自給自足できる街をテーマに2011年5月から毎月1回開催されているgreen drinks 松戸。2012年は「○○をつくろう!」をテーマに掲げ、少しでも自給力を高めることを目指していきます。

GW前半まっただ中の4月29日、gd松戸vol.10を開催しました。今回はgreen drinks松戸史上初の2部構成。第1部は、テーマを「マイファームをつくろう~自然種から始める農LIFE~」として、松戸市金ヶ作地区にあるマイファーム松戸体験農園にて、農作業体験を行いました。(第1部のレポートはこちら


第2部では、テーマを「農×まち 自分でつくる生き方を考えよう」として、耕作放棄地を再生することで自産自消できる社会を目指す㈱マイファーム代表西辻一真さんと、MAD Cityという半径460㎡の街を独自に名乗り、街をDIYしようと試みる、㈱まちづクリエイティブ寺井元一さんのトークショーを行いました。実際に農業を自分の体で体験した後は、少しだけ頭を使ってこれからの農業、まちについて考えてみましょう。

■自給自足できる社会について、考えてみよう。
第2部では場所を変え、農園近くの天真寺へと移動。天真寺では、gd松戸ではお馴染みの、Slowcoffee、organic CAMOOらが参加する楽市というフリーマーケットの真っ最中でした。こうしたイベントに会場として場所を提供されるなど、天真寺でも積極的に地域とつながる取り組みがされています。

こちらが第2部会場になった天真寺。この日は楽市も行われていて、参加者の皆さんもちょっとだけ雰囲気を味わうことが出来ました。


第2部は、第1部に引き続き株式会社マイファーム代表の西辻さんと、松戸でまちづくりを行っている株式会社まちづクリエイティブ代表寺井元一さんによるトークイベントです。ともに長年ソーシャルベンチャーの先駆者として活動されてきたお二人ながら、会って話をすることは初めてだそう。さて、どんなお話が飛び出すでしょうか?

■第2部スタート!


まずはお二人の自己紹介から。第1部に引き続き、西辻さんからマイファームが行っていること、目指していることについての説明。

「農家が、今までのように、全ての労力を生産にそそぐ人ではなく、農をテーマにして色々なことを世の中に発信していける人になる。そしてそうした人が増えることによって農業への理解がより深まり、社会全体で自産自消が可能になる、マイファームではそんな社会を目指している」という西辻さん。

穏やかな笑顔から語られる、静かな強い言葉。


次はまちづクリエイティブ代表寺井さんのお話。

参加者の希望で急遽自己紹介からお話する寺井さん。


第2部から参加の寺井さんは、自己紹介から。大学時代、政治について勉強していた寺井さんは、大学院を数週間で休学(のち中退)し、渋谷を舞台にアーティストやマイナースポーツのアスリートを支援するNPO法人KOMPOSITIONを立ち上げます。

ビルにアーティストが壁画を描くことで、落書きに悩むビルオーナーと、作品を描く場がないアーティストの問題を解決する「リーガルウォール」や、マイナースポーツであるセパタクローを支援するべく、ライブハウスや屋外スペースにて、世界初・日本発のセパタクローエクスリームイベントを実施するなど多くのアーティスト・アスリートを支援してこられたそうです。

でもそれは常に行政や地区のルールとの戦いでもありました。そんな時、寺井さんは渋谷のセンター街で堂々と開催されていた、ねぶた祭りを目にします。「最初、どうやって許可とったのかと思いました。実際はただ単に商店街のおじさんに青森の方がいたとかそんな理由で祭りが成立しているんです。ある意味、地元のエゴというか。でもこの力ってすごいと思うんですよね」

「まち」には行政などが定めていたルールがたくさん存在します。しかし、実際に暮らしている人の感覚を土台にして、自分たちのルールによってまちを作ることが出来るのでは?そうしたことをやっていきたい!自分たちで「まち」をクリエイトしよう!そう考え、寺井さんは社名を「まちづクリエイティブ」にし、対象とする街を探していたところ、松戸に行きついたのでした。

現在は、独自に定めたMADcityエリア(神酒所を利用したオフィスを中心とする半径約460mのエリア)を中心に、不動産業(ちょっと変わった物件しか扱いません・・ぜひHPをご覧ください!)やアーティスト支援、エリアのプロモーション活動などを行っています。

■昔からあった価値を、現代風にリメイクして伝えていくこと。
自己紹介が終わったところで、お互いの印象について聞いていきます。

それぞれの話のあと、トークセッション


お二人ともお互いの印象は、「テーマは異なるけど、やっていることの根底は似ている」とのこと。寺井さんがまちづくりの対象としているエリアは、地価が低かったり、いわゆる人気スポットでもなんでもなかったりする、あまり魅力が認められていないエリア。

それに対し、西辻さんが対象としている「耕作放棄地」も同様に、かつては価値があり、そのために農業などが行われたにも関わらず、現在は行われなくなり価値が認められていない土地。確かにテーマは異なるけれど、二人が変えたいと思っている場所はとてもよく似ています。

こうした土地で活動をする中での共通点は、「マイナス1をゼロにすること」。昔は価値があったものを現代風にリメイクすることによって、現在でも通じる価値に変換することです。100を101にすることはそんなに難しいことではない、でもマイナスをプラスに変えることはとても難しい。その分周辺に与えるインパクトは大きく、マイファームが体験農園を持つ兵庫県西宮では、耕作放棄地が体験農園としてよみがえったことによって地域のお祭りが復活した、という例もあるそうです。

■大切なのは現場の意見を上にあげること

さらにお二人に共通するのは、現場を第一に活動している人たちからの底上げが必要だということ。
まちには様々な法律やルールが存在しています。それは物事をうまく進めるためのルールだったにも関わらず、次第に規制になっている場合も多いといいます。こうした変化は、現場にいる人間でなければわからない。トップダウンではなく、ボトムアップによる仕組みを作っていくことが必要とされているのです。

現場でその変化をいち早く感じ取り、起爆剤として活動していくことがマイファームやまちづクリエイティブが目指していること。

テンポの良い会話が続きます。会場の皆さんも真剣。


■持続可能性のある社会とは?

次に、今の経済・産業のシステムは変わるべきだという話へ。今の経済・産業システムは「とにかくお金を稼がなくてはいけない」という考え方に基づいているといいます。

「でもそれであれば、農業だったら棚田なんて効率の悪いものいらなくて、それこそ植物工場を作って、効率的な生産方法を行えばいいんです。とにかく食べ物からは栄養だけが取れればいいということ。でも、違いますよね?今の世の中は、お金が介在しない、たとえばありがとうという気持ちだったりするような、『共感軸』のつながりを求めている社会だと思う。」と西辻さんは語ってくれました。

寺井さんは、社会の変化に対する取り組みが、まちづくりの分野では農業よりも遅れているといいます。「農業は今から20~30年前くらいに、現在の中心商店街などが面している跡継ぎ問題などが発生しています。だからまちづくりが今後行き着く姿として、農業から学ぶべきことは多いと思います。」とのこと。

■これからの農業と、まちづくりに共通するもの。

さらに、西辻さんから「今までの農業は間違っている」という意見が。「今までの農業はとにかく収穫量、取れ高が第一だったんです。でも農業はそれだけじゃない。農業という自然と関わることから、新たなライフスタイルを提案していくことが出来るような職業が農家なんです。そして僕はそうしたことをアカデミーで教えています。」

ここでも寺井さんが同意。「最近クリエイターでも農業に興味を持っている人って多いんですが、そういう人たちが興味を持っている農業っていわゆる第一次産業としての農業ではなく、今西辻さんがおっしゃられたような農業に近いものなんだと思うんです。それは棚田をやっている人にも通じるものがある。でも棚田をやっているおじいちゃん、おばあちゃんはその棚田というものの価値をなんとなく認識しながらも、それをうまく現代における価値に転換することが出来ない。そこをフォローしてあげることによって、実際に農業している人が素直に『農業っていいよね!この場所いいよね!』っていえるようになればいいですよね。」という、「過去に価値があったのに忘れ去られてしまったものを現代における価値に転換する」力が求められているということをまとめて、二人のトークセッションは終了しました。

最後に西辻さんからは、「しんどいときは畑に来てください。自然は決して勝てない、不変的なもので、そういうものと対峙するとなんだか気持ちが変わってくると思うんです。また、そういうものと常に対峙している人がいるっていうこともわかることが出来るので。」という、自然と対峙することの大切さを表した一言が。

約2時間にわたったトークイベント。プレゼンターのお二人、参加者の皆さん、お疲れ様でした。

寺井さんからは、「とにかくMAD Cityに一度来てください(笑)」という言葉とともに、「今の世の中なんとなくみんな暗くなってしまってると思うんです。でもそうやって悪いほうにみんなが考えてしまうからこそどんどん暗くなる。だから、自分と自分の身の回りの人だけでも『やれる!』って明るい気持ちになるようにすればいいと思う。一種の魔法みたいなものですよね。でもそうしなくちゃ変わらないと思うから。魔法をかけてください。」という明るい社会のための一言で締めて頂きました。

■「じぶんでつくるまち」とは?

今回のvol.10は実際に畑を作る第1部、「これからの自給自足的な社会とは?」ということを、先端的な活動をされているお二人のトークによって考える第2部という盛沢山な内容でした。参加者の皆さんからは、「実際に畑を耕すことが出来てよかった!あんなにきちんと体験できるとは思っていなかった。」という声や、「第2部の二人のお話を聞いて、農業やこれからについて考えるいいきっかけをもらうことが出来ました。」という声を聞くことが出来ました。

自給自足といっても、今の自分が実際に出来ること、やっていることはとても小さなことかもしれません。でも、そうした実際の小さな活動の積み重ねがいつか大きなインパクトとして広がっていったとき社会は変わっていく、gd松戸が目指す「自給自足できる街」が実現できる、そんな風に考えることが出来る一日となりました。

とてもいい天気で暑いくらいの中、参加してくださった皆さま、西辻さん、寺井さん、本当にありがとうございました!

[edit :殿塚建吾 text:原田恵]

原田恵/埼玉生まれ埼玉育ち。筋金入りのさいたまっ子。
小さい頃から家にあった住宅雑誌を愛読し、建築を志すも数字アレルギーのため断念。より自然に近いことをやりたいと大学で造園について学ぶ中で、人との出会いの楽しさに気付く。現在は大学院で、人が主役になれる都市計画やデザイン、まちづくりについて学んでいます。gd松戸サポーター/TX柏たなか駅高架下にて毎週土曜コミュニティカフェ「たなかふぇ」運営/土木・建築・都市について学ぶ学生組織GroundScapeDesignyouthメンバー

Twitter: mkuman