雑誌『ビッグイシュー』を知っているだろうか。イギリスが発祥の雑誌で、ホームレスの人の救済(チャリティ)ではなく、仕事を提供し自立を応援することを目的にした事業である。ホームレスの人々が雑誌を販売することで、一部が彼らの所得になる仕組みだ。
駅前などでホームレスの方が雑誌を持って立っている姿を見たことがある方も多いだろう。その手に持っている雑誌が「ビッグイシュー日本版」である。ただ一方で、「どんなものか分からないから声が掛けづらい」という人もまた多いだろう。
そうした声に答えて、ビッグイシュー設立9年を迎える今年9月11日、この雑誌のウェブサイト「ビッグイシュー・オンライン」が開設された。ブロガーで起業家のイケダハヤト氏が、このサイトの編集長だ。
ビッグイシューの本誌を身近なものにしてもらおうと、本誌で過去に掲載されたものからピックアップしてサイトに載せている。内容は、レシピ、原発に関しての連載、インタビューなど多岐にわたるが、その中でも「ホームレス人生相談」は特に人気のコーナーだ。
「ホームレス人生相談」は一般の読者から投稿された相談に対し、ホームレス状態にある販売者が答えるというもの。人生相談だけあって、相談内容の中には深刻な悩みも多く見られる。その悩みに答える、ホームレスの言葉がまた、いいのだ。
例えば「泣いたり怒ったり、陰口がひどい実家の母に悩んでいます」(9月19日掲載)という相談に対してのホームレスの答えの中に、「愛すべき人がそばにいるということは、それだけで幸せなことだと僕には思えるんだね。」という一文がある。
ホームレスのおじちゃんにも家族がいた時期があった。誰かの子であるのはもちろん、中には誰かの夫であった過去があり、誰かの父親であるホームレスの人もいるのだ。色々な事情があり、ホームレス状態となり「ビッグイシュー日本版」の販売や他の単発のアルバイトをして生きている。
相談への答えの中で、ホームレスの方の人生に触れることができる。どうしてホームレスになったのか、実家の親との関係はどうなっているのか、会えなくなった子供のことをどう思っているのか。
また、「販売者ストーリー」というカテゴリーでは、ビッグイシュー日本版を販売しているホームレスの方の声が書かれている。多くの人は販売してお金を稼ぐこともそうだが、そこで生まれる誰かとの接点や、声を掛けてくれる常連との会話を何より嬉しく思っているのを知ることができる。
このサイトでの記事に興味を持った方は、一度雑誌版を購入してみてはいかがだろうか。(販売場所はこちらから)
一冊300円の雑誌は、販売者であるホームレスの方が140円で購入し販売している。一冊売れば、160円がその人の収入になるということだ。自ら働き、収入を手にすることが、ホームレスの金銭的そして精神的な自立の支援に繋がる。
先に挙げた「ホームレス人生相談」は、他の雑誌での相談コーナーにはない、もっと人間のリアルな欲や大切なものに気付かせてくれる答えがある。それはきれい事ではない、街角にいる一人のホームレスの人生が映し出されているのだ。(オルタナS編集部員=大森清香)