「障害者雇用促進法」という法律をご存じだろうか。

一般の民間企業(従業員数56人以上)が、雇用する労働者の1.8%以上の障がい者を雇用することを義務付けているこの法律。
 
もともと、障がい者の雇用を支援するために作られたものだったが、「障がい者にどのような仕事をしてもらえばいいのか分からない」企業が多いのが現状だという。


そういった障がい者の雇用の問題に対してヒントを与えてくれるのが、以前にも紹介した暗闇のエンターテイメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下略、DID)」だ。

(以前記事リンク http://alternas.jp/love-2/2011/07/3409.html )


夏休み中の小学生からビジネスマンまで、毎日不特定多数の参加者が来場するDID。
同イベントでは8月1日~31日の期間、インターンシップが開催されている。

全国から集まった20名のインターンシップ生たちは多様な参加者を通して社会とのつながりを体験することになる。


早速、3人のインターンシップ生にその感想を取材した。

 
■「自分のために」ではなく「誰かのために」働く

DIDのインターンシップの最大の特徴は障がいを持つ学生も持たない学生も同じ環境で働くということだ。

視覚障がいを持たないインターン生は受付業務、視覚障がいを持つ学生は、暗闇の会場内にあるBARでアテンドの補佐を3日間行うことになっている。

視覚障がいを持たないインターン生の清田さんは

「DIDは視覚を使わない暗闇のイベントなので、普段以上に人とのコミュニケーションが求められる。お客様に積極的に話しかけ、緊張を解く心遣いやおもてなしをしてあげることにやりがいを感じた」と語り、

インターンを通して

「人は誰かのために働くのだ」と思ったという。


全盲の高校生インターンの菅野さんが、

「普段は誘導される側だけど、DIDでは自分が誘導する側になる」

と話すように、DIDでは、視覚障がい者と健常者の立場が対等になる。


就職活動中で弱視の森さんは

「今まで誰かを楽しませたりとか、満足させたという経験がなかった。誰かに喜んでもらえる嬉しさや大変さを知れたことが収穫」

「自分のために仕事をしなければいけないと思っていたが、誰かのために働きたいと思うようになった」と語る。

(写真左が森さん、右が菅野さん)

視覚障がいの有無に関係なく、同様に出てきたのは「誰かのために働く」という感想。

人とのつながりを濃厚に感じるDIDならではの体験だ。


■「見える見えない」を忘れたインターンシップ期間

また、清田さんはインターンを通して「(障がいの有る無しではなく)誰にでも『出来ること』と『出来ないこと』がある」と感じたという。

視覚を用いずに、空間を把握する能力に長けている視覚障がい者は、その能力を活かして暗闇の案内人を務める。

視覚障がいのない者は自然「受付業務」や「会場内のメンテナンス」などを行うことになる。

森さんが「今インタビューを受けるまで、見える見えないというお互いの関係性を忘れていた。」と言うくらい、DIDでは一人一人が出来ることを分担して行っている。


「見えるスタッフ」と「見えないスタッフ」が、お互いに出来ることと出来ないことを補い合う対等な連携の中で、「ただの暗闇」に付加価値がつけられる。

他にはないDIDの最大の特徴をインターン生は自然に感じていた。


■「一人一人が能力の発揮出来る社会へ」 

DIDの広報、林さんは
「視覚障がい者は、視覚がないからこそ世界の認識の仕方が多様。そのような個性を活かせば、障がい者だからこそ出来る仕事を作れるはず」

「(視覚障がい者にとって)DIDが特別なのではなく、多くの企業でやりがいのある仕事が出来るような仕組みや組織が増えるといい。」とその想いを語る。

DIDを体験すれば、これは障がい者だけの雇用の問題では無いことに気が付く。

「企業を3年で辞める若者」が問題視されているが、これは果たして「何をしたらいいのか分からない」学生側だけの問題なのだろうか。


 ―誰にでも『出来ること』と『出来ないこと』がある。


一人一人が社会で働くということの意味について、DIDの問題提起には深く考えさせられるものがある。(オルタナS特派員 鈴木純)