多くのCSR担当者が抱える悩みの一つに「社内浸透」がある。パリ協定やSDGsが採択されたことで、非財務領域(ESG)を重視した経営にシフトする企業が増えているなか、社内浸透はどのように進めていけばいいのか。サステナビリティ戦略のコンサルティング事業を手掛けるニューラルの夫馬賢治CEOに聞いた。(オルタナS編集部)

ニューラルの夫馬CEO

CSR(サステナビリティ)が社内に浸透している状態とは、社員が、自分の言葉で自分の仕事の使命や長期的な役割を説明できている状態だと思います。サステナビリティと経営が統合している企業では、仕事の使命を語れる社員が多く出てきます。

海外のフォーラムに参加していると気付くことがあります。それは、プレゼンテーターがCSR、特にSDGsという言葉をあえて使わないで登壇しているということです。それはSDGsが軽視されているという訳ではありません。

「SDGs」のために事業に取り組んでいるのではなく、SDGsという言葉生まれる前から(サステナビリティ活動に)取り組み続けてきているからこそ、あえて使う必要がないのです。「2015年にSDGsが採択されたから取り組み始めた」と伝えることは自発的ではなく、「国連がSDGs を定める前にはサステナビリティの重要性に気づかなかった」というコーポレートガバナンスの低さを吐露することとなり、恥かしいこととさえ思っています。

なぜ日本企業はCSRの社内浸透に苦戦するのか。その大きな要因は、経営を短期で考えがちだからだと思います。日本企業は市場環境の変化がめまぐるしいため、20~30年先を予測することは難しいと考え、長期的な目標設定を避ける傾向にあります。一方で、ユニリーバやマークス&スペンサーなどは2010年時点で2030年の目標をバックキャスティング方式で考えています。

いま企業の非財務領域を投資の指標にするESG投資が盛り上がりを見せていますが、長期的な視点で社会や環境、市場動向を考えると、機関投資家がESG投資を選択することは、「自然なこと」と言えます。特に規模の大きい機関投資家は長期リターンを上げるという不可欠なミッションを背負っていますので、「最近はESG投資の流れが来ているから」という流行りだけで、ESG投資を行う機関投資家はいないでしょう。もしいたとしたら、それも同様に恥ずかしいことと言えます。

■「NGOとの距離」日米に差

海外と日本の違いとして、NGOとの距離もあります。海外では企業とNGOの距離が非常に近い。経営者とNGOの代表が気軽にコミュニケーションを取っている姿をよく目にします。関係性を持つことでお互いにとってメリットがあると認識しているから、信頼関係が生まれています。

NGOにとって企業との付き合い方は、大きく2つのタイプがあります。まず、企業に対し耳の痛いことを言うNGO。企業にとっては、大きな経営リスクが潜んでいるかもしれないということを知るアラートの役割を果たします。もうひとつは、発見された課題を一緒になって考えてくれるNGO。企業にとってはシンクタンク的な役割を果たします。

例えば、国際環境NGOのグリーンピースは日本では危険視されていますが、海外では、ときにはシンクタンク役として動くこともあります。一例を上げると、北欧での銀行との関わり方はシンクタンク的で、一緒に声明を発表したり、フォーラムに登壇することすらあります。どちらのタイプのNGOだとしても、企業は見方を改めて、もっと積極的にコミュニケーションを取るべきです。社内浸透を進める重要な方策として、NGOとの付き合い方も考え直すべきだと思います。(談)

夫馬賢治:
株式会社ニューラル代表取締役CEO。サステナビリティ経営・ESG投資アドバイザリー会社を2013年に創業し現職。同領域ニュースサイト「Sustainable Japan」運営。環境省ジャパン・グリーンボンド・アワード選定委員。ハーグ国際宇宙資源ガバナンスWG社会経済パネル委員。講演、新聞や雑誌への寄稿、ラジオ出演等多数。ハーバード大学大学院在籍。サンダーバード国際経営大学院MBA修了。東京大学教養学部卒

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