【連載】LOCAL GOOD YOKOHAMAから見えてきた成果 ① 「青葉区発横浜おみやげプロジェクト」
市民の力で、地域の課題を解決していく社会づくりを目指すプラットフォームLOCAL GOOD YOKOHAMAでは、これまでに16のクラウドファンディングが立ち上がり成立している。クラウドファンディングへの挑戦は、資金を調達できることだけでなく、これまで関わりのなかった人とのつながりを生み出し、プロジェクトを推進していく原動力になっていく。LOCAL GOOD YOKOHAMAのプロジェクトが、立ち上げからその後どのようなインパクトを地域に生み出していったのか、プロジェクトオーナーに伺った。一つひとつのプロジェクトを取り上げる形で、今後連載として紹介していく。
10月24日、東急田園都市線 あざみの駅から徒歩5分ほど歩いたところに、地元の素材を使ったレストランが新しくオープンした。横浜市北部に広がる丘陵地域は「丘のよこはま」と呼ばれ、「港のよこはま」のイメージとは異なる、のどかな田畑の風景が広がっている。「丘のよこはま」の作物を使って、ここに住む皆に愛されるおみやげを作ろう――「青葉区発横浜おみやげプロジェクト」が立ち上がってから2年、取り組みは確実に地域に根付こうとしている。
■街への愛着「持ちにくい」
「この辺りには特産品がない」。プロジェクトが始まるきっかけは、NPO法人協同労働協会OICHIが営む起業支援センター「まちなかbizあおば」で開かれた、ビジネスで地元の問題を解決していくための会合であがった意見だった。
青葉区は、田園都市線が敷かれることで、沿線に東京都心のベッドタウンとして様々な人が移り住み、今の姿となった。「横浜都民」という言葉があるように、東京に通って家には寝に帰るだけという人もたくさんいる。
のどかな丘が続く風景は、みなとみらいなどの港のイメージともほど遠く、「特徴を感じづらい」、「愛着を持ちにくい」という感覚を持っている人もいるという。
実は、青葉区は、横浜市18区の中で最大の38.7ヘクタールの水稲作付面積(横浜市青葉区農業データ2013)を抱える有数の農業地帯である。この土地から取れる作物を使うことで、地元で作られた「おみやげ」として誇れるものを何か作れないか――弁護士やファイナンシャルプランナー、薬局など、全く異なる業種の11人のメンバーが集まって、プロジェクトは始まった。
このプロジェクトの中心となったのは、さくら工房(神奈川県横浜市)を経営する櫻井友子さん。櫻井さんは20代初めに結婚し、2児の母になってから初めて働くことを経験した。”最初からワーキングママ”だ。
2008年に立ち上げたさくら工房では、「家庭の食卓から幸せが広がる、家庭の食卓を豊かにしたい」、「自分と同じような境遇のワーキングママたちにもっと楽をさせてあげられる、安全で安心な食材を提供したい」という思いから、米粉を使ったグルテンフリーのスイーツを作ってきた。
青葉周辺にはたくさんの田んぼと畑がある。「地域のお米から米粉を作り、地域で取れた野菜・果物を組み合わせて、健康志向のケーキをつくる」 まちなかbizあおばで、議論を重ねる中で「地元のおみやげを作りたい」という意見への答えがこれであった。
■目標金額の120%を達成
住民が愛着心や帰属意識を持ちにくいベッドタウンで地域が誇るお土産をつくる。櫻井さんたちの挑戦は始まった。しかし、新しい商品開発や販路の開拓のためにはそれなりの資金が必要だ。
良いアイデアがあってもお金を集めないことには製品はできない。そこで資金調達の方法として挙がったのが、LOCAL GOOD YOKOHAMAだった。LOCAL GOOD YOKOHAMAは、2014年に始まったWebを用いた地域プラットフォームで、インターネットを通じて地域の人々から資金を募ることのできるクラウドファンディングの機能をもっている。
「銀行から資金を借りるのではなく、地域の人たちから寄付を募ることで一緒に地域のおみやげを作り上げていこう」―LOCAL GOOD YOKOHAMAを運営するNPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボや、横浜市との対話を通じて、クラウドファンディングによる資金調達への挑戦が決まっていった。
2015年1月26日、LOCAL GOOD YOKOHAMAでのクラウドファンディングが始まった。募集期間の最初の40日間で最低金額を上回る金額を集めなければ、プロジェクトは失敗となってしまう。
「集まるかな?集まらないかな?っていうドキドキ感と、どのくらいの人に声をかければ良いんだろうっていう、そういう思いは最初ありました。地域の人たちに自作のチラシをわたすと『やるよ!』、『いいね!』とは言ってはもらえるけど、本当に入れてくださるのか。プロジェクトについてわかってもらうために、普段接しないような人たちにも積極的に声をかけ、賛同を促すのが一番大変でした」と櫻井さんは話す。
プロジュクトを始めた当初は不安だったが、徐々に手応えを感じていった。地域イベントでのチラシ撒きやFacebookでの支援の呼びかけ、知り合いの団体などへの声掛けなどを精力的に進めていく中、地元新聞からも取材を受け、記事などで紹介された。
これによって共感の輪がさらに広がっていった。「頑張ってね!そういうのあったらいいと思ってた!という声をたくさんもらった。元からあったつながり以外からも、新聞やタウンニュースを見て、青葉区を盛り上げるためだったらとか、地域密着でやるんだったら力になりたい、といった想いをもった多くの方たちが協力してくださった」。
この結果、募集期間中には目標金額800,000円を大幅に上回る1,013,000円が集まった。また、LOCAL GOODでの情報発信を通じて、「うちのお店に商品をおいてあげるよ」という取次店や、お中元・お歳暮、子息の新入学のお祝いに社員の家族の方に配りたいといって名乗り出る会社も現れ、販路も確保していった。
■地域に根付く「おみやげ」
「たくさんの人たちの想いで集まったお金の重みはぜんぜん違う。商品をちゃんとした形にせねば」――クラウドファンディングに成功し、販売に向けて商品開発を進めている時、櫻井さんはとても大きな期待と責任を感じたという。また、実際に農家さんをはじめ、様々な人とのやりとりを通じて、地域が抱える問題が浮き彫りになっていった。
農家の高齢化や、土地持ちの農家と土地を借りている農家それぞれが抱える課題、行政と農家のすれ違い、そして何よりも地元で取れたものを地元に住んでいる人たちが食べていないこと。「おみやげ」を作ることで、こういった問題を少しでも解決できるのでは? そんな思いでプロジェクトは進んでいった。
2015年7月4日、ついに「おみやげ」の販売が開始。7月10日には市が尾の工房の上階に直売店もオープンした。月に一度はイベントを実施し続けるとともに、たまプラーザで行われるテラスマルシェに出店し、区民祭や商店街のお祭りなど地域密着で販売を続けた。そうすると、少しずつ「あ、丘のよこはまのおみやげ知っている」という人が増えていった。
当初目標は2015年中に100セットを販売することだったが、この目標は早々に達成、発売から約1年の2016年6月現在で累計8,000個を販売してきたそうだ。青葉区には他から移住してきて子育てをする家族が多い。田舎の実家への贈り物や帰省の際の手土産に、またこの地域から巣立っていった子どもたちへの仕送りに、地元で取れた健康な食べ物をと、「おみやげ」は段々と地域に根付きつつある。
保育園や幼稚園さんに通うお子さんのママたちから、「紅白饅頭の代わりにこれを卒園のお祝いにしたい」という声が上がり、ある幼稚園で卒園ギフトとして採用されることもあったという。口コミや消費者からのボトムアップ的な働きかけを通じて定着していっているようだ。
地域への影響はそれだけではない。引退する市民ファーマーが近年増えている中、売り先があるならばもっと頑張って種を植えようと現役続行をされる方が増えた。定年後まだまだ元気な60代の方たちにイベント等での手伝いをお願いし、活躍の場となった。さらに、子育て真っ最中のママがパートとして活躍する場が増えたりなど、良い循環を日々生み出し続けている。
■「平和な社会は食卓から」
そして先月10月には、これまでの販売店だけではなく、さくら工房としてのレストランもオープン。地元の野菜を使った料理を楽しめるほか、「おみやげ」も店頭にて販売中。レストランで働くのは子育てをしながら働くママたちが中心で、オシャレな店内には初日から沢山の女性たちが訪れて盛況を見せた。
レストランで働くのは子育てをしながら働くママたちが中心で、オシャレな店内には初日から沢山の女性たちが訪れて盛況を見せた。店舗で実際に地元の野菜を味わう場ができたことで、取り組みはまた一歩次のステージへと前進した。
これまでは米粉のスイーツを作ってきたが、もっと他にもやりたいことがある。地元で取れる野菜などを使った商品をおみやげとして増やしていきたい、間引きしいたけや間引き夏みかんなど現在は捨てられてしまっているものを活かして、浅炊きや佃煮、コンフィチュールなどを開発するなど、次の展開に向けた企画が進行中だ。
沢山の人たちがつながってできたおみやげがまた、人と人とをつないでいく。「食べ物が豊かなところに非行や犯罪は起こらない。もっともっとみなさんに伝えていきたい。家庭の食卓が豊かになって、平和であってくれたらいいな」櫻井さんは笑顔で語ってくれた。
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