子どもを産んだばかりの女性の心身への負担は少なくありません。地域とのつながりが希薄になり、また出産が高齢化している中で、昔日本にあった「周りの人が妊産婦を支える」という習慣が減っています。産後に不安やストレスを抱える女性は少なくなく、産後支援の必要性が浮き彫りになっています。産後女性の生活を支える新たな存在、「ドゥーラ」とは。(JAMMIN=山本 めぐみ)
産後の女性に寄り添い、サポート
聞きなれない言葉ですが、「ドゥーラ」とは何なのでしょうか。「産後ドゥーラ」を養成する一般社団法人ドゥーラ協会事務局の有山美代子(ありやま・みよこ)さん(43)によると、「ドゥーラ」の語源はギリシャ語で、「他の女性を支援する経験豊かな女性」を意味するといいます。
「産後ドゥーラとは、妊娠中から出産前後の女性に寄り添い、家事や育児を手伝う人のこと。赤ちゃんが生まれてすぐは、女性は心身ともに不安定な時期。『女性の傍にいる』ということが、すごく重要」と有山さん。
産後ドゥーラの具体的な役割は、「赤ちゃんや上のお子様の面倒を見たり、ご飯を作ったり、お母さんの悩み相談を聞いたり…家庭のあらゆることを“お母さんを中心に”トータルでサポートすること」だといいます。
「ご家庭によって生活のリズムは異なります。台所のどこに何が置いてあるかや、お子様やご家族のアレルギーの有無など、あらかじめお母さんにお伺いして、まさにお母さんのサポート役として家庭の様々なことに対応できるようにしています。経験豊かな女性が、その経験を生かして新たにお母さんになる人たちをサポートしていく。そんな循環を作っていくことができたら」(有山さん)
これまでに367名の産後ドゥーラが誕生、各地で活躍中
一般社団法人ドゥーラ協会が開催する「産後ドゥーラ養成講座」は、妊娠・出産・産後(産褥期)・子育てを支えるための知識を体系的に学習できるプログラムとなっており、受講者は4ヶ月かけて支援に必要な知識を学びます。基礎・実習の両講座を終了した後、認定試験(筆記・調理)と面談を経てはじめて、一人前の産後ドゥーラとして活躍できるようになるといいます。
「講座の中で、妊産婦の心身の変化や乳幼児の発達・保育、産後の食事やケアについての知識、育児実習や調理などの家事実習、救命救急実習なども行うほか、妊産婦特有の状況を理解して適切な対応やコミュニケーションを繰り返しロールプレイで学びます。産前産後のお母さんのセンシティブな気持ちを理解し、認めて支え、家事や子育てもサポートする、まさに専門家といえます」(有山さん)
産後ドゥーラとして認定を受けた後は、それぞれ独立した個人事業主として各地でお母さんたちをサポート。2012年3月から養成事業をスタートし、現在までに367名が養成講座を修了、200名以上が各地で産後ドゥーラとして活躍しています。
産後、サポートを受けられない女性が増えている
東京・中野区にある「松が丘助産院」の院長であり、助産師として活躍するドゥーラ協会代表の宗祥子(そう・しょうこ)さん(66)。講演先のアメリカでドゥーラと出会い、「日本にも取り入れたい」と団体立ち上げを決意しました。その背景には、変わりつつある日本のお産の在り方があったといいます。
「昔から日本では、女性は出産にあたって里帰りしたり、自分の親が手伝いに来てくれたりといったことが慣習としてあったが、こういったサポートをうけられる女性が減っている」と宗さん。
その背景には、家庭の在り方の多様化、お産の高齢化、実母世代の就労や介護があるといいます。
「昭和30年代ごろまでは地域に産婆さんがいて、主に自宅で出産することが多く、産婆さんが子どもを産んだ母親を訪問してサポートしていました。日本は家族や地域の人たち皆がサポートするような風習があり、今でも里帰り出産を望む方が結構いらっしゃるのはその風習が残っているから。しかし、こういった姿も、時代とともに姿を消しつつあります」
「地域のサポートに関しては、女性の働き方が変わったということが一つ要因として挙げられるのではないか。
今子どもを産む人たちは、バリバリ働いている人が多い。そうすると子どもを産むために産休に入るまで、地域の人や近隣のお母さんたちと接触がない状態。マンション住まいで赤ちゃんが生まれたからといって、お隣さんがご飯を作ってくれるかといったら、そういうことはほとんどないですよね。それよりも残念ながら『子どもの泣き声がうるさい』といわれてしまうような時代」
「赤ちゃんを産む女性が高齢だと、そのお母さん(赤ちゃんのおばあちゃん)もご高齢であることがほとんど。そうすると、たとえばおばあちゃんが70過ぎだった場合、その方自身も健康面から、全面的にサポートすることが難しくなります。あるいは、たとえばおばあちゃんが55歳ぐらいだった場合、今度は上の方の介護をしているということもあるし、50代だとまだバリバリ働いているということもあります。そうすると、1ヶ月介護や仕事を休んで、子どもを産んだばかりのお母さんをサポートすることは難しい」(宗さん)
赤ちゃんが誕生する瞬間は、女性が母親になる瞬間でもある
「昔は、もっと子育てが生活の身近にありました。でも、現在はそうではない。そうすると、お母さん自体が子どもと接してきた経験がなくて、子どもに慣れていないんですね。お父さんは夜8時9時まであるいは深夜まで仕事で家を空けて、実母にも頼れず、地域にも頼ることができない。孤独な子育てを強いられてしまう」
それでは母親となった女性が新たな命の誕生を心から喜べなくなる、と宗さんは指摘します。
「赤ちゃんが生まれる瞬間、その瞬間はお母さんにとっても母親になる瞬間です。お母さん自身も、毎日いろんな経験を繰り返しながら、周りから、そして子どもから教えられながら、徐々にお母さんとして成長していくんです。誰かの子育てを見たり、教えてもらったりしてできるようになることもたくさんありますが、日本の教育ではそれを教えることをしません。教育の中でもっと家族の有り方や子どもを育てる事の大切さ、子育ては母親だけでなく夫婦や地域で関わっていくということを伝えていくことができれば。同時に、孤独に陥っているお母さんを周囲の人たちが助けられる世の中であってほしい。産後ドゥーラは、困っているお母さんたちに寄り添い、サポートする一つの存在」(宗さん)
ひとり親家庭や障がいのある子どもを育てるお母さんなど特に困っている家庭に、ドゥーラの温かいサポートを
「お母さんにとっては出産がスタート。産後はどのお母さんも大変だが、中にはもっと状況が大変なケースもある」と宗さん。
「たとえば、切迫早産などで入院した場合。お父さんもお仕事が休めないし、きょうだいがいて、おじいちゃんやおばあちゃんに預けることも難しいとなってしまったら、究極、きょうだいは乳児院に預けられてしまう。そこをもしドゥーラがサポートできたら、その必要はなくなる」
「年の近い上の子がいるお母さんやシングルマザー、障がいのある子どもを育てるお母さんなど、困っているお母さんのところにドゥーラのサポートが届けられたら、状況はもっと改善するのではないか」
「出産は素晴らしいもの。お母さんが開かれて、世の中と、宇宙とつながる瞬間。だからこそ、そこが辛いものであって欲しくないと思っています。『自分の力で産む』というふうにお母さんが感じて、生命の誕生を喜ばしいものとして受け取ってほしい。だからできるだけ自分たちの力でお産をして、子育てをしていけるようにサポートするのが私たちの役目。感動的な誕生を経て、その日からお母さんもまた母親として、周囲の人に見守られながら、すくすくと育ってほしい」(宗さん)
支援が必要な家庭へドゥーラの温かいサポートを届けるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、ドゥーラ協会と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×ドゥーラ協会」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、特に支援が必要とされる家庭にドゥーラの温かいサポートを届けるための資金を集めます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、”The more we share, the more we have”、「周囲と分かち合えば分かち合うほど、もっと豊かになれる」というメッセージ。文字の周りに描かれたアサガオの花言葉は、「愛情の絆」。皆が寄り添ってつながりを築いていく先に、大輪の花を咲かせる未来があるんだよ、という意味が込められています。
そして、アサガオの蔦をよくみると、隠し文字で「doula(ドゥーラ)」の文字が。「今後、日本でドゥーラさんがもっともっと増えていってほしい」という願いが込められています。
チャリティーアイテムの販売期間は、11月12日〜11月18日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、ドゥーラについて、宗さんと有山さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・母親も、すくすく育つ世の中に。家庭の多様化・核家族が増える中で、妊産婦に寄り添う存在を育てる〜一般社団法人ドゥーラ協会
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
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