震災から2年が経過する中で、地域の志あるリーダーたちによる新たな「仕事づくり」が着々と進んでいます。ETIC.は、東日本大震災以降、復興のための活動を続けているジョンソン・エンド・ジョンソンのサポートを受け、「ジョンソン・エンド・ジョンソン × ETIC.右腕派遣プログラム」を開始。 東北の新しい「仕事づくり」を牽引するプロジェクトのもとへリーダーの「右腕」となる人材を派遣することにより、現地の新たな仕事づくりをサポートすることを目指しています。
今回は、右腕派遣の対象となるプロジェクトを選抜する選考委員の中から、ジョンソン・エンド・ジョンソン 日色保代表取締役社長と、日本財団公益・ボランティア支援グループ 東日本大震災復興支援チームリーダーの青柳光昌さんに、プログラムに寄せる期待や、企業が復興支援に取り組む理由について伺いました。聞き手はETIC.の宮城治男代表理事です。
■水を配るのではなく、井戸を掘る方法を伝えたい
宮城:まずは日色さんに、なぜジョンソン・エンド・ジョンソンとして、右腕派遣プログラムをご支援していただくことになったのか、プログラムへの期待を含め、お聞きしたいと思います。
日色:ジョンソン・エンド・ジョンソンは、世界中で活発に社会貢献活動を進めています。Our Credoにもあるように、社会貢献に関わることが、義務感ではなくカルチャーとして定着していると思います。その基礎としてあるのは、企業として「良き市民」でありたいという想いです。ですから、社会貢献活動においても、「寄付をしたから、企業としての責任は果たしました」ということはあり得ません。私たちが直接手を動かすことによる効果は限定的です。一方で、パートナーである支援先のNPOがどんな団体で、どんなビジョンをもって活動しているのか、そして私たちがお手伝いしたことが、成果を生み出す上でどう活かされているのかということには、支援する以上は 責任を持とうと思っています。
宮城:良き企業市民として、実社会によい変化を生み出すことに責任をもって取り組む、ということですね。そのことと被災地に人を送る右腕プログラムとは、どのように繋がってきますか。
日色:私たちも、大震災の直後には短期的な物資や資金の支援をしました。ですが、震災から2年半が経過した今では、より息の長い支援をしていきたいと思うようになりました。水が足りない所に水を配ることも重要ですが、やはり井戸を掘る方法を伝えたほうがより効果的かつ持続性があると思います。右腕派遣プログラムは、復興の担い手を送ることで地域のニーズを持続的に満たし、地域経済の循環を創出します。この点が、私たちが大事にしたいこととマッチしていました。
■被災地での挑戦は、日本全体にとって大きな財産になる
宮城:地域に持続的なインパクトを出し続けるということは、我々もこだわっている点です。今のお話につなげて、震災以降ずっと復興支援に取り組んでおられる日本財団の青柳さんからも、今の問題意識についてお聞きしたいと思います。
青柳:日本財団はもともと本業としてNPO支援に力をいれてきました。そういった流れもあり、今回の震災でも様々な支援を進めてきました。その中でひとつ重要なことは、支援そのものに加えて、こういった活動の担い手をいかに育てていくかということです。これは災害時に限ったことではありません。ETIC.の右腕派遣プログラムでは、ビジネスパーソンなど、地域には珍しいタイプの人材が送り込まれることで、右腕本人だけでなく、地域の問題解決力が向上する可能性があると思います。
宮城:地域に担い手が増えていくことは、非常に重要だと思います。青柳さんがその点にこだわる理由についても、お聞かせいただけますか?
青柳:これは少し個人的な想いになりますが、首都圏から地方へ人材が流れる仕組みをつくっていきたいと思っています。東北に限りませんが、戦後日本の経済発展を支えたのは、地方から首都圏に出ていった人たちがいたからです。それが21世紀の現在までそのまま続いており、人材を輩出し続けた地域が苦しくなっているように思います。今後の日本は首都圏一極集中から多極化へと、緩やかに変化していくのだろうと予想しますが、そのモデルを東北からつくっていけたらと思っています。
宮城:震災から2年半が経った現在でも、復興というテーマに興味を持ってコミットしようという人がいらっしゃるということは、とてもありがたいことだと思います。震災直後であれば「何かをしなければ」という世論の勢いもあったと思いますが、今は何もしなかったとしても、後ろ指を指されるような状況ではありません。とはいえ、 これからが、現地の復興においては正念場であり、ビジネスセクターの協力が必要になってくるタイミングだと思っています。
日色:復興支援というと、短期的な救援というイメージが強いのかもしれません。私は、選考会で拝見したプレゼンテーションの多くが、被災地特有のものではなく、どの地域でも将来的に取り組むべき社会課題に挑戦していることに少し驚きました。人口減少や高齢化などの社会課題の顕在化という意味では、震災は被災地の時計の針を10年ほど進めたと思います。いずれ他の地域でも、遅かれ早かれ同じような社会的な課題が顕在化してくることを考えると、今彼らが取り組んでいることは、壮大な実験であるともいえるかもしれません。被災地でのこのような試み は、今後の日本にとって大きな財産になるのではないかと思います。
■良き企業市民であるためには、企業の評価尺度を超える必要がある
宮城:起業家のプレゼンテーションを直に見ると、彼らが希望をもって地域づくりに挑もうとしているのが伝わってきて、いつも元気をもらいます。ぜひ、選考会に参加された感想もお聞きしたいと思います。
日色:一番驚いたのは、各プロジェクトに対する自分の評価が、プレゼンテーション拝見直後と、選考委員の皆さんとのディスカッションを経てからでは、劇的に変わったことです。
宮城:それは面白いですね。どのような変化だったのでしょうか?
日色:私は企業経営者としての視点から、限られた時間と経営資源の中で、どういう結果を出すのか、という視点で各プロジェクトを評価してしまいます。つまり、事業がどういう成果を出すのか、そしてそれが実現可能なのかを問うわけです。でも、本当に広い視点に立てば、若い人たちが、日本が抱える社会的な課題を試行錯誤しながら解決していくというプロセスに価値を見出すことが大事なのだ、ということがわかります。その観点からみれば、事業性だけで判断することが、適切ではなくなってくるわけです。
宮城:その点について、もう少し詳しく伺いたいと思います。
日色:ジョンソン・エンド・ジョンソンは医薬品や医療機器の開発などヘルスケアを事業ドメインとしています。ヘルスケアのイノベーションは、アンメットニーズ、つまりまだ満たされていない医療上のニーズから始まるのです。ある疾患に対して、まだまだきちんとした治療方法が確立されていないというところから、新薬や医療機器の開発につながる。ただ、ビジネスである以上、最も事業ポテンシャルが大きいところから経営資源を配分していくことになります。ところが、起業家のプレゼンテーションを拝見していると、解決したい問題の着眼点が非常にユニークなのです。一方で、達成したいことやインパクトの大きさ、事業の見通しさえも不明瞭だったりします。これをビジネスと同じ尺度でとらえたら、決して評価は高くならないでしょう。しかし、そこでふと根本に立ち返るわけです。私たちが実現したいのは地域社会への貢献であったと。そう考えた時、企業の固定化された尺度から脱却して、広い評価軸をもって接することが、本当に良い企業市民であるために重要なのだと気づいたのです。
宮城:あの場だけで、そこまで深く読み取っていただけるのはさすがだと思います。地域の取り組みと直に接する中で、企業市民としての見識が広がるというのは面白いですね。青柳さんもたくさんの企業の方々と現地をまわられていると思いますが、その中でどんな気づきがありましたか。
青柳:企業市民という言葉は昔から使われていますが、復興支援を通じて、本当の意味がわかったということは少なからずあると思います。日色さんがおっしゃるように、被災地の現場で、地域住民ひとりひとりの多様性を認識して活動する中で、本当に言葉が腑に落ちるということはあっただろうと。企業から派遣されて現地にはいった方は、仕事で活躍しようとはりきっていくわけですが、大抵は事前の予想と現実のギャップを目の当たりにします。そこで、それまでの価値観や評価尺度ではうまくいかないということに柔軟に気づき、現地のステークホルダーと快い関係性を作っていける人は、本当にいきいきと仕事をしています。現地での活躍というのは、「何億円の事業を作りました」というような話ではなく、「違いや多様性を認め合いながら、そこに自分をあわせながらやっていく」ということなのでしょうね。その結果、被災地にとっても本人にとってもハッピーな結果がうまれるのだと思います。
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*この記事は、「みちのく仕事」から転載しています。