パパが会社を休み、育児に専念する男性の育児休業。これが進むと、女性の社会での活躍がさらに進展するとみられている。しかし、男性の育休取得は思うように進んでいないのが現状だ。「休業中に収入が減るのは困る」といった声が上がっているが、実際に育休を取得した男性たちは、異口同音に「育休によってこれまでにない視点が身についた」と語った。(オルタナS関西支局特派員=高野 朋美)

■男性の育休取得率はわずか2%

一年間家事と育児を担当した寺西一浩さん。「子育ての傍ら、昔の趣味を楽しむこともできました」

一年間家事と育児を担当した寺西一浩さん。「子育ての傍ら、昔の趣味を楽しむこともできました」

厚生労働省によると、2014年の男性の育児休業取得率は2.3%。政府が掲げる「2020年に13%」という目標値からはほど遠い。なぜ男性の育休取得は進まないのか。その大きな理由が「周囲の理解」と言われている。

日本では、育児・介護休業法によって、子どもが1歳になるまで、男女を問わず育休を取得することができる。ところが「上司や同僚に言い出しにくい」と二の足を踏む男性は多い。

そんな中、経済産業省は2012年度から、東京証券取引所と共同で「なでしこ銘柄」を選定。男性の育休促進を含め、女性活躍推進に優れている上場企業を毎年発表し、子育てと仕事を両立しやすい環境整備を促そうとしている。

■独自の取り組みで育休を促す

ところで、なでしこ銘柄に選ばれた企業では、どの程度男性の育休取得が進んでいるのだろうか。銘柄選定が今年3度目となる積水ハウス(大阪市)は、「2013年度に3%だった育休取得率が、2015年度には23%に上昇した」と言う。

「取得が広がったきっかけは、2年前から実施している『ハローパパ休暇』です」親しみやすいネーミングを付け、合わせて育休への理解を深めるマンガパンフレットを配布したり、上司から部下に育休取得を勧めてもらったりと、社内啓発に取り組んだ。

積水ハウスが発行した社員向け育休ガイド。制度の解説やサポート体制などがマンガを交えて分かりやすく掲載されている

積水ハウスが発行した社員向け育休ガイド。制度の解説やサポート体制などがマンガを交えて分かりやすく掲載されている

「育休制度自体は以前からあったのですが、男性社員自身が『制度を使っていいんだろうか…』と思い込んでいた節がありました。それがハローパパ休暇によって取り払われたのだと思います」と担当者は話す。

同じくなでしこ銘柄のダイキン工業(大阪市)も、育児のためのまとまった休暇取得を推奨することで、2014年度に子どもが生まれた男性社員の43.6%が取得。2007年度の5.8%と比べて大幅増となった。

今年からは、社内のメールマガジンで取得者の事例を取り上げるなど、育休を職場に浸透させる取り組みを強化している。「育児も介護も誰にでも起こりうるもの。お互い様ととらえる意識づくり、風土づくりが重要」と担当者は話す。

■育休が「働き方」を見直すきっかけに

男性の育休に対しては、誰もが好意的なわけではない。年配世代だけでなく、若い世代からも「休業中に収入が減るのは困る」といったマイナスの声が上がっている。だが、実際に育休を取得した男性たちは、異口同音に「育休によってこれまでにない視点や意識が身につく」と話す。

積水ハウス広報部の寺西一浩さんは、一年間の育休を取得し、フルタイムで働く妻に代わって子育てを担った。「男性も家事や育児をすることで、生活者視点が養われます。当社の場合は住宅が商品なので、子育ての体験をもとに、お客様によりよい住まいを提案できる可能性が高まります」。

ダイキン工業ほか、複数の企業が合同で開催した「ベストな共働きを考えるフォーラム」。仕事と家庭の両立について、主に男性社員に考えてもらうのが目的

ダイキン工業ほか、複数の企業が合同で開催した「ベストな共働きを考えるフォーラム」。仕事と家庭の両立について、主に男性社員に考えてもらうのが目的

ダイキン工業テクノロジーイノベーションセンターの安本竜志さんは、育休後、自分の働き方が変わったという。「わずか5日間の育休でしたが、子育てする妻の大変さが少し分かりました。育休後は、早く帰って子育てに関わりたいとの思いから、時間の使い方を考えるようになりましたね。育休中だけでなく、毎日の生活の中で子育てを支えることが大事だと気づきました」。

男性の育休取得はまだまだ少数派。だが、取得によって得られる気づきは、意外と大きいようだ。

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