多くの図書館では「私語厳禁」だが、型にはまらない、「おしゃべり自由」な図書館が長野県小布施町にある。役場職員のOBが館長を務めることが慣習だったが、斬新な発想を取り入れるため全国から館長を公募した。(武蔵大学松本ゼミ支局=松本 祐太郎・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
その図書館は長野県小布施町にある公立図書館「まちとしょテラソ」。町民の声を大事にして建てられたこの図書館は、もともと昭和54年に村役場の三階に建てられた普通の図書館だった。当時の建物は狭かったことに加え、エレベーターもなく高齢者や子ども連れには不便であったため、平成に入ると早くも建て替えてほしいという要望が出たという。
この要望に応えるため、町民と職員からなる「図書館の在り方検討会」を発足させ、町政懇談会で何度も町民の声を聞きながら慎重に進められた。設計者を全国公募したのちに平成21年、今の「まちとしょテラソ」が建てられた。
実は、この図書館が全国公募を行ったのは設計者だけではない。「館長」も公募したのだ。「これまでは役場職員の OB だったり、地元の中学校の校長先生だったりに館長ををお願いしていたのですが、新しい図書館にしたかったので、新しい発想を持った人に依頼したいと考え全国公募しました」と三輪さんは語る。
初代館長は映像関係に長けた人物。ワークショップを積極的に開き、デジタルアーカイブを撮る事業を進めた。出版社の編集部長であった二代目館長は町民を対象とした童話大賞などの作品賞をつくった。型にとらわれず、館長の経歴を活かした取り組みを行うのも、この図書館の大きな魅力である。
取材中、館内には小気味よい軽音楽が流れていたり、利用者が会話したりする声が聞こえた。一般的に図書館では、私語厳禁だが、ここでは職員も他の利用者も誰も気にも留めない様子であった。
「図書館では静かにしないといけないというイメージを持っているかもしれません。子連れで利用されるお母さんは子どもがちょっと声を大きくすると指を当てて、『シー』と言いますが、私はあえて『そんな必要ありませんよ』と声をかけるようにしています」と市村さんは語る。
ここでは映画の上映会を開いたり、子どもたちに読み聞かせをするときには笛を吹いたり鐘を鳴らしたりするという。さらには過去、議会報告会を図書館のロビーで開催したこともある。
「まちとしょテラソ」は、学びの場や交流の場としての役割を担い、いまや町民にとってのシンボルになっている。型にとらわれない取り組みを行うことで、従来の図書館のイメージを払拭したこの場所は、新たな図書館のあり方を示しているのかもしれない。
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