スマートニュース(東京・渋谷)はこのほど、同社が運営するニュースアプリ「スマートニュース」上でNPO向けに100万円(総額1000万円)の広告枠を無償で提供すると発表した。同社の選考で選ばれた10のNPOは、広告枠を自由に使うことができ、提携企業・団体の力を借りながらモバイルマーケティングを実践できる。同社はこの取り組みを、PRともマーケティングともCSR(企業の社会的責任)ともとらえていない。「やるべきだと思うからやりたい」という一人の社員の思いが、会社全体を動かした。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同社が行うNPO支援プログラムは、「SmartNews ATLAS Program」。選考で選ばれたNPOは、スマートニュース上で、100万円分の広告出稿権を得る。NPOの発信力を強化するこの取り組みには、5つの企業・団体も協力している。それらのパートナーとともに、クラウドファンディング、イベント集客、記事作成などを実際に経験することができる。
同社が運営するアプリ「SmartNews」は、時事・スポーツ・エンタメなど数百の媒体の記事を配信しており、日に200万人以上が閲覧している。情報にかかわる会社として、公共性の感覚を育みたいという考えから、この取り組みが生まれた。
ユーザーには、ニュースを読み、社会の出来事を知るだけでなく、自らもその課題解決に参加できると認識するきっかけをもってもらいたいと考えている。
インターネットを利用するデバイスは、デスクトップからモバイルに移行している。そして、多くの若者がニュースを得るのは、雑誌や新聞ではなく、モバイルからになった。
スマートニュースはどのような社会を目指しているのか、同社のマネージャ グロース/パブリック担当の望月優大さんに聞いた。
――御社がNPO支援をする取り組みの狙いは何でしょうか。
望月:情報の流通に携わることを通じて、社会における公共性の感覚を育むとともに、民主主義の強い基盤作りに貢献したいと考えています。
このプログラムを通じて様々な社会的課題やそれらに対するNPOの取り組みがより多くのユーザーに伝わることによって、一つひとつの団体の活動が活性化されるだけでなく、社会における「公共性」の感覚、「自分たちで変えられる」という感覚が広がっていくことを期待しています。
――御社はこの取り組みを、マーケティングとして認識しておりますか。それともPRとして認識しておりますか。
望月:どちらでもないですね。新規ユーザーの獲得を狙っていたり、スマートニュースが「良い会社」だと思ってほしいからやるわけではないです。営利企業でありながらも社会的存在でありたいという理想を、NPO支援プログラムというひとつの具体的なアクションに落とし込んだものです。
――この取り組みは中長期的に見ての、ブランディングに見えたのですが。
望月:いわゆるブランディングとも考えていません。短期的にも参加団体とのキャンペーンを通じてインパクトを出したい、ベストプラクティスを積み上げたいと思っていますし、中長期的にはソーシャルセクター、ビジネスセクターの垣根を越えた良質なコミュニティをつくっていきたいと願っています。
なぜやるのかという問いに答えるとすれば、「やりたいからやる」、「やるべきだと思うからやる」、というのが正直な感覚です。プログラムの責任者としてそう思っていますし、会社の代表含め、スマートニュース全体がその思いを応援してくれています。
――望月さんのなかで「やるべきだと思うからやる」という思いは、どのような要因から生まれてきたのですか。
望月:何か大きな原体験に突き動かされているわけではなくて、誰もがもっている「社会を少しでも良くできたら」という思いを私も持っているだけだと思っています。
ガンジーやキング牧師ばりのことをしているわけではなくて、小さなスタートアップでNPO支援プログラムを提供しているだけですから。ただ、何となくの思いを形にするには、具体的な方法と力が必要で、それらがないと思っているだけで終わってしまう。
昨年スマートニュースに入社するときに、会長の鈴木健をはじめとしてこの会社がもっている思想や文化が、私が具体的なアクションをしていくための力を与えてくれると感じて入社を決めました。この会社の器に応えるのが「SmartNews Public」の担当者としての私の責任だと思っています。
■「日本はNPOの力で変わっていける」
スマートニュースのこの取り組みでは、NPOにとっては発信力の強化につながり、ユーザーは(NPOというモデルケースを知れて)新しい気付きを得て、その結果、社会に「自分たちで変えられる」という潮流が生まれる流れだ。
東日本大震災で、若者を中心に社会貢献意識は上がったといわれてはいるが、依然として投票率は低いままだ。
同社が掲げるこの流れを起こすための根本には、「NPOのリーダーが強いミッションを抱くこと」が前提としてあるが、無作為にお題目のように並べても届かない。
民主主義の健全育成を掲げる日本フィランソロピー協会の高橋陽子理事長は、オルタナS編集部の取材で、「ミッションそのものは高く掲げておく必要があるが、どう伝えるかが問題。きれい事だけを言っても、相手には響かない」と断言する。
「自分たちの立ち位置を客観的かつ俯瞰的に見て、相手の立場も考えた上で、提案していかなければいけない」(高橋理事長)と、まさにマーケティングの重要性を説く。
高橋理事長は、BtoB型(対企業相手のビジネス)のNPOには、ビジネススキルを生かして上手く運営している団体が目立っているとするが、課題は、BtoC型(対個人向け)にあると指摘する。
「今まで、行政が担当していた個人へのセーフティネットの部分を誰がカバーしていくのでしょうか。行政や企業が請け負えない分野をカバーすることはNPOの大切な役割です。BtoC型のNPOが、行政や企業に頼るのではなく、個人の力を巻き込みながら成長していけば、日本はNPOの力で変わっていけるようになるでしょう」
SmartNews ATLAS Program の応募は、8月30日まで。
望月優大:(もちづき・ひろき)
スマートニュース株式会社 マネージャ グロース / パブリック担当
2010年東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。ミシェル・フーコーの自由論について研究。のち、経済産業省、博報堂コンサルティング、Googleを経て現職。GoogleではGoogle for Nonprofitsの日本ローンチにも携わった。趣味は旅行と読書、最近山登り。