日本企業の社員がアジア新興国のNPOへと渡り、本業を生かして現地社会の課題を解決する「留職」の波が、日本にも到来しそうだ。その波を起こそうとしているのは、NPO法人クロスフィールズ。同NPO代表の小沼大地さん(30)にインタビューを実施。日本の大企業と途上国のNPOをつなぐ取り組み、日本のNPOセクターの課題や可能性などについて聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田真隆、編集部員=佐藤慶一)

小沼代表


——現在、ベネッセやNECなど6社の企業が「留職」を導入しています。企業はどのようなことを求めていますか。

小沼:企業が求めていることは、第一には「人材育成」です。海外に市場を広げたいものの適任者がいないという企業や、グローバル人材を育成する新しい手段を求める企業が増えていることが、「留職」の導入につながっていると感じます。

また、「途上国の市場開発」にも需要があります。国内の研究所の建物に閉じこもってずっと考えているよりも、現地社会を肌感覚で感じることがますます大事になってきています。社会課題の現場で、限られたリソースで難しい課題に立ち向かってこそ、イノベーションははじめて生まれます。途上国のNPOは難しい課題に少ないリソースで取り組む組織体であり、イノベーションの種を見出すには最適な場所なのです。

ただ、「人材育成」「途上国の市場開発」という2つのニーズのさらに裏側にあるのは、日本企業の抱える閉塞感です。多くの日本企業において、若者はチャレンジ意識が低く、内向きで元気がないと認識されてしまっています。でも、もともと元気がないはずなどなく、単に挑戦する機会が少ないだけなのです。会社の枠を超えて国外で課題に挑む「留職」は、そうした人たちにとって絶好の挑戦の機会になると期待されているのだと思います。

——アメリカでは、2010年に全米文系学生就職ランキングで、グーグルやアップルを抜き1位になったのは、NPOティーチフォーアメリカでした。ティーチフォーアメリカは大学を卒業した者を数年間、教師として派遣します。教師の経験を終え、世界的に有名な企業へと就職します。キャリアアップのために、多くの優秀層な若者の支持を得ています。留職にも、キャリアアップの点で同じような印象を受けるのですが。

小沼:その通りです。実は、日本でティーチフォーアメリカのようなモデルを成り立たせるにはどうすればよいのだろうかと考えたことで、留職というコンセプトにたどり着いたという側面もあります。

アメリカではティーチフォーアメリカと同じように、ピースコー(米国版の青年海外協力隊)も就職ランキングで上位です。これは残念ながら日本の青年海外協力隊とは対照的なのですが、その違いは、プログラムが終わったあとのキャリアパスにあると僕は考えています。

就職ランキング上位で優秀な人材が集まってくるピースコーを、アメリカ企業は高く評価しています。そのため、卒業生たちは次々と人気企業へと就職していきます。そして、彼らはピースコー時代に培ったリーダーシップを生かして業務で活躍し、企業は更にピースコーの途上国経験を高く評価するようになるのです。

このような正のスパイラルをどうやって日本企業で起こすのか。そのことをさんざん考えた結果、途上国経験をした社員が自社に帰ってきて活躍するという「留職」の仕組みをつくることに僕は行き着きました。

——アメリカでは「留職」の取り組みが人気を博しています。これは、アメリカ人の「枠にはまらない性格」が留職と親和性があるからだと思います。日本人が持つ、良い意味で「枠にはまりたがる」性格では、異文化に行くと縮こまるのではないでしょうか。


次回は、1月22日(火)に掲載します。小沼さんが国内企業に留職が合う理由を多面的に分析します

クロスフィールズ

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