ETIC.がジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社のサポートを受けて実施する、「ジョンソン・エンド・ジョンソン × ETIC.右腕派遣プログラム」。前編に続き、右腕派遣の対象となるプロジェクトを選抜する選考委員の中から、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 代表取締役社長・日色保さんと、日本財団公益・ボランティア支援グループ 東日本大震災復興支援チームリーダー・青柳光昌さんにお越しいただき、プログラムに寄せる期待や、企業が復興支援に取り組む理由についてディスカッションした内容をレポートします。
■「なぜ今、企業がNPOのリーダーシップに注目するのか?」(1)
■NPOのリーダーシップには、グローバルなビジネス・リーダーの要素がたくさんある
宮城:現地に入っていきいきと活動されている方にふれることで私たちも勇気づけられますね。「右腕」の方々 が東北に入る前後で、人間として進化していると感じるほどに変化することもあります。困難を克服して何かを掴むプロセスは、何物にも代えがたいと感じます。私が企業経営者だったら、社員にそういう成長をしてもらいたいし、そういう人を採用したいと思うでしょう。その意味で、企業として感じる可能性などを伺えますか。
日色:企業内にプロボノという仕組みを構築するのは、人事制度との整合性や、キャリアパスとの兼ね合いを考えなければならず、簡単なことではありません。でも、個人的にはとても興味を持っています。
宮城:どういったところに、関心がおありですか?
日色:NPOのリーダーは、リーダーシップのあり方としては最も難易度が高いと思うのです。なぜなら、企業でははっきり決まっているルールやゴールが、NPOでは曖昧だからです。例えば、企業には権限構造があるので、上下関係が非常にはっきりしています。また、売上や利益など、評価尺度も明確です。一方でNPOのリーダーは、権限ではなく、ビジョンで人を巻き込まなければならないでしょう。リーダー自身に人間的魅力があることが必要ですし、情熱をもって真摯に仕事に取り組まなければ、同じ志をもった仲間は絶対についてこないと思います。
宮城:それは非常に興味深いお話ですね。詳しくお聞きしたいと思います。
日色:やや大きな話になりますが、NPOのリーダーシップには、グローバルに活躍するビジネス・リーダーに求められる要素がたくさん含まれているのです 。今日のグローバル企業はフラット化していて、一ヶ所で全ての物事が決まることはなくなりつつあります。例えば私は日本を担当していますが、グローバルやアジア・パシフィックなど様々なレイヤーのステークホルダーを巻き込みながら、ひとつひとつの意思決定をしているわけです。そうなると、意思決定に関わる人が、自分の部下ではないということが往々にしてあります。ラインが異なるところでも、一つにまとめて動かしていかなければならない。これが中々難しいのです。そうなると、権限で人をひっぱるのではなくて、ビジョンと人間的魅力でものごとを動かすリーダーシップが重要になってくるのです。ますます複雑化する組織の中で、ビジネスパーソンがリーダーシップを発揮するために、現地で活動するNPOから学ぶことは非常に多いと思います。これが、私がプロボノに個人的に興味をもっている理由です。いずれは実現したいですね。
宮城:プロボノの派遣制度を構築されようとしている企業の方にも、これから挑戦しようという個人に対しても、大きな励みになりますね。去年、イギリスのロンドンに伺った時に、PwCの方が「災害や課題解決の現場に若い社員を連れて行くのもいいが、私たちはマネジメント層を送り込んでいる」と話していました。マネジメント層の意識が変わることは、組織に与える影響が非常に大きい。彼らを現場に送り込むことで視野が広がり、仕事に対する価値観を大きく進化させることになるのだと聞いて、なるほどと 納得しました。そういう意味では、マネジメント層の方にも入っていただく機会を作りたい と思っています。
■地域に根付いてはたらく中で、起業のハードルが下がっていく
宮城:私どもが日々現場の方と接する中で、若者は特に、権威やお金では動かなくなっているように思います。これまでに右腕人材を160人以上東北へ派遣してきましたが、右腕を経た後も半数以上の社会人がそのまま地域に根づき、起業する人も続出しています。被災地で仕事をしていると、起業に対するリスク感覚がずいぶん変わってしまって、ハードルが低くなってしまうようですね。震災を被災地まっただ中で体験した方々は、平素どれだけお金をもっていようが食べ物すらない、着るものも電気もない、といった極限状況をくぐり抜けてきています。そういった方々と仕事をすると、言葉にせずとも、日々「本当に大事にしたいものは何か」、「自分にとってのリスクとは何か」を問われることになります。
青柳:それは東北の被災された地域特有の雰囲気として、あると思います。
宮城:リスクとして真っ先にでてくるのは「収入」だったりしますが、そもそも家賃は安いし、食べ物はおすそ分けである程度賄われて、食費もあまりかからない。また、これはいいか悪いかわかりませんが、遊ぶところもそんなにないので、ほとんどお金もかからない。そんな中で、復興と向き合う地域の様々な人たちと仕事をするというのは、本当に色んな発見が毎日あって、これは遊びではないものの、すごく楽しいと。そういう彼らからすれば、「早く売上一億円」というよりは、「生きていける範囲で、人の役に立つやりがいある仕事をしたい」となるのでしょう。私も彼らと話していて、起業というのは、そんなに高くて遠いところにあるものではないのだなあと、あらためて思ったのです。
青柳:彼らは自分で仕事を作り出していますね。ひとつひとつをみると、「それ商売になるの?」って思ってしまうような試みもたくさんあります。しかしながら、すごく儲かるかどうかは別として、個々は小さいけれども、それが面になることで、非常にクリエイティブな地域となりつつあるようです。
宮城:そうですね、私も、被災地が起業家精神の中心地のようになったらいいなあと思っています。アメリカのニューオーリンズがハリケーンで壊滅的な被害を受けた後、様々な人たちが乗り込んでいって地元の人とコラボレーションを進めた結果、開業率が大幅にあがったという面白い話があります。そういうエネルギーを被災地から生み出していけたらと。
■制約を感じず、思いきって取り組んでほしい
宮城:最後に、復興に取り組む右腕の方たちやリーダーへのエールのようなものをいただけたらと思います。
日色:なんでもトライしてほしいですね。チャレンジすることで起業家精神も養われますし、スキルも得ていくでしょうから、制約を感じずに思い切ってやってほしいと思います。 これまでだったら、ビジネスパーソンとしてのアドバイスをしたかもしれませんが、今は、我々の限られた経験の中から「こうしたほうがいい」と言うこと自体が、もしかしたら障害になるかもしれないと思います。もちろん、アドバイスを求められれば、いつでも大歓迎ですが、方向性や可能性を狭めるよりは、自由に泳いでいたほうが、より良い結果になるのではないでしょうか。仮に失敗したとしても、失うものが全くないわけではないと思いますが、きっとリカバリーできるはずです。だから、思いきってやってほしい。そのためのジョンソン・エンド・ジョンソンの支援 だと思っています。
宮城:ありがとうございます。是非、現場が動き出したら、社員の皆さんとともに足を運んでいただけたらと思います。直接顔をあわせて対話する中で、更なる深い連携にも繋がっていくかもしれません。青柳さんからは、いかがでしょうか。
青柳:私は、東北が色んな可能性にあふれた地域になりつつあると思っています。また、こういった挑戦は被災地だけでなく、将来の日本にとって非常に価値をもつことになると思いますから、自信を持って取り組んでいただきたいと思いますね。
宮城:地域で仕事づくりに取り組むリーダーや右腕の方たちは、新しい地域のあり方を作っていくという期待を背負っていますね。我々ETIC.としては、チャレンジしようとしている方々のポテンシャルや思いを大事にしつつ、足りないところは右腕 の人たちと一緒に後押しして、可能性を育んでいきたいと思っています。単純なビジネスコンテストや行政の助成金とは異なって、事業とともに一緒に成長していくことを大事にしていきたい。被災地で生まれている芽は、完璧な戦略や戦力を持っているわけではありません。特にこれからのステージでは、足りない部分のサポートを企業の方と一緒に作っていけたらと思っています。右腕にも、志ある多様な人たちにエントリーしてきてほしいですね。やりがいのある場所をつくっていきたいと思いますので、今後ともご支援やご指導よろしくお願いします。
*この記事は、「みちのく仕事」から転載しています。