ニューヨークのタメシガキ

――具体的にお国柄とは。

寺井:例えば、中国では「疲れた、お金がない」などの後ろ向きな言葉がたくさん描かれています。その理由の一つは、中国はネット規制が厳しい社会なので、鬱憤を晴らす捌け口がないからではないかと推測しています。彼らはタメシガキに鬱憤を晴らす場所を求めているのではないでしょうか。他にも、インドでは数式が多かったり、アルゼンチンでは陽気でカラフルな色彩が多く見られたりと、国によって多種多様なんです。

先進国と途上国とでも違いが見られます。途上国では、筆圧が強かったり、色々な角度で試したりと、本気度の高いタメシガキが見られます。買い物で失敗したくないという思いや、不良品の多さが現れているのだと思います。

――探求心に突き動かされているというわけですね。

寺井:何事にも言えることですが、少しかじっただけでは本質も楽しさも見えてこないですよね。自分には才能がない、これは自分には向いてないと途中で諦めてしまうのは非常にもったいない。私の場合は、ベルギーのClipsで出会った最初のタメシガキの衝撃がいまでも忘れられないんです。それを超えるタメシガキを探したいという想いがあるのですが、未だに出会えていません。最初に抱いた気持ちを大切にすることは、何かを継続する一つのポイントではないでしょうか。

――今後の展望を教えてください。

寺井:タメシガキを100カ国集めた暁には、それぞれのお国柄を分析して「タメシガキによる文化人類学」を打ち立てたいんです。楽しむことももちろんですが、私はタメシガキを通じて人間の本質を読み取れるのではないかと考えています。無意識に描かれるものなので、そこには必然的に人間の本質が現れています。世界中の人がどんなことを考えているのか、なぜこんなことを描いているのか、そういうことが気になるんですよね。

そして将来的には、タメシガキの展示をフランスのルーブル美術館でやってみたい。タメシガキという存在自体は皆さん知っているものなので、言葉が通じなくても十分に楽しんでもらえるということが今回のベルギーでの博覧会で実感できました。タメシガキは無意識から生まれる現代アートです。ルーブル美術館に展示されていても、何ら違和感はないはずです。

世界タメシガキ博覧会
http://tameshigaki.org

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