ネットで資金を調達するクラウドファンディング(以下CF)が日本に上陸し、5年が経過した。ソーシャルグッドなプロジェクトを中心に話題を集め、2015年度の国内市場規模は363億3400万円(前年度比68.1%増、矢野経済研究所調べ)に及んだ。右肩上がりで成長を続けるが、CF大手のキャンプファイヤー(東京・渋谷)代表の家入一真氏は、「このままでは、プロジェクトオーナーが疲弊してしまう」と警鐘を鳴らす。その理由は何か。CFの「落とし穴」と、同社が発表したソーシャルグッドに特化したCF「グッドモーニング」について聞いた。(聞き手・オルタナS副編集長=池田 真隆)

クラウドファンディングの役割と課題について話し合った。キャンプファイヤーの家入代表(左)とグッドモーニング担当者の東藤泰宏さん

クラウドファンディングの役割と課題について話し合った。キャンプファイヤーの家入代表(左)とグッドモーニング担当者の東藤泰宏さん

――東藤さんは、「クラウドファンディングのプロジェクトオーナーが疲弊している」と危惧しています。どういったことからそう思うのでしょうか。

東藤:これは知人の事例なのですが、ソーシャルグッドジャンルのCFで300万円のプロジェクトをサクセスした人がいます。がんばってお金を集めたのですが、プラットフォームに載ったのに、このプロジェクトがきっかけで出会えた人の割合は、全ての支援者のうち2%ほどだったそうです。既存の人間関係だけで完結している。厚い手数料をいただいている、プラットフォームとしての役割を本当に果たせているのでしょうか。

また、本来は起案するプロジェクトに対して、社会課題へ共に参加してほしい人を想定し、そのためのリターンを考えます。ですが、支援総額を大きくするために、少額のリターンには力を入れない/最初から設定しない、というサポートが多く見られます。

ソーシャルグッドのプロジェクトでは、多くの人がその取り組みに参加できるように、少額の支援を設定したい団体も多いはず。クラウドファンディングで成し遂げたかった本来の目的からズレてしまうケースがあります。そもそもソーシャルセクターにおいて、CFはお金だけでなく、社会課題や、その解決に向き合う組織との出会いの場ではないでしょうか。

家入:CFを2011年からやってきて、課題が見えてきました。結局は一発花火になりがちで、その瞬間の熱量は集まるのですが、それで終わってしまう。ぼくらはファンクラブという新機能をつくって、継続的に応援していけるようにしました。

CF事業者は、一説によると200ほどあり、競争が激化しています。なかには、NPOへ過剰な電話営業している会社もあって、それは本当に正しいことなのかなと思っています。電話して、課題はないですか?それじゃやりませんか?と。焼き畑農業のように営業していくことはやりたくないですね。

そうして、無理に立ち上げた結果、サクセスしなかったら、「もう二度とクラウドファンディングはやりたくない」となってしまう。それって誰のためにもなっていないと思うんですよね。

事業者として、ぼくらができることを今一度考えていくべきで、NPOがどうしたらハッピーになれるのか、そして、支援者にも、どうインパクトを与えることができるのかを考えていくべきだと思っています。

CFは単純な場所貸しではないと言う家入氏

CFは単純な場所貸しではないと言う家入氏

――CFの役割は何だとお考えでしょうか。

家入:これまでプラットフォーマーとして、大きな案件を集めがちになっていました。それを数年やってきた結果、一般の人たちが挑戦するハードルを高くしてしまいました。いまでは、「5万円集めるためだけにやってもいいんだろうか?」と思ってしまいますよね。

ぼくらは、体制を変えて、小さい声を実現していく方向性にシフトしています。CFの役割を考える際に、インターネットの本質をちゃんと考えないといけないと思う。インターネットの本質は、一人ひとりが声をあげられるようになったこと。

CFは資金集めの民主化。これまで資金を集めるには、銀行から借りたり、投資家から投資してもらったり、ハードルが高く、一部の人しかできないことだった。それを民主化して、誰でも声をあげられるようにしました。

サクセスするかは別問題だけど、声をあげることはできるんですよとサポートしていかないといけない。そこの視点が欠けていて、大きな案件ばかりを狙っていました。その結果、CFは難しそうという印象を与えてしまったのだと思っています。集める金額の大小関係なく、チャレンジすることを支えていきたいですね。

――キャンプファイヤーでは、「小さな声を灯す」をコンセプトにしています。今年からは手数料を5%に下げたり、目標金額の達成にかかわらず、支援額が起案者に入る仕組みにしました。

家入:ぼくらを含めて上位の3社とも同じくらいの規模ですが、構成が違います。うちは小さいプロジェクトが複数集まっていて、大型のプロジェクトがドンっとあるわけではないんです。小さなプロジェクトが集まっているから、ブレが少ない。

そしてプロジェクトオーナーが、必死の思いをして集めたお金なので、一円でも多く渡すべきだと思い、そうしました。

もちろんサポートはしっかりとしていますが、場を提供させてもらっているぼくらが、20%も取るのはおかしなこと。だって、1000万円集まっても、200万円もっていかれるのは結構痛くないですか。

ぼくらとしては、違うところで価値をつくって、そこでお金をいただく。CFで集まったお金に対しては、手数料はほとんどいただきませんが、レベニューシェアの形で、一緒に成功する仕組みをつくれないか模索しています。

プラットフォーマ―はお金を集めるだけでなく、ほかの価値を提供していかないとCF事態が終わってしまう気がしています

東藤:大きな案件だけを狙っていくと、特にソーシャルセクターではプロジェクトオーナーが限られてしまうし、数年に一度しかできなくなってしまう。結果として、CFの市場を縮小させてしまうことになると思いますね。

本日立ち上がった「グッドモーニング」

本日立ち上がった「グッドモーニング」

――ソーシャルグッドに特化した「グッドモーニング」を立ち上げました。

東藤:ソーシャルグッドのプロジェクトでは、プロジェクトの結果、どのような変化が社会や受益者に起きたのかを支援者と分かち合うことも、プラットフォーマ―の役割の一つだと思っています。

これまではお金を集めて、「プロジェクト達成しました!おめでとう!」で終わっていました。そうではなく、支援したことで、支援者はどのような体験をしたのか、そして、そのプロジェクトで「受益者」はどう変わったのか。そのようなクラウドファンディングに関わる様々な人たちの声も拾い上げていくべきだと考えています。

グッドモーニングでは、その団体が受益者をどう変えたのかを重視していきたい。特に事業推進能力のある団体とは、共にプロジェクトのゴールや、進捗の計測の仕方をつくっていきたいと思っています。

一回きりのお祭り的な支援ではなく、月額制の継続的な支援をできるようにして、四半期ごとにどれだけ社会を変えたのかを数値化していくイメージです。

またプロジェクトオーナーや団体が好きだから応援するというのが、現在の一般的なCFです。将来的には、「その社会的課題に関心が強いから」「そのプロジェクトが良いから」支援するという流れにしていきたいですね。

家入:これまでは各NPOが個別に資金集めをがんばっていましたが、それでは社会的課題を根本から解決するまでに、その団体が疲弊してしまう。

将来的には、解決したい社会的課題ごとに支援できるようにしていきたいですね。

東藤:解決したい社会的課題に対して、事業者が集まれる仕組みにもしていきたいとも考えています。

新しい社会貢献の体験をつくりたいと意気込む東藤さん

新しい社会貢献の体験をつくりたいと意気込む東藤さん

東藤:グッドモーニングが理想としているのは、ペプシがスーパーボウルでやった取り組みです。米国の企業は莫大な金額を支払って、スーパーボウルに合わせて広告を打ちます。ペプシはそれを取りやめて、代わりに社会的課題に取り組む案件を募集しました。1000案件ほど集まり、そのなかから30-40個ほどプロジェクトを選び、総額2000万ドルを支援しました。

ユニークだったのは、支援するプロジェクトの選び方です。ペプシが選ぶのではなく、市民の投票に委ねたのです。

この取り組みを参考に、支援者のコミュニティが先にあって、どこに投資しようかと選択する仕組みも良いと思います。

解決したい課題に対して、お金もある、支援者もいる状態にして、実行者/団体を募集し、投票で決めてもらう。

家入:キャンプファイヤーの利益の5%で「CAMPFIRE基金」を設立することも構想しています。プラットフォーマーとして、本気で社会へ貢献する決意の表明です。

東藤:ソーシャルグッドの領域で、CFができることはまだまだたくさんあります。楽しみにしていてください。

家入:CFはこれからだと思っています。本当の意味で根付かせるのはこれからだと思っている。だから、こうご期待という感じです。

・グッドモーニングはこちら

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