「ろうけつ染め」という染めの手法を使い、昔ながらの染めの手法を最先端のファッションへと変換し、発信するブランド、TSUNE(ツネ)。TSUNEのテキストデザイナー、同時に代表を務める染色家・小倉 和(なごむ・24)さんが作り出す染めのパターンはとてもファッショナブルなもの。しかしそれらが作り出される行程は、昔ながらの手法を踏襲したものだといいます。(オルタナS特派員=中尾 岳陽)
大阪芸術大学を卒業し、制作の拠点を大阪に置き続けてきた小倉さんが、5月21日から31日までの10日間、北海道旭川市の奥の奥、日本の最先端ともいえる過疎地域で、その地域に滞在しながらの作品制作を行いました。都市圏を主なマーケットとするブランドが、過疎地域で作品を制作する意味とは。小倉さんの滞在制作の10日間を取材しました。
今回、小倉さんが滞在制作を行った場所は北海道旭川市の東旭川町米原。ここに住む方からは「ペーパン(米飯)」とよばれている地域です。全国で顕在化する「少子高齢化」や「過疎化」という言葉に漏れず、ペーパン地域も近年、人口減少を原因に、学校が廃校になったり、路線バスが廃止となるなどしています。
小倉さんは、そんな地域で作品を制作することの意義を「いつもと違った環境での制作は、真新しいものを見る機会が増えて、作品がそれまでとは違ったカタチに変化していきました。静かな田舎の環境というのは、自分の作品を深く掘り下げる時間づくりという意味での価値が大きかった。ぼくがこれまで 都会を拠点としていたアーティストであったからこそ、作品に変化が起きたのだと思うのですが、その違いが生まれていったことはおもしろかったです」と話します。
あえて、どんな作品を制作するかという事も、まったく考えずに足を運んだ今回の滞在制作。その結果、出来上がった作品は約縦6.5m、横10mという、とても大きな作品となりました。
先入観を一切持たずにペーパンを訪れたのには、「その場所だからこそつくれるものが、あるはずじゃないですか」という理由があったようです。
「この地域に来たときに、自然はとても豊かで心惹かれました。でも同時にペーパンには、ビビッドな色、ぼくが日常の中でよく見るような色は無かった。今回の作品はそういった色を基調にしようと思いました。一方で、ペーパンに滞在したからこそデザインできた側面もあり、今回の作品をよく見ると白く細かいドットを見つけられるようになっています。これはぼくがペーパンに訪れときにちょうど田植えの季節だった。その、まだ伸びていないお米が田んぼに植わっている光景からインスピレーションを受けました」と、今回の作品はペーパン地域で生活したからこそ完成したそう。
地元の方も訪れて行われたお披露目は、築50年の建物を覆ってしまうような作品となりました。作品と同時に、場所性や地域性とに目を向けてみると、過疎地域のような性質を持つ場所であるからこそ、作品の特異性はよりいっそう強くなり、その価値は高まるのではないかという印象を抱きます。
この10日間の滞在制作の感想を「ろうけつ染めという古くからある技法を、文化として捉え、リノベーションするという行為はぼくが日常的に行っていることです。地域をおおきな視点で捉えて、足りないものを埋めていくように染色するという行為は、ぼくが日常的に行っている行為と通じる部分がありました」と、染色を生業としている小倉さんだからこその言葉で表現してくれました。また、「過疎地域をステレオタイプのイメージで捉えてしまってはもったいない」との一言も印象的です。
「田舎とか過疎地域とかって、よく、懐かしさみたいな文脈で語られることが多いけれど…。僕らの世代には、都会生まれの人が多いんじゃないかな。だから、ぼくにとってはペーパンは全く新しい環境でした」
地域にとっても、アーティストにとっても、それぞれはまったく「新しい人」であり「新しい環境」。両者が出会うことによって、新しい価値が生み出される可能性は満ち満ちていると感じさせられる10日間となりました。
今回、舞台となった北海道旭川市ペーパン地区はアーティストに限らず、多様な人の滞在を受け入れています。滞在することで、どんな化学反応が起きるのか。気になる方はぜひコンタクトをとってみてはいかがでしょうか。
TSUNE HP:http://tsunect.wix.com/tsunect
米飯十貨店 BLOG:http://pepan10kkaten.tumblr.com