タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう
なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)
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◆逃亡者と逃亡車
金髪で黒い顔の裁判官は何事もなかったように書類をめくりながら何か言った。車は何だったか?と聞いています。」オシロが言った。「白のダットサンや」小室が答えたのをオシロが裁判長に通訳した。「確かか?」と裁判長が念を押すと「リオ ムゼー」とピーターが答えた。
裁判長が末広に目を向けたので末広は深く頷いた。裁判長は首をひねりながら書類に何かを書くと、もう一度オシロに何か言った。オシロは「本当に白のダットサンか?と念を押しています」と伝えた。三人は互いに見合って頷き合った。
「ちげーねえよ」末広がオシロに言うとオシロはそれを裁判長に伝えた。すると裁判長は不機嫌そうにオシロにまた念を押した。オシロは「嘘ではないですね?」と三人に問うとピーターがよく覚えていないと言い出した。オシロとピーターはスワヒリ語でしばらく話して、裁判官たちはそれに耳を傾けた。小室は末広に「こいつ何をしゃべってるねん」と尋ねてきたので、末広は思わず、「ピーターのやつ寝返ったんじゃねえですかね」と答えた。
すると小室は「余計は事喋るんやないで」と関西弁で叫んだ。裁判官は「ビークワアット」と傲然と小室を諭した。オシロは「シー」という表現でそれを訳した。小室は「誰にゆうとるねん」とオシロに言い返した。オシロは「あなたにです」と答えた。
末広は「たしかにそれは正しい日本語だ」と思った。しかしなんだか日本人二人が孤立したような雰囲気が法廷に充満した。まずいなー。裁判長はオシロに何か言うと「裁判所の中庭に下りてくれと言っています」とオシロはそれを通訳した。「なんでや」「その車が中庭に置いてあるのです」。なるほどと小室は思った。で、その車が白のダットサンではなかったらどうなるのだろうか?
「違っていたらどうなるんですか」
小室に聞いてみた。
「間違いあらへん、白の日産や、オシロとピーターの奴、寝返りおって」
なんだか偽証している日本人の犯人二人が実況見分の末、言い訳できない立場に追い込まれる様な雰囲気になってしまったように末広は感じた。制服の守衛に促され、皆は一団となって階段を降りた。そこは四方をコンクリートの壁に囲まれたコンクリート敷きの空き地だった。きっとケニア独立戦争のさなかには何人かの革命家がここで処刑されたのだろうと末広は思った。
植民地時代は植木や花が咲いていただろうに。
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