民放キー局の中でとりわけ異彩を放つのがテレビ東京である。「振り向けばテレビ東京」と揶揄されたこともあった同局だが、他局とは一線を画した番組作りには根強いファンも多い。そうしたテレビ東京の番組制作と、本業を通した社会への関わり方について、テレビ東京ホールディングスのCSR推進委員会事務局長・山田由美子さんに話を聞いた。
聞き手・オルタナS特派員=大下ショヘル、樋口楓子、串橋瑠美
写真・オルタナS編集部=大下ショヘル
■ ニッチから始まったテレビ東京の武器
山田さんは「テレビ東京では、事業戦略上も『経済』『アニメ』『良質なエンターテイメント』を3本柱にしています。」と言う。
特に目を引くのがアニメの多さである。テレビ東京では週に30以上のアニメ番組を放送している。今ではテレビ東京の柱の一つになるほどに成長したアニメ番組だが、当初は少し様子が異なっていた。
テレビ東京のアニメの代表作といえばやはり「ポケットモンスター」である。1997年に放送が開始されて以来、長年にわたり多くの子どもたちから人気の同作である。しかし昔からアニメに積極的だったというわけではない。
「サザエさん」や「ちびまるこちゃん」のように広い世代に視聴されるアニメと異なり、初期の「ポケットモンスター」は対象が小学生に限定されたニッチコンテンツだった。
しかし、「ポケットモンスター」の大ブーム、「エヴァンゲリオン」の作品性に対する高い評価などを経て、テレビ東京内部にも徐々に意識変革が起こってきた。「他局がやらないから」ではなく、現代日本文化としてのアニメに戦略的に取り組み、クリエーターと共に「文化を作っていこう」という姿勢に変わっていったという。
やがて、その姿勢は2009年4月のアニメーション制作・ビジネス展開のプロ集団であるアニメ局の設立に繋がっていった。
「昔は中学生がアニメを見ているというのは少数派で、『まだアニメを見ているの?』と言われましたが、今のお母さん達に聞くとほとんどの子がアニメが好きだと言います」
それどころか、今では大学生や社会人でもアニメを見ていることは珍しいことではない。
「そうした状況に対して、多くのアニメを放送してきたテレビ局として、どのように取り組んでいくのか、私達も向き合い方を変えてきたということだと思います。アニメはネガティブなものからポジティブなものに、さらに日本特有な文化になってきています」と山田さんは言う。
テレビ東京では昨年の12月から中国での配信事業を始めた。ニッチだったアニメが今では同局の大きな主力へと変わっている。
■ お金は無くても、視聴者は楽しませられる!
テレビ東京は、民放キー局の中では最後発局で、規模も他局に比べると小さい。スタジオでセットを組んで番組を作るのに対し、ロケ番組の方がやはり制作費は抑えられるのは確かなようだ。だが、金銭的な問題だけでロケ番組を制作しているわけではない。
ロケ番組に出ると、田舎に面白い人がいたり、街中の人と触れ合ったりする機会が増える。そうした中で、様々なノウハウが会社の中に長い時間をかけて蓄積され、そのうち「ここで一般の方に出てもらうと面白いのではないか」ということが分かった。
「制作費を抑えなければいけない」ということをネガティブに捉えていない。制作費はないが、「だったら、視聴者参加で視聴者をより楽しませよう」という自分たちのスタンスを非常にポジティブに考えた。それが「テレビ東京らしさにできている」と言う。
テレビ東京の代表的な番組の多くは、視聴者参加型が多い。こうした意識の高まりが、さらにロケ番組を加速させると同時に、質を高め、視聴者の支持を得られる息の長い番組につながっているのかもしれない。
■ 震災後の決断、本業である番組づくりを通したCSR活動
昨年の東日本大震災が発生した翌日の夜、テレビ東京は震災特番から通常番組へと切り替えた。この決断は、早い段階で、強い意思を持って行われたという。
今の時代、インターネットを通して生の声をリアルタイムで聞くことができる。その中には、悲惨な映像ばかりだという意見が多く、特にお母さん達からは「子どもに見せる番組がない」という意見が圧倒的に多かった。
震災直後より全ての放送を報道特別番組に切り替えていたこともあり、夜からアニメ「テガミバチ」を流した。賛否が別れる決断ではあったかもしれない。しかし、テレビ局に寄せられる意見のうちクレームは全体の5%にも満たず、「よくぞ戻ってくれた」と多くの賞賛の声が届いたという。
週が明けた月曜日にも「おはスタ」が通常通り放送されている。これに関して、出演者の山寺宏一さんも同じ趣旨のツイートをしている。「おはスタは自分たちのやり方で子ども達を応援し続けます。」(2011.3.14 @yamachanohaより)
一方で、この決断と同時に決意したことがあった。それは、この震災をテレビ東京らしく総括しようということだった。
そうした決意の下、経済ドキュメンタリー番組「ガイアの夜明け」では、2011年度は「復興への道」、2012年度は「日本の生きる道」をテーマに掲げ、震災を経済の切り口から取材した。
さらに、昨年12月に福島県相馬高校の高校生40人を招待し、「復興への道」の「福島を生きる」という回を題材にし、実際に取材したディレクターらとダイアログを行った。
「本業を通じて社会課題を解決すること、本業で社会に貢献することが、CSRだと考えています」と山田さんは言う。
「チャリティやボランティアといった特別な活動を考えがちですが、毎日の本業の中で、社会からの期待や要請に応えながら、価値を提供していく。テレビ東京の得意技を生かし、テレビ東京らしさを発揮しながら実践していきたい」
他がやらなかった所に自らの強みを見出し、その強みを通して社会に貢献をする。最後発局でありながらも、少しずつ存在感を高めているテレビ東京のモテポイントはここにあったのかもしれない。(オルタナS編集部=大下ショヘル)
1)震災復興を経済の切り口で取材
2)日本のアニメ文化創造に貢献、さらに世界へ
3)逆境を生かした番組づくり