元陸上選手の為末大さんが18日、現役引退後、初の活動である「為末大学」をスタートさせた。為末さんの、「議論して物事を決めていきたい」という想いから生まれたプロジェクトである。

議論できる人間を育てたいと話す為末さん


プロジェクト費用の180万円を、為末さん自身がクラウドファンディングで集めたことから世の中で注目が集まっていた。

当日は、国連大学ウ・タント国際会議場に約160人の参加者が集まった。壇上には、為末さんの他に、経済学者の柳川範之さん、医師の山本雄士さんがあがり、スポーツ、経済、医療のテーマで参加者とともに約3時間議論した。

スポーツのテーマで出された質問は、「五輪で金メダルを獲得した選手が、『誰にも感謝していない。個人の実力だから』」と言った発言を許せるのかどうかであった。

会場の約7割は許せると判断した。理由としては、「アスリートは結果を出せばいいから」、「競技以外で何を言ってもいい」「パフォーマンスとして許せる」などがあがった。会場のこの反応に対して、為末さんも、「アスリートはもっとオープンに話していいのだと発見した」と驚いた様子だった。

興味深かったのは医療のテーマで出された質問である。質問は、「救急救命に20歳の若者と75歳の老人が搬入されてきた。二人とも同じレベルの傷を負っている。どちらを先に助けるか」というものである。

会場の約8割が若者と手をあげた。「若者には老人と比べて将来性があるから」、「助かる見込みが高い方を優先して助ける」などの意見があがった。一方、「人に優劣をつけることはできないので、サイコロで判断する」という意見も出た。

この意見に対して、山本医師は、「サイコロで判断したことを遺族に納得のいくように説明できれば良いが、到底理解を得られないだろう」と話した。参加者は、「正直に言って、私は判断したくない」と答える場面もあった。

会場からは終始、活発に意見が飛んだ


どのテーマでも、取り上げられた質問は、参加者それぞれの倫理感や信念を問うものであり、立場によって回答が変わった。参加者からの、「議論する度に自分の中での答えが変わった」という声が印象的だった。

議論の終わりに、壇上にいる3人は感想を話した。

柳川範之さんは、「倫理や平等などは、細かい状況ではよく分らなくなる。それでも、何かを決めていかなくてはいけない場面に直面することがある。議論とは、そのような場面で生きる」と話した。

山本雄士さんは、「教科書では教えてくれない質問を用意した。人の心を揺さぶる質問で、ある意味いじわるな内容となっている」と話した。

為末大さんは、「社会の中で生きるとは、みんなで誰かをサポートしながら生きていくこと。しかし、そのようにして決めたルールや基準に反した人が出てきたときにどう対処するのかが問われる」と話した。

為末さんは引退を決めた背景についても触れた。引退を決めた要因としては、為末さんの特徴である長いストライド(歩幅)が出なかったからだという。それが決め手となり、納得して引退を決断できたという。

為末大学の今後の展開としては体育学部や医療学部を創設して、医療、教育、街づくりに関して議論していきたいと話した。ジャーナリストをゲストとして呼び、スポーツの新しい可能性を作っていきたいという。(オルタナS副編集長=池田真隆)


為末大学