5月17日、「study gift(スタディギフト)」というウェブサービスがリリースされる。奨学金の利息が払えず学校に通えなくなってしまうなど、学費が払えないことが原因で学校に行くことを諦めざるを得ない学生のためのクラウドファンディングだ。

リバティの面々、個性派が揃う


学生は自分をプレゼンテーションし、応援したいと思った人がお金を出してパトロンになる。支援された学生は、毎月に複数回の授業レポートを提出し、支援者に何を学んでいるのか報告する。また、年に数回の支援者との交流会も開催する予定である。

スタディギフトの制作を担当したのは、去年、影響力の高いブロガーに与えられるαブロガー賞を受賞したヨシナガ氏。「今の子どもは学校の成績では測れない子がたくさんいる。何かに一生懸命打ち込んでいる子が、学校に通いながらその能力を高められるように支援していきたい」と語る。

実はこのサービス、いわゆる株式会社が作っているものでもなければ、ヨシナガさん個人が作っているものでもない。liverty(リバティ)というプロジェクトをベースとした組織だ。フリーのエンジニアやデザイナー、会社員、大学生、ベンチャー投資家、ブロガーなど多彩なメンバーが揃い、それぞれがプロジェクト単位でチームを組織し、サービスをつくる。そこで得た利益は、そのメンバー間で分配し、また新しいプロジェクトを起こす。

仕事や学校が休みの土日や深夜の時間を利用して、ウェブサービスを月に5本というスピードで制作している。スタディギフト以外にも、鬱病ぎみな人に真正面からは言いづらいことを匿名メールで送ることで元気づける「うつっぽ」というサービスや、自分の顔にクライアントのロゴやサービス名をペイントして、都心を中心に街中を歩き回って広告する「ganmekoukoku.com(顔面広告)」などがある。



リバティ立ち上がりの起点は、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」などを展開している家入一真氏(33)だ。「時代遅れの固定観念に囚われずに、もっと自由に今を生きていきたい」という思いに共感したメンバー20人弱が集まり、今年4月から本格的に動き出した。

家入氏とともにリバティのコンセプトを構想した高木新平氏(24)は「livertyは、その名の通り、liberty(解放的自由)の中でlive(生きる)ことを理念としている。だから、ここ(リバティ)では、従来の組織構造の延長線上ではなく、まったく新しい自由な発想で、これからの働き方や生き方をカタチにしていきたい」と語る。

リバティの組織的な特徴としては、以下である。

・組織としてのゴールを決めない
・時間的な制約はない
・既存の雇用関係にあたる上司や部下、給与や福利厚生、昇進や昇格、採用や解雇もない
・組織的な肩書きはつけない
・業務メールや定例会議などは行わなくてもよい
・サービスの領域や対象、形態は問わない
・ただし、一人ひとりの個性や特技をリスペクトする

所属するメンバーらは、「何が起こるか分からないけど、わくわくして体が前に動く」「純粋に自分たちが作ったもので価値観を変えていける。お金では得られないやりがいを感じられる」と話す。

高木氏は、「僕たち20代は、人生に悩んでいる人が多いように思う。物心つくころから、バブル後の不況、9.11、リーマンショック、東日本大震災など、これまでの価値観を根本から問われる強烈なネガティブ経験が多い。そして物やお金だけでは幸福感を満たすことができない、価値観が多様化している成熟社会を生きているのに、目の前に見える選択肢はとても限られている。だから、自分はどう生きていくべきなのか悩んでしまう。そんな人たちの気持ちがよく分かるからこそ、既存の決められた枠組みを超えた、生き方・働き方をしてもいいんだよ、ということを体現していきたい」と話す。

家入氏は、「今後は、みんなの力で個人の可能性を拡げるプロジェクトをつくっていきたい。同時に、リバティのような働き方や生き方が全国の至るところでも生まれてくるように、講演なども積極的にしていきたい。特技や発想力があるのに、会社だけではそれを生かし切れない人は多いと思う。けれども、すぐに会社を辞めて独立するのはリスクがある。だから、リバティはそのような人を受け容れる場所であり続け、個性を育て、世の中に解放するためのプラットホームでいたい。ここでのプロジェクトひとつひとつから産まれた評価や利益の分配が、ある種のベーシックインカム的なものになり得るのではないかと思っている。現在では、就職活動に失敗して自殺してしまう学生や、会社の都合で解雇されてしまう人も増加している。リバティが起点となって、一人ひとりが好きな生き方を選択出来る社会になればいい」と話す。

「まちつく!」「フォト蔵」などを開発した元ウノウ代表取締役の山田進太郎さん(34)はこの動きに対して「ネットのサービスはほとんど上手くはいかない。なので、とりあえず世の中に出して、様子を見ることは良い手段だと思う。まだこの組織は始まったばかりなので、上手くいくかはわからないし、上手くいったとしても多くの問題が起きてくると思う。それでも、私は可能性を感じるし、この様子を見ていきたい」とリバティについて語る。

家入氏は、リバティを「いわゆる株式会社でも個人でもない、21世紀の海賊スタイルの組織」として、イメージを描いているという。

今後の展開について、家入氏はこのように話す。
「今回の取り組みは、一つの社会実験でもある。リバティはソーシャルメディアが発達・浸透した現代だからこそできる組織。ソーシャルメディアなど環境の変容に合わせて、リバティも柔軟に変わっていきたい。良いものを取り入れ、悪いものを捨てる。そうすることで、今の若い人たちの可能性をうまく引き出す組織であり続けたいし、社会もそのように変えていきたい。だから若いみんなには、もっとわがままになってほしい。自分のやりたいことを押さえ込まず、どんどんやってほしい。そうやって、日本をもっと生きやすく、同時に刺激的な国にしていきたい」(オルタナS副編集長=池田真隆)


liverty(リバティ): http://liverty.jp/