セックスワーカーの多くが、売春を恥辱な行為ではなく、ビジネスとして捉えていることが調査で明らかになった。その模様を、開発メディアganas記者の依岡意人氏に寄稿してもらった。





米国の首都ワシントンで「2012年国際エイズ会議」が7月22~27日に開かれた陰で、米国への入国を許可されなかったセックスワーカーらがもうひとつの“エイズサミット”を7月21~26日、インドのコルカタで開催した。

「セックスワーカー・フリーダム・フェスティバル」と題したこのサミットに集まったのは、英紙ガーディアンによると、世界40カ国のセックスワーカーら。参加者の多くは、米国の国際エイズ会議に出席するにも、米国のビザを取得できなかった人たちだ。オバマ米大統領は09年、HIV陽性者に対する入国規制を撤廃する方針を決めたが、米国の法律はいまだに、HIV陽性者と薬物使用者の入国を禁じている。

2011年、HIV陽性者は全世界で3420万人にのぼった。


このサミットに参加した団体のひとつが、インド西部のマハラシュトラ州に本部を置くNGO「バンプ」だ。97年設立のこの団体は、セックスワーカーの人権擁護とHIVの感染予防をミッションに掲げ、主に州都のサングリで活動している。5000人以上の会員をもつ。

バンプの会員のひとりで、セックスワーカーとして働くインド人女性は「もし私が結婚していたら、HIVに感染していたかもしれない」と話す。セックスワーカーは顧客とのセックスではコンドームの着用を要求できるが、夫には頼めない。もし夫がHIV陽性者だとすれば、感染リスクは高くなるからだ。

売春行為は一般的に、女性が貧しさから脱却する最後の手段と考えられている。ところが現実は少し違うという。

セックスワーカーの待遇改善を目的に、研究者や政治アナリスト、セックスワーカーなどが参加するネットワーク「パウロ・ロンゴ・リサーチ・イニシアティブ(PLRI)」が実施した「全インドのセックスワーカーに関する第一回調査」で浮き彫りになったのは、セックスワーカーの多くが売春を恥辱な行為ではなく、ビジネスのひとつとしてとらえていることだ。

セックスワーカーの中には実際、他の仕事に就いたが賃金が低かったり、労働がハードだったりして、セックスワーカーに転職した女性も少なくない。ところがセックスワーカーに対する社会の偏見は根強く、それが、セックスワーカーに対する暴力や人権侵害を生み、恥辱を与えている、とこの調査は問題点を指摘している。

バンプの目標は、こうしたステレオタイプ的な見方をする社会を変えること。セックスワーカーを被害者として扱うのではなく、女性をエンパワーメント(力を付けること)する活動のひとつとして位置づけているのが特徴だ。セックスワーカーの労働環境や人権の改善・回復を目指し、医師や警察、地方自治体などとも協働している。

HIVの感染予防の活動では、セックスワーカーだけでなく、顧客とその恋人、長距離トラックの運転手なども対象に含む。外国からの援助は望まず、あくまでも自らの力で問題解決を目指すというのがバンプのスタンス。こうしたバンプの取り組みはいまや、女性のエンパワーメントのモデルになると世界的に高い評価を得ている。


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