障がいの有無に関わらず、恋愛や結婚は多くの人にとって関心の強いテーマの一つだろう。障がい者の就労支援などのソーシャルビジネスを手がけるゼネラルパートナーズ社が行った調査によると、多くの障がい者が交際を望んでいることが分かった。一方で、交際相手がいる人の割合はわずか2割。障がいがあることで、恋愛に臆病になってしまう人も少なくないようだ。パートナーと付き合ううえで、障がいはハードルになるのか。車イスに乗る女性3人組からなる「Beyond Girls」が、恋愛観について話し合った。(オルタナS編集長=池田真隆)
小澤綾子さん:
千葉県君津市生まれ。20歳のときに進行性の難病「筋ジストロフィー」と診断される。10年後には車イス、その先は寝たきりと医師から告げられ、人生のどん底に落ちる。しかし、元気でいられる時間が限られているなら、今を全力で楽しく生きていこうと決め、「筋ジスと闘い歌う」ことを掲げて活動。イベント・学校・病院・老人ホームなどで講演やライブを行い、病気・障がいの認知活動を行っている。普段は日本IBM 次世代育成推進部門に勤務し、ダイバーシティー研修や人材教育などを担当している。
中嶋涼子さん:
東京都大田区生まれ。9歳の時に下半身不随になり車イスでの生活へ。突然の障がい受傷により希望を見出せずにいた時に、映画「タイタニック」に心を動かされる。以来、映画を通して世界中の文化や価値観に触れる中で、自分でも映画を作って人々の心を動かせるようになりたいと夢を抱き、単身渡米。米国の大学を卒業後は日本へ帰国し、FOXネットワークスで映像エディターとして働く。現在はフリーランサーとして、様々な分野で日本(人)をバリアフリー化するための活動に取り組む。
梅津絵里さん:
秋田県生まれ。結婚を機に東京から福岡に移住。幸せ絶頂の中、難病の「全身性エリテマトーデス(SLE)」と宣告される。2006年、脳脊髄炎で倒れ、長期入院。一時は植物状態の寝たきりになるが、家族や友人に支えられ、懸命な治療の末に回復。病気や障がいがあっても『自分らしさ』を大切に生きていけることを目指し、障がいを抱える大人の女性のためのコミュニティ「Handycapped Womenオトナ女子」を立ち上げる。
――皆さんが初めて付き合ったのはいつ頃ですか?
小澤:私もえりちゃん(梅津さん)も初めて付き合ったのは障がいを受傷する前。2人とも高校生の頃だよね。涼子ちゃん(中嶋さん)はいつだった?
中嶋:私は割と遅くて、高校を卒業した18歳の頃。アメリカに留学していたときに出会ったクラスメイトのディビッドって言うポーランド人が初めての彼だったかな。
梅津:どっちから告白したの?
中嶋:向こうから告白してくれた。
小澤:外国の人って、障がいをあまり気にせず声をかけてくれる人が多いよね。相手が車イスに乗っていてもナンパしてくるし。
中嶋:そうそう。なんで車イスに乗っているの?ってストレートに聞かれる。ちなみにディビッドとは大学の図書館で出会って、それから課題を一緒にやるようになって徐々に仲良くなったの。それで、あるとき大学の課題で観に行ったコンサートの帰り道に告白されて、、
小澤:初めて付き合えたときはうれしいよね(笑)
中嶋:うん、電車に乗っていると自然とにやけてしまうほど舞い上がったり(笑)。初デートは映画館だったんだけど、緊張して死ぬかと思った。日本では中学・高校とも女子校で、恋愛するよりも女友達と遊ぶほうが楽しかったから、恋愛にはまったく興味なかったし、まさか自分が付き合えるとも思ってなかったな。
――恋愛したときの幸せそうな様子がすごく伝わってきました。ところで、皆さんは、障がいがあることで恋愛することに臆病になったりしたことはありますか?小澤さんや梅津さんは結婚されているので、ご主人との関係でも結構です。ゼネラルパートナーズ社が行った調査では、交際していない理由として「交際が怖い」といった意見も多く見られたのですが。
梅津:私の場合は、車椅子に乗るようになって以降、引け目を感じるようになりました。なんだか相手に申し訳なくなってしまうんです。
小澤:その気持ち分かる。私も隣に並ぶことを恥ずかしいと思うようになった。特に、旦那さんやおしゃれな人の隣に私がいると、その人までダサいと思われてしまうんじゃないかと思って、、
中嶋:それはあるね。
小澤:それに一緒に並んで歩いたときに、目線の高低差も気になっちゃう。目線が同じ位置のときは、話にスッと入っていけるんだけど、車イスに乗ってからは目線の位置がかなり違うから、すんなり話に入っていくことができなくなったな。
梅津:私も旦那さんとおしゃれなレストランに行ったりすると、この空間に車イスは溶け込んでいないんじゃないかって思ってしまう。向こうも気恥ずかしさを感じているんじゃないかと不安になる。
だから人目を気にしないでいいドライブデートとか映画館に行くと安心する。相手も座るから同じ目線で話せるし、その方が自然とオープンになれる。
中嶋:私は9歳から車イスに乗っているから、パートナーといても特に気にすることはないかな。でも、それは20年以上経っているからそう言えるんだと思う。
――そういった悩みや不安をパートナーと話し合ったりしますか?
梅津:実はついこの前、旦那さんに「一緒にいるときに人目が気にならない?」と率直に聞いてみたんだけど、「いや、気にならないよ。まったく」と言われて、自分が勝手にバリアを張っていたんだと気付きました。
小澤:うちの旦那さんも物事をはっきり言うタイプなんだけど、私が「車イスに乗っている人と一緒に歩くと周りからダサいと思われてしまうのを心配している」と言ったら、「そんなの気にしないよ。お前はお前だろ」と。こう言われたときには、うれしいなぁと思った。えりちゃんも言うように、うちらのほうがバリアを張っていたのかもね。
――そんなパートナーと出会うにはどうしたら良いと思いますか?
小澤:私の場合、旦那さんとは職場で出会ったんだけど、いまは他にも出会えそうな場ってありそうだよね。ユニバーサルデザインやダイバーシティに関心がある人が集まるようなイベントとか。そういう場所だと、最初から障がいに対して理解のある人が多いような気がする。
中嶋:私は一時期、恋愛アプリを使ってたかな。アプリ上では顔写真でマッチングするから車イスが写らないんだけど、連絡を取り合い始めたら、早いタイミングで障がいのことを打ち明けてた。
相手の反応はさまざまで、「気にしないよ」という人もいれば、「無理」とすぐに断ってくる人もいた。
中には「付き合える自信がない」と言いつつも、まずは会ってみようということになった人もいて、結果的にはその人とは付き合えたんだ。後日その彼の実家に遊びに行ったときに、お母さんから「彼がデートの前にネットで車イスのサポートの仕方を一生懸命調べていた」と聞いて、優しいなと思いました。
うちらもそうだけど、障がいがあるからといって、お互いにそんなに構え過ぎないほうが良いのかなと思う。
それに、車イスに乗っていることって、悪いことだけではないと思うし。例えば、上目遣いができるから可愛く見られるのはいいよね(笑)
梅津:二重アゴも見えないしね(笑)
中嶋:車イスを後ろから押してもらっているときに、顔を彼氏の方に上げてキスされるのも好き。これは車イスに乗っている人じゃないとできないことだと思う。
梅津:私も、わざと疲れたって言って、手をつないで車イスを引っ張ってもらうことがある。旦那さんは人前で手をつなぐことを嫌がるんだけど、そんなときは手をつないでくれるんだ。
小澤:なるほどー。車イスに乗っていても、かわいくなれるポイントがたくさんあるのね。
――そんな風にこれまで恋をしてきたことで、ご自身の内面に変化とかってありましたか?
梅津:車イスに乗っているからこそ、おしゃれを意識するようになったし、美意識は上がったかなって思う。
小澤:それと、誰かが自分のことを大切にしてくれることで、自信を持つことにもつながっているよね。障がいがあると自己肯定観が低くなりがちだけど、自分のことを好きな人がいてくれることは心の支えだなって、、
梅津:うんうん。愛されているって分かると、気持ちもリラックスできるよね。
中嶋:私も18歳でディビッドと付き合う前は太っていたし、障がいもあったから、恋愛なんてできないと思っていた。
でも、彼から告白されて、私でも付き合えるんだって思い、そこから徐々に恋愛に抵抗がなくなっていった。
小澤:病気が分かったときに、私もそのことがすごく心配だった。恋愛できるのかな?将来、結婚できるのかな?って。杖を持った私を誰も好きになってはくれないと思っていた。
中嶋:でも、付き合えるよね。
小澤:うん。相手は私の人となりを知って好きになってくれて、障がいは気にしてなかった。
梅津:世の中には、外見だけじゃなく内面も含めて好きになってくれる人もいるから、恋愛に臆病にならないでほしいな。
小澤:好きって気持ちを大事にしてほしいね。私の場合、旦那さんには自分から告白したんだ。一度は振られたんだけど、諦めたくなかったから何回も告白したすえに付き合えた。
中嶋:私は28歳になって周りが結婚し出してから、焦って恋愛アプリでいろいろな人とデートした。半年で10人くらいには会ったかな。なかには変な人もいたけど、良い人もいた。そんな経験をしたことも、自信につながったかなって思う。
梅津:そうそう。場数に勝るものはないよね。良い経験も悪い経験も自分にとってはプラスになるから、出会いがありそうなイベントには積極的に出向いたり、気になる人がいたら声をかけてみてほしいな。
小澤:そうだね。自分が思っているよりも障がいは恋愛することのバリアにならないんじゃないかなって思う。
【Beyond Girls(ビヨンドガールズ)】
小澤綾子さん、中嶋涼子さん、梅津絵里さんからなる団体。メンバー全員が中途障がい者で、その経験を生かして「多様な価値観」を発信している。主な活動は「アーティスト・モデル活動」「企業への講演」「動画配信」など。障がい者のイメージを覆し、「違い」を楽しむ方法を発信している。
ホームページ:https://peraichi.com/landing_pages/view/786rw
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