――タメシガキとはどういったものなのでしょうか。

寺井:タメシガキとはご存知の通り、文房具店に備え付けられたペンの書きご心地を試す紙です。あいうえお、地名や人名が多いですが、言葉にならない魂の叫びがそこに見え隠れしていることもあります。世の中のほとんどのものは人の目を気にして作られた世界だと言えますが、タメシガキは誰かに見せるために描かれているわけではないんです。だからこそ人間の本質的な部分が現れていますし、まさに「無意識のアート」と言えるのではないでしょうか。

その時代に流行っているものがタメシガキにも見て取れますし、テレビのようなものと捉えることもできます。タメシガキを見ればいまの流行がだいたい把握できるので、つい最近テレビを捨てたところです(笑)

――収集に至った経緯は。

寺井:2007年に、ベルギーのアールストにある”Clips”という文房具店を訪れたのがキッカケでした。当時は世界放浪の旅に出ていて、その中でふらっと立ち寄ったのがこのお店だったんです。これまでもタメシガキはおそらく何度も目にしていたはずですが、大抵の人と同様で意識して見るということはありませんでした。ベルギーで出会ったタメシガキは、お洒落でかわいらしく、これは現代アートだなと感じるほどの衝撃でした。

このお店で頂いたタメシガキを皮切りに、6年間収集を続けています。私自身が実際に訪問して収集したのは21カ国ですが、活動に共感してくださる方々の力添えもあって、現在では97カ国・約1万点のタメシガキを集めるに至りました。

――タメシガキの面白さとは。

寺井:「無意識のアート」という言葉に、タメシガキの魅力が集約されています。不特定多数の人が一枚の紙に文字や記号、イラストを、それも無意識に描くものですから、まるで現代アートのようになるんです。普通であればゴミとして捨てられてしまうようなものが、少し視点を変えればアートとして人々に楽しんでもらえるツールに生まれ変わる。国によっても描かれる内容は様々ですし、これは面白いですよね。

フランスとアフリカの絵画には基本的に違いはありません。それはなぜかと言うと、人に見せることを前提に描かれているから。タメシガキは無意識に描かれるものなので、人間の素の部分や、その国のお国柄を垣間見ることができるんです。

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