アメリカの食文化に多大な影響を与えたアリス・ウォータースの著書『The Art of Simple Food』の完全日本語版が7月28日出版された。出版から2ヶ月が経った今、アリスの美味しくてシンプルなレシピを紐解く。

アートオブシンプルフード


カリフォルニア大学のある学園都市バークレー。予約の取れないレストランとして有名な「シェ・パニース」のオーナーであるアリス・ウォータースはアメリカに“美味しい革命”を引き起こした。

1960年代、アメリカではファーストフードが日常食となり生活習慣病患者が増え続けた。そんな中で、オーガニックフードはカウンターカルチャーの料理として登場した。アリスは地産地消を提唱し、近隣の有機農業や畜産農家から直接食材を購入するファーマーズマーケットを全米に普及させた。

レストランは店から50マイル以内にメインの契約農家数件と多くの小規模農家とのつながりをもつ。豊作の時期には勝手にレストランに食材を送ってくる農家もあるため、メニューはいつもオリジナリティーに溢れている。シェ・パニースのペストリーシェフ、スーチンさんは『以前、たくさんの虫に食べられて見た目の悪いレタスが農家から送られてきたが、アリスの判断で「レースの葉のサラダ」としてサーブした』とはにかむ。

9月19日渋谷デイライトキッチンで行われた出版記念イベントの様子


コース料理に欠かせない旬の有機野菜のリーフサラダや熟れた果物のパイは、シンプルな調理法だが素材のそのままの味と食感を楽しめる絶品料理だ。

熟れた果物のパイ


アリスは「良い料理を作るのに、技術や秘訣はいりません。必要なのは自分の感性を磨き、五感をフルに働かせること」と話す。レストランでは何度も味見をしシェフ同士が話し合
いながら味付けの微調整をするという。

ディナーの準備が終わると全スタッフでその日のフルコースを試食し「今日のサラダは誰が作ったの?」「おいしいね!」「塩が足りないかも」と楽しく話しながら反省会が開かれる。

仲間とひとつのテーブルを囲んで食事をすることで、他人と食事を楽しみ食べ物への感謝の気持ちを共有できる。アリスが大切にしている「Eat together.Remember food is precious」の概念が表れている。

私たちが何を食べるかの選択が他者へどう影響するのか。地元で生産された食材を選択することで農家を支援することにつながり、そして健全で美しい社会につながるとアリスは語る。

食卓にあがる料理のバックグラウンドが見える、そんな食の選択をしたい。(オルタナS編集部員=川久保亜純、写真=オルタナS副編集長池田真隆)