国立新美術館でミュシャの「スラヴ叙事詩」を見た人も多いのではないだろうか。そのミュシャの作品展が伊藤忠青山アートスクエア(東京・港)で開かれている。ミュシャは商業ポスターのデザイナーとしてフランス・パリで名を馳せた。晩年には祖国チェコに戻り、民衆のために芸術を生かすことに決め、政府から依頼があった国章や切手、紙幣などのデザインを無償で引き受けた。同展覧会は入場無料。ミュシャの作品展としては珍しく撮影可能となっている。(オルタナS編集長=池田 真隆)

国立新美術館とは異なるミュシャの作品が、ポストカードから大型ポスターまで約100点飾られている=6月3日、伊藤忠青山アートスクエアで

同展覧会の名称は、「FEEL THE Mucha HEART ~民衆のための芸術(デザイン)とチェコへの愛~」。会場となる、伊藤忠青山アートスクエアは伊藤忠商事が運営する社会貢献型ギャラリー。今回は「国内外の芸術や文化の振興」「地域貢献」を目的としている。

2017年は日本とチェコの国交が回復して60周年の節目の年だ。同社ではメセナ活動として、国立新美術館(東京・港)で行われる「ミュシャ展」に協賛した。その開催記念として、同じ港区内にある伊藤忠青山アートスクエアでの展覧会を、女性社員でタスクフォースを組んで企画した。花や女性で装飾された作品を多数展示し、「This is the Mucha Style!」「デザイナーMuchaの活躍」「チェコへの愛」の3つのテーマで、ミュシャのデザイナーとしての活躍を紹介する。

「作品を通してミュシャの心を理解してほしい」――。こう話すのは、今回の展覧会に協力した尾形寿行さん。尾形さんはミュシャの個人コレクターであり、ポストカードに関しては、世界に180種類あるうちの170以上を所有している。

観覧者へ作品を解説する尾形さん=6月3日、伊藤忠青山アートスクエアで

尾形さんは、「デザインの美しさだけではなく、祖国を愛した一人の画家としての生き方に魅力を感じた」と話す。ミュシャは1860年にオーストリア=ハンガリー帝国領モラヴィア(現・チェコ)で生まれた。ドイツ・ミュンヘンの美術学校を卒業後、34歳でフランス・パリに渡り、商業デザイナーとして有名になる。美しい曲線美で描かれた絵は「ミュシャ・スタイル」といわれ、街角に貼られた商業用ポスターでさえすぐに盗難されるほど見る者を魅了させた。

ミュシャが手掛けた商業用ポスターは「芸術品」として人気を博した

50歳を機に、「芸術を民衆のために生かしたい」という思いで、パリから祖国チェコに戻った。プラハ近くにアトリエを構えて、そこで約16年をかけて歴史画「スラヴ叙事詩」(全20作)を描き上げた。この作品は、チェコ及び、周辺の異民族との混交や対立を繰り返してきたスラヴ民族の歴史や神話を描いたものだ。さらに、1918年に独立を宣言した新生チェコスロヴァキア共和国の新政府から、切手や国章、紙幣などのデザインを依頼され、すべて無償で引き受けた。

祖国チェコに戻ってから公共品のデザインを無償で引き受けた。写真はスラヴィア銀行の保険証書

芸術を公益のために生かす考えは、ミュシャは若い頃から持っていた。そのことを象徴するある言葉が有名だ。それは、「私は芸術のための芸術を創るよりも、大衆のための絵の制作者でありたい」。その言葉通り、ミュシャはリトグラフ(石版画)に作品を描き、一般民衆でも購入しやすい価格で装飾パネルを販売した。

同展覧会では、ミュシャのデザインや心、そしてチェコの文化についてもっと知ってほしいとの思いから、音楽を愛したミュシャらしく、チェコの有名作曲家のクラシック音楽を館内で流すとともに、撮影も可能とした。国内でのミュシャの作品展としては異例のことだ。尾形さんは、「作品と一緒に写ったりして、この空間を楽しんでほしい」と話す。

同展覧会の企画者の一人である伊藤忠商事サステナビリティ推進室の吉田あずささんは、「典型的なミュシャ・スタイルの作品から、パリで流行った商業ポスター、そして、祖国のために描いた作品まで分かりやすく展示している。また、タスクフォースのメンバーでミュシャのデザインの特徴を楽しめるイベントをたくさん企画したので、ぜひ参加してほしい」と言う。

女性と花で美しく描かれたミュシャ・スタイルの作品

同展覧会は7月2日まで。開催時間は11時から19時。12日には作品の中に隠されたハートを探すイベント、18・25日には、ミュシャが描く女性が身につける花を手本に、フラワーアクセサリーをつくるワークショップを行う。詳細は、伊藤忠青山アートスクエアの公式サイトまで。

【FEEL THE Mucha HEART ~民衆のための芸術(デザイン)とチェコへの愛~】
とき:7月2日(日)まで(会期中無休) 
開催時間:11時~19時
ところ:伊藤忠青山アートスクエア(東京・港)
入場無料

◆イベント情報
【隠れたHEARTを探せ!】
6月12日(月)~ (なくなり次第終了)
ミュシャの作品に描かれているハートは、愛や心をあらわすとともに、チェコの国樹であるスラヴ菩提樹を象徴しています。展示作品の中に隠れたハートを探し、ミュシャグッズをゲットしよう!

【ワークショップ「“Mucha Style”でフラワーアクセサリーを作ろう」】
ミュシャの作品の重要なモチーフである花に着目し、ヘアアクセサリーにもなるブローチピンを作ります。ご自分のために、或いは大切な人のために、ミュシャの気持ちになってデザインしてみましょう!
6月18日(日)・25日(日)
各日
①13:00~14:00 学生対象(小学生以下は保護者同伴)
②14:30~16:30 大人対象
参加料: ①2500円 ②4500円
定員: ①5名(同伴の保護者含めて10名)②8名 事前申込制
講師:長峰幸代氏(フラワーデザイナー)

【イベントのお申込・お問い合わせ先】
伊藤忠青山アートスクエア TEL:03-5772-2913

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