カンボジア農村部で半年間、ボランティア活動をした学習院大学4年の大西駿貴(おおにし・としき)さんは、「自分が何を大切にしているのか見えてきた」と話す。大西さんは、自分の心を知りたいと思い心理学を専攻したが、ボランティア活動の中で答えを見つけることができた。(小嶺 晶子)
■カンボジアで上映会
米国では9.11以降、日本では3.11以降、若者のボランティア人口が増加したという。震災から6年経った今でも、若者の社会貢献意識は高く、国内に留まらず、途上国など海外でのボランティア人口も増えている。大西さんもその一人だ。
途上国の子どもたちに移動映画館を行うNPO法人World Theater Project(ワールドシアタープロジェクト)でボランティア活動をした。
ボランティアと聞くと、街頭での募金活動、被災地での瓦礫撤去などが思い浮かぶ。途上国なら医療や食糧支援、井戸や学校建設が主なところだろうか。
そんな中、World Theater Projectは、カンボジア農村部の子どもたちへ「映画の支援」を行っている。映画を観ることで、子どもたちの夢の選択肢が広がることや、学校に来る意味が伝わることが期待される活動だ。
大西さんは、たまたまインターネットで同法人のインタビュー記事を読んで活動に興味を持った。イベントに参加して、ボランティアメンバーになることを決めた当初、「ボランティアや国際協力、途上国にもまったく興味はなかった」という。ただ、「映画」というキーワードに惹かれた。
小学生の時、両親と連れ立って町内の自治会の上映会に行った。アニメ「ポケットモンスター」が上映されていて、主人公のサトシが石にされてピカチュウが泣いているシーンで泣いたのを覚えている。6年生になってから、友達10人で映画を観に行った。自転車で40分の場所にある映画館に行くのは冒険だった。
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中学時代の大西さんの趣味は「多肉植物を育てること」だったが、共通の話題で盛り上がれる友達がいなかった。周りとつながるために話のネタを仕入れようと、大西さんはよく映画を観るようになった。オードリー・ヘプバーンにハマり、モノクロ映画に興味を持った。
朝ごはんよりも、録画していた映画を観るのが楽しみで起きる。ソフトテニス部の友人に、夢中で昔の映画の話をしたが、「何を言っているかわからない」と言われてしまった。映画に詳しくなり過ぎて、逆につながれなくなったと大西さんは笑う。
「ライアーゲーム」を見て、心理学に興味を持つ。自分の心を知りたいと思い、大学では心理学を専攻することにした。学びたいことのきっかけを作ったのは映画だった。
「何かを始めたら、粘り強く続けなさい」というのが母の教え。学費を稼ぐための焼鳥屋でのアルバイトも、大西さんはずっと続けていた。店長からの信頼も厚かったのだろう。
大阪の店舗への出張も任された。辞めたのは、カンボジアに駐在することになったからだ。日本国内での大西さんの活動は、カンボジアでの活動資金を集めるための映画イベント運営だったが、その仕事ぶりで信頼を得た。団体を代表して現地に派遣され、現地スタッフと共に映画を届ける駐在員の二期目に抜擢された。
現地では、自分よりも20才年上のカンボジア人スタッフたちのマネージャーになった。お金の問題や文化の違いから起こるコミュニケーションの失敗など、壁はいろいろあった。
活動している州からの後援を得るための書類作成では、役場をたらい回しになることも。目標達成に向けての最適な道を考え、現状を整理してみたら、どこに行くのが正解か、道筋とゴールが見えてきた。
半年間のボランティア駐在を終えて、大西さんに何を得たか聞いてみた。英語力と段取力が上がった気がするという。周りの人たちからは、「表情が豊かになった」、「たくましくなった」と言われる。
文化の違うスタッフや子どもたちと、英語やボディランゲージで会話をしていたからかもしれない。だが一番大きかったのは、「映画を届ける」という活動の意義について考えることで、自分が何を大切にしているのかなど、「自分というものが見えてきたこと」だそうだ。
大西さんの団体では、3万人の子どもたちに映画を届けているという。今すぐに何か結果が出る活動ではないが、そのうちの一人でも、届けた映画が人生を切り拓くきっかけになれば、それだけでも意義があるのではないか。
村の小学校の女の子から、「映画の主人公みたいに私も頑張りたい」という感想を聞いた時は嬉しかった。子どもたちの心に何かの変化を生み出すのに、映画ほど効率が良いものはないのではないかと大西さんは考える。
自分の心を知りたいと思い心理学を専攻したが、直接の学問ではないボランティア活動の中で答えを見つけることになったと大西さんは言う。
大西さんが登壇するイベントが、4月15日に開催される。