日本では新卒一括採用が主流だが、海を渡ると、ギャップイヤーや卒業後のボランティア活動を経て就職する流れがある。日本とイギリスのハーフであるKai childs(カイ)さん(22)はイギリスの大学を卒業後、アジア5カ国を50日ずつ周り、社会変革活動に取り組んでいる。昨年9月からプロジェクトを始め、日本、マレーシアでの旅を終え、現在は3カ国目のカンボジアに到着している。(オルタナS副編集長=池田真隆)

マレーシアでプロジェクトを実施するカイさん(写真右端)

カイさんはイギリス人の父親と日本人の母親から生まれた。日本で生まれ、育ちは、日本、台湾、イギリスなどアジアを中心に複数の国で育った。今回の旅を企画したのは、イギリスのウォーリック大学を卒業してからだ。在学中からソーシャルセクターの動きに興味を持っていたカイさんは、生まれ故郷である日本を出発点として、アジアを舞台にソーシャルイノベーションを起こそうと決意した。

これまで、日本とマレーシアにそれぞれ50日間ずつ滞在し、両国でプロジェクトを無事成し遂げた。日本では、東京と岩手に行き、東京では社会企業家など複数人への取材をし、岩手県では震災被害に遭った陸前高田市広田町の風景や町民へインタビューした様子を収めた動画を制作した。

広田町は、ワカメが豊富に採れる広田湾に面した漁師の町だ。震災時には、広田湾と太平洋の両側から津波被害を受け本島と分断され、陸の孤島となり、支援の手が遅れていた。

広田湾。太陽の光を浴びて海が黄金色に輝くこともある

人口3500人のうち死者・行方不明者は50人を超し、1112世帯中400の世帯が全壊・半壊となった。町に1校あった中学校も津波で流され、150隻あった漁船も1隻を除いて全てなくなった。

カイさんの広田町での滞在期間にプロジェクトをサポートした、セットの三井俊介さんと煙山美帆さん

広田町では、NPO法人SET(セット)の協力のもと、2週間で30人以上の町民に話を聞いた。「ぼくが広田町で感じたこと、学んだこと、経験したことを正直に伝えたい」との思いで編集した動画は、15分余りにまとめられた。

カイさんが編集した動画↓

■観光地の光と影

2カ国目に選んだマレーシアでは、香港出身の友人と協働でプロジェクトを行った。日本では、「話を聞く」という作業に重点を置いていたが、マレーシアでは、コミュニティーの課題に直接対応することを模索した。

考えたのが、観光名所である道に、地元の人の声とその建造物の歴史を知れるオーディオ機械を置くことだった。観光客がオーディオ機械を通して、地元の人たちの気持ちを知ることによって、その土地への理解を深めることが狙いだ。

地元の人の話を聞くカイさん(右)

実施した土地は、マレーシアのペナン島にあるジョージタウン。ジョージタウンは2008年にユネスコ世界文化遺産値として認められ、観光客が訪れる人気スポットになった土地だ。

観光業として栄えているが、観光のせいで生活に支障をきたしている人もいる。カイさんは、「不動産価格が急激にあがり、観光客向けの店やモールも増えた。文化遺産値になったせいで長年その文化を受け継げてきた地元の人たちが追い出されているという皮肉なシナリオがおこっている」と話す。

カイさんが実行したプロジェクトは、ジョージタウンのなかでも観光客が一番集まるアルメニアンストリートに住む10軒を対象にした。

プロジェクトを実施したアルメニアンストリート

この道の特徴は、ジョージタウンのアイコンともなっている壁画である。道に訪れる観光客の大半は文化遺産より壁画の写真を撮りに来ており、何世代もそこで暮らしてきた地元の人たちには無関心になっていた。

そこで、オーディオ機械に地元住民の声やその土地の歴史を入れることで、観光客への深い理解を促進した。

■就職に「経験」はいらない

今日現在、カイさんは3カ国目であるカンボジアに到着したところだ。同国でも、課題を見つけ解決するためのプロジェクトを実践する予定だ。5カ国を周りきったあとに、イギリスもしくは日本で就職する予定だ。

日本では、新卒一括採用が主流であり、大学卒業後に世界を周り、見聞や実体験を深めてから就職する人は少ない。イギリスでは新卒一括採用という考えが定着していなく、そもそも「経験」がないと就職できない世界である。

イギリスでは「内定」という概念が無い。なぜなら新卒で取って教育させることをしないからである。まずはアルバイトやインターンで雇い、それからしばらくして正社員として雇用する。

「経験」させてから進路を決めるイギリスと「経験」がまだ無いが進路を決めさせる日本。どちらもメリットとデメリットはあるだろうが、あなたが面接官ならどちらの学生を採用するだろうか。

・カイさんのプロジェクト「THE 50DAY CHENGEMAKER」