タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆山の朝

何時の間にか朝になっていた。厩の方で音がするので、啓介も起き上った。外に出ると、まだ日の出前だった。もうかなり明るいが、森は薄墨色だった。末広がグリニッシュを引き出して、道路端の馬繋ぎにつないでいた。
末広が大声で「イースターを連れて来てくれ」
「どーやって~?」
「轡(くつわ)に引き綱をかけて連れてくればいい」
「逃げたら~」
「いじめていないのになぜ逃げる?」
啓介が馬房の扉を開けると、馬は啓介を押しのけて出てしまった。
「出ちゃいました~」
イースターは早足(トロット)で末広とグリニッシュのいる馬繋ぎに走った。いつの間にかバースデーが馬の先回りをして道路に出て、身を低め軽量級のボクサーがアウトボクシングするように右や左に動いて馬の行く手を阻んでいた。
啓介も後を追ったが、イースターは自ら末広に向かい、末広に轡を取られると自分の長い顔を末広の方に何度も擦り付けていた。鼻づらがかゆいのか?末広さんに甘えているのか?末広は轡を持ちながら首を何回もパタパタと叩いていた。鳥が歌い始めてしばらくたつと、朝日がカラマツの林を透かして僅かに顔を覗かせた。

朝日

一条の光が林を駆け抜けると、鹿の群れが、朝日に向かって啓介の前20メートルほどを飛びながら横切って行った。先頭の大きく黒いシカの頭には角が無かった。昨夜の鹿の角は大きかったが、今朝の鹿はそれより大きいのに角がない、きっと春は角が抜ける季節なんだろうと啓介は思った。鹿たちは前足を引き込み、後ろ足もたたんでスローモーションを見るような空中姿勢をとって一頭一頭やぶの中に、尻の白いハート形だけを印象深くさせて飛び込んで行った。太陽は下三分の一位を残して昇ってきた。グリニッシュはこげ茶色で、イースターはオレンジ色に見えた。

「水がないから、蹄の手入れをしたら小川に連れて行こう」
末広は木の柄が付いた鉤爪の様な物で、馬の蹄の泥をほじっていた。馬は前足を上げ、後ろ足を曲げ上げて泥や細かい砂利を掻き出してもらっていた。末広はそれを鉄ピと呼んだが、それは大きな木ねじ回しの鉄の部分を曲げたものだった。
「君もやってみろ」
「それ貸してください」
「そこにかけてある鉄ピをつかえ」
そことは馬繋ぎの四本の柱の縦に渡す細長い板の事だった。鉄ピとはU字型の蹄鉄を三分の一ほど切り捨てて出来たJの字の先を尖らせたものだった。啓介がそれを持って馬に近づいて前足を持ち上げようとしても馬は足を上げない。
「もっと馬に密着しないと」と末広が言った。
「馬の反対方向に向いて立って、自分の肩を馬に押し付けて見ろ」

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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