2016年7月に神奈川県相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で起きた大量殺人事件。この事件は、被害者やその関係者だけでなく、報道を見ていた障がい者の心にも、深い傷跡を残したようだ。300人以上の障がい者へ事件の印象を聞いた調査では、報道について「関心を持って見ていた」と答えた人が86%に及んだ。障がい者の声の一部を紹介する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

障害者差別解消法が施行されて1年以上が経つが差別・偏見は改善されたとは言えない

同事件は、元施設職員だった26歳の男が津久井やまゆり園に侵入し、入所者19人を刺殺、26人に重軽傷を負わせた。犠牲者の数の多さから戦後最悪の殺人事件として世間を騒がした。容疑者の男は、警察の取り調べに対して、「障がい者は生きている意味がない」という趣旨の供述をし、波紋を広げた。

事件が起こったのは、障がい者に対する差別を禁止した法律「障害者差別解消法」が施行された2016年4月から3ヶ月後のこと。このように差別や偏見を拭おうとする法律ができる一方で、まさに差別を象徴するような事件が起こったのである。この事件を、障がい者はどう捉えていたのか。障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを展開するゼネラルパートナーズ(東京・中央)が、調査を行った。身体・精神・知的障がい者326人にインターネットで行ったその調査では、多くの悲痛な声が寄せられている。下記がその声の一部。

「障がい者は必要ない」という容疑者の言葉に、匿名のネットユーザーの人たちが賛同していて胸が苦しく辛かった。婚約者や友人、支援者のように温かい目で見守ってくれる人たちが、私たちにはまだまだ少ない気がして、悲しい気持ちでいっぱいになった (20 代/女性/精神障がい)

もしも犯人が同じように身体の一部が悪くなっていたなら、少しは気持ちが分かったのではないか。人間は同じ状況にならなきゃ分からない 部分が沢山あると思います(50代/男性/身体障がい)

障がい者に対する偏見の縮図だと感じた(30代/男性/身体障がい)

事件は起こさないまでも、障がい者はこの世から消えた方がよいと真剣に思っている人が実際に少なからずいることを知っているので、あってはならない事件だけれども、起こりうる事件だったと、半ば冷静に見ていた(40代/女性/身体障がい)

加害者のあまりにも身勝手な犯罪に激しい憤りを覚えました。また日本でこんな悲惨な事件が起こったことに衝撃を覚えたと同時に、社会の寛容性が無くなった結果が生んだ悲劇だと思いました(60 代以上/男性/身体障がい)

犯人の間違ったメッセージが垂れ流しのように報道され、それに感化される人が出るのが不安だった(50代/女性/精神障がい)

犯人も統合失調症と言われており、自分と同じ病気なので、別の意味で偏見が怖い(40代/女性/精神障害)

このように、報道を見て、多くの障がい者の心に深い傷跡が刻まれたことが分かった。また、この事件が原因で、障がい者への偏見がさらに助長することを不安視している様子もうかがえる。

同社では、前述の「障害者差別解消法」が施行されたことによる影響についても調査を実施している。それによれば、約9割の障がい者が、法律の施行後も差別・偏見は「改善していない」と答えた。このように、法律がつくられるだけでは十分な効果は上がっていないことが明らかになっている。

誰もが支え合い共生できる社会を実現していくためには、このような事件の記憶を風化させることなく、どうすれば差別・偏見を解消していけるかを、社会全体で考えていく必要があるだろう。

詳しい調査結果はこちら

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