10月26日、伊藤忠商事がメセナ(芸術・文化振興による社会創造)活動の拠点として運営するギャラリースペース「伊藤忠青山アートスクエア」が3周年を迎える。同ギャラリーは、アートを通じた「社会貢献」「地域貢献」という方針に合致した展覧会をこれまでに39展開催し、今年の8月27日には来館者10万人を達成した。地域に根ざした社会貢献型ギャラリーの社会的意義とは。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
伊藤忠青山アートスクエアは、銀座線「外苑前駅」から徒歩1分にある伊藤忠商事東京本社のすぐ横に位置する。このギャラリーでは、NPOや大使館、地域団体と連携して展示会を行っている。
今年の8月には開館3周年を前に来場者10万人を突破し、1日100人以上が訪れる施設となった。特に「金澤翔子 書展 ―共に生きる―」や、よしもとクリエイティブエージェンシー所属 漫才師 (キングコング)の「にしのあきひろ絵本原画展」では約1ヶ月の会期中に、1万人以上が訪れ大盛況となった。また、ねむの木学園の絵画展では皇后陛下、戦争の記録を中心とした千の証言展では秋篠宮同妃両殿下、佳子内親王殿下、日本モンゴル書道展では安倍首相が訪れるなど、一つひとつの展示でその意義や深みを増している。
次世代育成の観点で若手作家や学生との取り組みも積極的にすすめ、これまでには、5つの美大(女子美術大学、多摩美術大学、東京造形大学、日本大学藝術学部、武蔵野美術大学)の有志で企画された展示会、障がいを持ったアーティストたちが所属する福祉施設Studio COOCA(スタジオクーカ)と組んだ展示会、そして、羊をテーマにした35歳以下100人超の若手作家が参加した展示会などが開催されてきた。
各展示会では、被災地支援や障がい者の自立支援、国際交流など、社会性を持ったテーマで開かれ、作品を見ながら社会問題を知ることができる。
筆者は、2012年のオープニングから同ギャラリーの展示会を取材してきた。大手総合商社である伊藤忠商事はBtoB企業であり、一般市民と触れ合う機会は多くない。そのため、年に数千もの人が訪れるこのギャラリーは、同社にとって「社会との窓口」の一つになっていると感じている。
この社会との窓口は企業にとって、重要な役割を果たすと筆者は考える。その理由は、地域住民、NPO、行政など多様なセクターとつながり、ソーシャルな力が生まれるからだ。
ソーシャルとは「社会的な」と訳されることが多いが、慶応義塾大学創設者の福沢諭吉は、「social」のことを「人間交際(じんかんこうさい)」と訳した。つまり、企業間だけでなく社会とのつながり力こそ、社会性を育むものなのだ。
社会で起きている課題について知ることで、それがビジネスチャンスになることもあれば、ビジネスでやってはいけないこと・言ってはいけないことが分かりリスク回避にもなる。
■次世代育成として
このギャラリーは、次世代育成の拠点としても役割を果たしている。次代を担う、志のある人へ会場を無償で提供し、ともに展覧会を盛り上げる。
実際、展示会を開催する場合、出展者サイドは会場を借りるだけで数十万円の出費となる。若手作家にとってはこの費用が負担になり、発表の場を制限せざるを得なかった。このギャラリーでは会場を提供することに加えて、運営ノウハウや人脈によって、若手作家を盛り上げていることも魅力の一つだ。
この展覧会では、若手作家を応援したいという社会貢献意識の高い人が訪れ、その結果沢山の作品が売れた。普段、展示する機会に恵まれない若手作家にとっては、さまざまな人に名を売れる絶好のチャンスだ。会期中は、若手作家たちがギャラリーにおり、訪れた人と交流する姿をよく見かけた。ただ作品を展示するだけでなく、どうしたら自分の作品を知ってもらえるのか、表現する大切さも学んでいる。
このたび3周年を迎えるギャラリーでは、日本の伝統工芸である江戸切子の若手職人による展覧会が行われている。巧みな技術で作られた作品は、一つひとつに味がある。伝統を継いできた者だからこそ挑める重厚感と共に、百貨店等の催事では見られない、職人が、「この伝統工芸を絶やしてはならない」という心意気も感じられる。青山に行ったさいには、このギャラリーに立ち寄ってみてほしい。
【伊藤忠青山アートスクエアで開催中 日本の伝統工芸 江戸切子若手職人15人展】
とき:11月3日(火・祝)まで
時間:11:00~19:00
入場料:無料