小児がんや慢性疾患などで長期の入院や療養を余儀なくされた子どもたちは、病院にいる時間が長くなる分、社会体験が不足しがちです。「学校に戻っても自分の居場所がないかもしれない」「勉強についていけないかもしれない」、そんな不安を抱える子どもたちへ学習や復学を支援する団体が岡山にあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)
病気を抱える子どもたちの復学や自立を支援
岡山市を拠点に活動する認定NPO法人「ポケットサポート」は、小児がんや慢性内臓疾患などで長期の入院や療養が必要な子どもたちに対して、学習・復学・自立支援を行っています。
代表理事の三好祐也(みよし・ゆうや)さん(34)は、5歳の頃に慢性の「ネフローゼ症候群」を発症し、義務教育のほとんどを病院で過ごしました。自身の経験から、慢性疾患のために継続的な治療をしていたり、生活の中で規制が必要な子どもたちを支えたいと団体を立ち上げ、活動を始めました。
「病気による制限はあるかもしれません。しかし、制限の中では思いっきり遊んだり学んだり経験したりできるわけです。その環境を僕たちが提供できれば」と活動への思いを語ります。
病気の子どもが抱える不安とは
「病気の子どもたちが抱える課題は、物理的なものから心理的なものまで幅広い」と三好さんは指摘します。
「まず、入院そのものが子どもにとっては大きな変化。この間までは元気で走り回っていたのに、ある日突然『動いてはいけません』という状態になる。お父さんお母さん、きょうだいやペットからも切り離される。家族との分離体験が、子どもにもたらす影響は少なくありません」
「次第に病院の生活に慣れて病状が安定してくると、次に訪れるのは『このまま自分はどうなっていくんだろう』という不安です。最初は治療で精一杯ですが、命が守られてなんとなく生活ができるようになってきた時、目の前の病気や治療のことから『学校はどうなっただろう』『友達はどうしているだろう』と気持ちが病院の中から外にシフトしていきます」
「一方で退院できる時期になると、元の生活から長く離れていた分、『退院した後、どうしたらいいんだろう』という不安を覚えます。
退院の際に『もとの生活に戻る』という表現こそ使いますが、病気になる前に戻ることはできない。病気を経験した自分は、病気を経験する前の自分ではない。病気を抱えながら共に生きていかなければならないんです。病気が完治したとしても、そこまでにかかった時間は取り戻すことはできません」
「病院ではどうしても疾患を見られて、自分を見てもらえない」
「入院中、ベッドに横になって見上げると白い天井があって、隣には点滴の棒があって。入院中はポジティブなことが考えられなくなるというか、『病気の自分』しか想像させてくれない空間なんです」と三好さんは自身の経験を振り返ります。
「病気になって入院すると、たとえば『◯◯病の◯◯くん、◯◯ちゃん』というように自分の枕詞(まくらことば)がその病気になってしまう。疾患を見られて自分を見てもらえないというか…。命を救うために入院しているわけなので治療が優先なのは理解できるし、ある種それは仕方がないことではあるのですが…、『本当に仕方がないことなのか』という疑問があります」
「(退院して)普段の生活に戻ったとしても、その経験が心の中に残っている。僕たちが携わることで、この体験は決してネガティブだけではないということを感じてほしいと思っています」
学習支援や交流を通じ、子どもたちと関係性を築く
ポケットサポートは、平成30年度から岡山市の委託事業として慢性疾患の子どもたちの自立支援のための相互交流支援業務を2つの病院で行っているほか、週に1度、事務所を開放して学習支援活動や、訪問やテレビ電話による個別の学習支援活動も行っています。
「病院訪問では本人のやりたいことを尊重し、関係づくりを意識しながら一人ひとりの子どもに合わせたサポートを心がけています。
本人ではなく看護師さんの方からから『こういう関わり方をしてほしい』と希望をいただき、そこを中心に子どもと関わることもあります」
「個別の学習支援では、入院や療養していた間の学力を取り戻すために勉強したいけれど、一般の家庭教師には体調のことをなかなか理解してもらえなかった、気にしてもらえなかったといった背景から、主治医の先生の紹介やホームページを見ていただいた親御さんからの依頼が多いです」
空白を埋めることが、子どもたちの自信につながる
「病気になって体がちょっと不自由だったり、体力がなかったりということがあるかもしれません。でも四六時中調子がわるいわけではないし、一緒にできることだってある」と三好さん。
「自分の経験を振り返っても、勉強したり宿題したり、病院の外の人と関わっている時が、病気の自分から離れられる時でした。『病気だから寝てなさい』と言われて、ひとりぼっちで天井を見上げる、みたいな状態に置かれているからそうなってしまうだけであって、その時間に子どもたちに環境を用意してあげることができて、教育や体験、経験を育み、空白(ポケット)を埋めることができたら、それはきっと、子どもたちがより良く自分らしく生活していくことにつながっていくのではないでしょうか」
「『入院していたからできない』『わからない』という子に、つまずきや空白を埋めるサポートをすると『できた!』『解けた!』となります。それが自信になって学校生活にすんなり戻れたり、宿題のプリントをちゃんと最後まで終わらせられたり、すごく些細で小さな一歩かもしれないけれど、先に進むための大きな一歩につながります。理解して関わり、見守りながら空白を埋めていくことができたらと思っていて、それが僕たちの『ポケットサポート』なんです」
一人ひとりのパーソナルな良い部分を見つけて、支える
「たとえば理科の勉強が抜けている時に、その部分を補うことだけがサポートのすべてではない」と三好さんは言います。
「勉強が追いついていないことによる喪失感や自信のなさを埋めることができたらと思っていて、きっかけは理科の勉強かもしれないけれど、もう少し浅い部分なのか深い部分なのか、彼らがひっかかりやつまずき、空白に感じている部分があるのではないかということは、常に気にかけるようにしています」
「子どもたちの中には、不安や悩みが強いタイプの子もいれば、傷つかないようにバリアを張るタイプの子もいます。しかし関わりの中で信頼関係を築いていくと、ぽろっと本音が出たりするんですね。その時に表面的ではない、深部のところをすくえるかどうかが大切だと思っています。学校の先生や医療スタッフではない第三者としての関わりというのは、一人ひとりのパーソナルな良いところを見つけて支えることではないでしょうか」
「病気だから仕方ない」を変えていきたい
「『病気だから仕方がない』は本当に仕方のないことなのでしょうか」と三好さんは疑問を投げかけます。
「入院していた時の不安や悩みは一過性のものになりがち。喉元過ぎると熱さを忘れるじゃないですが、退院して、病気を抱えながらもなんとなくふつうの生活に戻っていく。でも、当事者の経験が生かされないままに課題がそのまま残っているのは実は社会的な課題なのではないかと感じ、NPOを立ち上げました」と活動を始めたきっかけを振り返ります。
「学会でも病気を抱える子どもたちへのサポートについて取り上げられるようにはなってきましたが、まだまだこれからの分野です。医療や教育はどうしても縦割りになりがちですが、今後も医療機関や教育機関、行政とも連携しながら、切れ目のない支援を提供していきたい。病気の子どもたちの支援は直接当事者からお金を得ることが難しいので、活動を継続、発展させるために資金調達にも挑戦していきたいと思っています」
病気を抱える子どもたちのための夏祭り開催を応援できるチャリティキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、ポケットサポート と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×ポケットサポート」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、ポケットサポートが病気を抱えた子どもたち向けに実施している「夏祭り」の開催資金となります。
「2012年から毎年行っているイベントで、今年で8回目の開催です。バリアフリーの室内で医療的なサポートも入れながら、スーパーボールすくいや射的をやったり、流しそうめんをやったりと、病弱児もみんなでワイワイ楽しめる空間です」(三好さん)
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、たくさんの宝物を積んで前に進む船。子どもたちが様々な経験や思い出の宝物を胸に、未来へと羽ばたいてほしいという思いが込められています。チャリティーアイテムの販売期間は、7月1日~7月7日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・長期の入院や療養によって学習や体験の機会を失ってしまう子どもたちの「空白」を埋める〜NPO法人ポケットサポート
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,000万円を突破しました。
【JAMMIN】
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