5名限定の小規模な朝会が10日、都内のカフェで開催された。話されている内容は、共通価値の創造といわれる「CSV」についてだ。主催は、2011年からCSV研究を行い、日本国内でCSVの普及促進を行う非営利組織CSVJapan。

朝会の様子


朝会は、一般社団法人鬼ごっこ協会理事でアミカ企画(東京・世田谷)代表取締役社長の羽崎貴雄氏の進行のもと、参加者が適宜質問を投げかけるスタイルで行われた。

CSRの新しい概念CSVとは

「CSV」はCreating Shared Valueの略で、世界的経営学者マイケル・ポーターが提唱したCSRの新しい概念である。リーマン・ショック以降、次々に倒産していく企業を見てポーターは、企業がこれからどう生き残っていくのかを考えた末、CSVを提唱したと羽崎氏は話す。(http://www.hks.harvard.edu/m-rcbg/fellows/N_Lovegrove_Study_Group/Session_1/Michael_Porter_Creating_Shared_Value.pdf

CSV研究を行う羽崎氏によると、「『CSR』は社会的“責任”の意味が強いが、『CSV』は企業が“事業”として、利益を生み出しながら、行政や市民、非営利組織などの地域と共に、新しい共通価値を創造していく考え方」だという。

一見慈善活動に見えても、企業の事業戦略に基づいて行うのがCSVの特徴である。例えば、食育プログラムを通じて、その地域の新規市場を開拓していく取り組みなどもそうである。

CSRからCSVへのシフト

具体的にどういった企業がCSVを行っているのか。

◯グローバル企業
世界的に有名な企業は既にCSVを行っている。
Google、P&G、ネスレ、ジョンソン・アンド・ジョンソンなど。
先陣を切るネスレでは、CSVの事業部が立ち上げられている。

◯国内企業
野村証券、三井住友信託銀行、は「CSV」と銘打って事業を行っており、トヨタ、JTB法人東京はまさに始まったばかりだそうだ。JTB法人東京はCSVの研究会を立ち上げた。

こうした例を挙げた上で、羽崎氏は、「感覚から言って、来年度から大企業はCSVの方向へ舵を切るだろう」と述べた。グローバル企業は「CSR」から「CSV」へシフトしているようだ。

CSV事例集

Teach For America(TFA)

2010年に全米文系学生就職先人気ランキング・ナンバー1になった教育NPOだ。アメリカ国内の一流大学の卒業生を、教員免許の有無に関わらず大学卒業から2年間、国内各地の教育困難地域の学校に常勤講師として赴任させるプログラムを実施している。ここを卒業すると大手企業に就職できるサイクルができ上がっているそうだ。

企業側からすると、TFAで育った優秀な人材をそのまま雇いたいので、お金をTFAに入れ、良い人材をそこから引っ張っていくことも行われている。ゴールドマンサックスなどの名だたる大企業が出資しているそうだ。

西武信用金庫:eco.定期預金

定期預金の利息のうちの20%を環境系NPOに資金提供するこの仕組みにはCSVとなる3つのポイントがある。

ポイント1:NPOは西武信用金庫に口座を開設しなければならない。
ポイント2:エコ活動参加者は預金をしている客。
ポイント3:店舗で集客。集客も社員が行う。

信用金庫は地域の人が全て客層になる。大手銀行にできない、信用金庫の強みを活用したCSVの事例である。羽崎氏は、「ローカルに根ざした企業がこれから生き残っていくのでは」と見る。

バルセロナ:ソシオ

スペインの強豪サッカーチーム、バルセロナは、スポンサーをつけず、「ソシオ」と呼ばれるファンの会費で成り立っている。ソシオには誰でもなることができ、(もちろん企業も)会長選挙の投票権や、クラブに対して意見を発言できる権利を得ることができる。企業と個人が同じレベルでそのチームを支える存在になっているのだ。

成功するCSVの秘訣とは

では、CSVを実践するために企業は何をすればいいのか?

CSVを行うには、「具体的共有物」は何か。そして、如何に共有するものを見つけ、共通価値を共有することができるのか、ということが課題になってくる。

羽崎氏はコンテンツの成功の秘訣を、「全てのステークホルダーが関わることのできるコンテンツ」と語る。

「企業やイベント会社だけで行ってはだめ。実行した後に何ができるのか。見切り発車ではなく、この可能性という前提の上で行うことでうまくいくのではないか、と思えるものを探る必要がある」と、語った。(オルタナS編集部員=山田衣音子)


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