新卒2年目で起業した福寿満希さんは「ソーシャルフラワーショップ」と名付けた花屋を3店舗構え、45人の障がい者を雇用する。特別支援学校に通う生徒の就職先が限られている現状に違和感を持ち、自分で受け入れ始めた。「ポテンシャルのある人が潰れてしまわないように受け皿になりたい」と意気込む。(オルタナS編集長=池田 真隆)

インタビューを受けるローランズ代表の福寿さん

ソーシャルフラワーショップは、3店舗のうち2店舗が就労継続支援A型の施設。店舗は原宿と駒込と川崎にある。各店舗で障がい者を雇用しており、9割が精神障がい者だ。

スタッフに求める就業時間は1日最低4時間。体調を見ながら働く日数は決めてもらうが、多くのスタッフは週に4-5日間働きに来る。業務は、花の水やりや店頭・オンライン販売への対応など。今年5月に日本財団と協働し、オープンした原宿店にはカフェを併設しており、接客やバックヤードでの作業も行う。

原宿店ではカフェを併設したことでお茶休憩に来た人が花も購入するという

A型の施設で働く障がい者の平均賃金は7万3000円(就労継続支援A型事業所全国協議会調べ)だが、ここでは月に15万円近く稼ぐスタッフもいる。福寿さんは、「命あるものに触れながら働くことで、責任感が芽生え、その姿勢が仕事にも役立っている」と障がい者雇用の手応えを話す。

花屋だからこそできる社会貢献として、一般就職を目指すスタッフへ花を通じたジョブトレーニングを行う。さらに、物流段階で廃棄された花を再資源化し、エコ名刺にする取り組みも行っている。
 
実は福寿さんはもともと障がい者雇用に関心があったわけではない。テレビで観たテニスプレーヤーのマルチナ・ヒンギスに憧れて、9歳からテニスを始めた。それ以来、テニス漬けの日々を送り、順天堂大学時代に出場した大会ではシングルスで全国3位まで上り詰めた。

大学卒業後はプロ野球選手などのマネジメントを行う会社に就職し、選手の社会貢献活動を担当した。アスリートを近くで支えているうちに、腕一本で生きる姿に、かっこよさを見出した。

そうして、福寿さんも「一生もののスキルで生きていきたい」と思い始める。仕事を通じて、スキルを磨きたいと考え、改めて働き方を見直したときに学生時代に習っていた「お花」を思い出したという。

学生時代にはテニスに明け暮れながらも、ひっそりとブリザーブドフラワーの技術を学んでいた
 

新卒で入社して2年目に会社を辞めて、フラワー業界に打って出た。親が自営業だったので自分で会社を経営していくことへの抵抗はなかったという。

独立した当初は無店舗でオンライン販売のみの花屋を始めた。しかし、差別化することができず、競合他社に勝つことができない日々が約3年間続いた。

自分だけのスタイルを模索しているとき、障がい者施設からの依頼で、花のアレンジを作るワークショップの講師を引き受けた。福寿さんは大学時代に特別支援学校の教員免許を取っており、教育実習のときに卒業後の受け入れ先がなくて引きこもりになってしまう生徒が多くいることを知っていた。

特別支援学校の教員免許を取った理由は、障がい者教育に関心があったわけではなく、「せっかくなので勉強しようと思ったから」という。ただ、特別支援学校での教育実習を通じて知った卒業後の進路課題に、「いつか私がこの子たちの受け入れ先をつくれたら」と胸を熱くした。

花屋を起業して3年目、たまたまワークショップで障がい者施設を訪れたときに、特別支援学校で感じた進路の問題が頭に浮かび、花屋を営む自分だからこそ、その問題にアプローチできるのではと考えた。

さっそく障がい者雇用をするために、東京赤坂に第一号となる店舗の準備を始めた。しかし、ここで思わぬ壁に当たった。障がい者雇用をするためには東京都に書類を申請しないといけないのだが、その書類に店舗のオーナーがサインすることを拒んだ。

福寿さんが何度も理由をたずねたが教えてもらえず、わずか半年でその物件を出ることにした。すでに2年契約で借りており、途中解約のため多額の損失を出してしまった。

大きな痛手を負った福寿さんだが、ここで諦めず新たな物件を東京駒込に見つけた。幸いにして、その物件のオーナーが視覚障がい者の支援を行っており、理解もあった。無事、書類にサインをしてもらい、こうして「ソーシャルフラワーショップ」が誕生した。

原宿にあるローランズ social flower&smoothie shopの店内

人気商品のスムージー

障がい者雇用に取り組み2年目だが、苦労は絶えない。突然会社に来なくなる精神障がい者のスタッフは珍しくない。一般同等の時給を支払うためには、経営者として、生産性を上げなくてはならない。

そのため最少人数でシフトを組む。一人欠けるだけで、店頭での接客対応に追われ、オンライン注文を受けた商品が納期に間に合わなくなる。結婚式場やレストランなどの法人注文が売上高の6割を占める主力部門なので、顧客から信頼を失ってしまうことは死活問題なのだ。

だが、作業に忙しいなかでも、来ないスタッフとは連絡を取り合い、その理由を聞き、話し合うことは欠かさない。「その時間は生産性がないが、スタッフをほうっておくことはできない」と話す。

経営者としてのやりがいは、スタッフの成長が見られたときだという。「働くことの楽しさを見出し、変わっていく様子を見ると、またがんばろうと思える」と笑顔を見せる。

福寿さんには今後3年以内に成し遂げたいある構想がある。それは、障がいがある若者向けの「学校」をつくることだ。

その学校では、働くためのスキルやビジネスパーソンとしての言葉遣いなどを教える。実際に障がい者を雇用したことで、働くための準備が整っていない人がいることに気付いた。

社会人としての知識がないままで、適正年齢になってから働いても、長続きしない場合が多い。働く前の段階での教育が必要だと考えた。

福寿さんは、「多様性が認められる社会をつくっていきたい」と何度も口にした。「健常者にも苦手なことはある。障がい者は苦手な領域の幅が広いだけ。多様性が認められる社会を目指して、努力する障がい者の社会での居場所をつくりたい。前に進みたいと思っている人の背中を押したい」と力を込めた。
 

福寿満希さんローランズ代表):
1989年石川県生まれ。大学卒業後、プロスポーツ選手のマネジメント企業での勤務を経て、2013年に株式会社LORANS.を設立し、花のビジネスを開始。ホテルロビーの装飾やイベント向けのフラワーデザインなどを担当してきたほか、「生花店のスタッフに迎える」という新たなアプローチで障害者雇用の拡大に取り組んでいる。 


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