジネスマンから学生まで200人以上の日本人が利用した。日本だけではなく、アメリカやイギリスなどの欧米諸国、シンガポールや中国からも利用が増えているという。

イギリスの国営放送会社(BBC)もバングラデシュ取材時にTiger Toursを利用したという。 筆者もバングラ滞在時に同社を利用したが、無理だろうと思っていた工場やNGOを訪問することができ、Tiger Toursの持つネットワークに驚かされた。

日本担当アドバイザーの古川さんは「『フェアトレード・ツーリズム』は、環境や社会のサステナビリティを理解する世界中の観光客を迎え、バングラデシュのサステナブルな社会の実現に貢献しようとする理念であり、具体的な活動でもある」と語る。「ツアー提供だけでなく、社員教育、観光地の保護や育成、政府や市民への啓蒙活動など幅広い活動を通じて、総合的に成果を上げようとする大いなる挑戦」だとする。

オーダーメードで自分だけの旅を楽しみ、さらには社会貢献にも繋がる。なんともハッピーで欲張りな旅。2012年は、そんな「フェアトレード・ツーリズム」を体験してみてはどうだろう。(オルタナS特派員=かとうりさ)

Tiger Tours
問い合わせ:furukawa@tigertoursbd.com