女性の社会進出や晩婚・晩産化が進み、「結婚して、家庭に入って子どもを産む」というこれまでの女性のあり方も、多様な背景によって大きく変わりつつあります。一方で、まだまだ知られていないのが「不妊」に関すること。5.5組に1組のカップルが不妊の検査や治療を受けているとされます。「不妊は特別なことではないと知ってほしい」と活動するNPOに話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

不妊の当事者支援と啓発活動を行う

当事者が語り合う「おしゃべり会」の様子

「現在・過去・未来の不妊体験者を支援する会」として活動するNPO法人Fine(ファイン)。不妊を特別なことではなく、普通に話せる社会の実現に向けて活動しています。

「『結婚したら、自然と子どもを授かるもの』という意識があるために、不妊治療への理解を得づらかったり、周囲へ話すことが難しかったり…孤立してしまう人たちがいます。そしてまた、女性自身の『結婚して、子どもはいつかは欲しい』という漠然とした認識が、本人やパートナーとの将来設計に大きく影響してくることがあります」と話すのは、団体理事の野曽原誉枝(のそはら・やすえ)さん。自身も44歳で高齢出産を経験した当事者です。

お話をお伺いしたFine理事の野曽原誉枝さん

「不妊は特別なことではありません。現在不妊治療をしている人だけでなく、過去に不妊で悩んだ方、そして未来に不妊で悩むかもしれない方にもサポートしていきたい」と野曽原さん。Fineでは、当事者が集まって話せる会を開催したり、団体が認定した不妊ピア・カウンセラーによる一対一やグループでのカウンセリング相談を行っているほか、アンケート調査を実施して不妊の状況や当事者の課題を把握し、それを広く世に伝えたり、国への要望書の提出などを行っています。主に管理職の立場にある人たちに不妊のことを知って欲しいと、企業向けに講座なども開催しています。

「不妊で悩んでいる方の負担を軽くするためには、当事者へのケアだけでなく、周囲の方たちに不妊について正しく知ってもらうことが大切」と野曽原さんは指摘します。

不妊の当事者が抱える「四つの負担」

年に一度開催される不妊当事者のお祭り「Fine祭り2018」にて、専門家による相談会の様子。不妊症看護認定看護師や認定臨床エンブリオロジスト(胚培養士)など専門家が集合し、個別に当事者一人ひとりの悩み相談に応じる

当事者や経験者以外に不妊のことが知られていないのには「公言しづらい」という背景があります。当事者は一体どのような負担を抱えているのでしょうか。

「四つの負担があると考えている」と野曽原さん。

一つが「精神的な負担」。「『子どもを授かれないかもしれない』という不安もあるし、治療を進める上でのパートナーとの意見の食い違い、治療をがんばっている中でも『子どもはまだ?』という周囲からの期待や、治療を周囲に理解してもらえないことに対しても、精神的に大きな負担がかかります」

二つめが「身体的な負担」。「治療のための投薬や注射は、めまいや吐き気などの副作用もあり、体への負担となります」

三つめが「経済的な負担」。「ほとんどの不妊治療は自由診療なので保険適応外となり、金銭面でも大きな負担がかかります」

四つめが「時間的な負担」。「特に体外受精や顕微授精を受ける場合、女性の毎月の生理周期、すなわち卵子の成長度合いに合わせて治療を行います。働きながら治療を受けている女性は、卵子の成長状態によって急に『二日後来てください』などと言われることがあります。不妊治療の特性上あらかじめ日程の調整や確定が難しく急なスケジュール変更を余儀なくされ、仕事の調整が必要になったり急な休暇を取ったりすることで職場での理解を得ることが難しい場合も多くあります」

「不妊ピア・カウンセラー」が当事者に寄り添う

対面カウンセリングの様子

Fineでは、団体設立当初の2004年より当事者支援の一つとしてカウンセリング事業を行ってきました。

団体が主催する「不妊ピア・カウンセラー養成講座」を受講し、認定資格を持つ、自ら当事者である認定カウンセラーが現在131人おり、全国13箇所で電話、あるいは対面によるカウンセリングを行っています。

カウンセリングの意図は、妊娠のためのアドバイスではなく、寄り添い、本人が困っていることを一緒に探っていくことだと野曽原さん。

「当事者の方に、妊娠に向けて『こうしたらどうか』とか『こういうのがいんじゃないか』といったアドバイスや情報提供はしていません。同じ経験がある当事者だからこそ、傾聴し、寄り添い、ご本人が本当に困っているのは何なのかを一緒に探っていきます」

心理やカウンセリングの専門家を講師に招いて、eラーニングと実践からカウンセリングに必要な知識と技術を学ぶ「不妊ピア・カウンセラー養成講座」も主催しているFine。当事者であるカウンセラー自身がで、「自分の体験や気持ちをきちんと整理できているか、落とし込めているかも大きなカギ」と野曽原さんは話します。

Fineのスタッフの皆さん。「Fineのスタッフはみんな当事者。子どもがいたり、いなかったり、環境もそれぞれです」(野曽原さん)

「本当のゴールは、子どもの居る・居ないに関わらず『それぞれがどんな状態や環境を幸せと感じるか』であり『自分たちカップルの幸せとは何か』『何を求めているのか』を知ることではないでしょうか」

「『子どもが欲しい』という思いの中にも、『血縁関係に関わらず子どもを育てたい』という方もいれば、『パートナーと血の繋がった子どもを育てたい』という方もいます。それぞれの思いを丁寧に紐解いていくことで本当の望みや課題が見えてきて、例えばパートナーと話し合うことが必要なのか、それとも里子を迎え入れることなのか、次のアクションや選択肢も見えてきます。漠然と思っていること、悩んでいることを丁寧に細かくみていくことが大切だと考えています」

「不妊は特別なことではない」

生殖補助医療で生まれた子どもの数の推移(Fine提供)

あるデータによると、1995年に不妊治療によって生まれた赤ちゃんが320人に一人だったのに対し、2016年には18人に一人となっています。

「これだけ不妊治療が身近になっているにも関わらず、多くの人が未だ不妊や不妊治療を『特別なもの、センシティブなもの』と捉えている」と野曽原さん。その背景に「『不妊治療を受けていることが人と違う』『特別な人』という意識が潜んでいるのではないか」と指摘します。

「当事者の中には不妊について『触れられたくない』と思う方もいらっしゃいますが、働きながら不妊治療を受けている方がいた場合、治療のために急に仕事を休む必要が出てきたりして、周囲に迷惑がかかってしまうこともあります」

企業での不妊に関するセミナー(管理職向け)の様子。初めて耳にする話に戸惑う男性も少なくないという

「勇気を出して上司に伝える、日頃から職場内での関係性を良くする、自分の業務を周りに共有するなど、突然の休暇にも対処できる環境作りも必要。周囲の理解と協力を得ながら働き方や意識を変えることで、お互いに負担が減るというケースも少なくありません」

「当事者が不妊治療していることを職場で伝えられず、居づらくなって仕事を辞めてしまったら、その人にとって自身のキャリア断絶になるし、企業側にとっても貴重な人材流出という損失になります。不妊は決して特別なことではありません。不妊や不妊治療を正しく理解してもらうこと・理解すること、当事者と社会の両方の歩み寄りがあってこそ、よい良い方向に進んでいくのではないでしょうか」

大切なのは「納得できる幸せ」を見出すこと

Fineは、産みたい&働きたい社会を実現するために、妊活および不妊治療の現状をまとめた「不妊白書2018」を日本で初めて発行した

フルタイムで管理職という立場の中、6年間の不妊治療を経て44歳で出産した野曽原さん。治療を続ける中で、仕事のスケジュールを調整したり、パートナーと気持ちをすり合わせたり、いろんな葛藤があったといいます。

「時には治療より仕事を優先することもありましたし、体外受精のための採卵も春と秋の2回と数を決めるなど、二人で話し合いながらの治療でした。毎回『次も(治療を)やるか、やらないか』の話をしたし、異なっている二人の思いをどこでどう折り合いをつけるのか、納得するまで話し合っていました。夫も大変だったと思います」

「不妊は特別なことではありません。自分の幸せとは何か。二人との幸せとは何か。それぞれに異なるその答えにたどり着くお手伝いをするために、今不妊に悩んでいる方、そして過去に不妊に悩んでいた方、未来に不妊に悩むかもしれない方、子どもがいる方にもそうでない方にも、思いを分かち合えたり、正しい知識を得られる場を提供していきたいと思っています」

不妊啓発のための資金を集めるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「Fine」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×Fine」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、東京だけでなく地方で当事者をはじめ不妊・妊娠に興味がある人たちに向けて不妊のことを伝える公開講座を開催するための資金になります。

「JAMMIN×Fine」10/7~10/13の1週間限定販売のチャリティーTシャツ(税込3500円、700円のチャリティー込)。Tシャツのカラーは全11色、チャリティーアイテムはその他バッグやパーカー、スウェットも

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、「ありのままの自然な心」という花言葉を持つペチュニアの花。”Be your own kind od beautiful”、「あなたらしい美しさ」というメッセージと共に、躍動感あるデザインに仕上げました。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月7日~10月13日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・「不妊」をタブーにしない。正しい知識の啓発で、女性が生き生きと輝ける環境を〜NPO法人Fine
https://jammin.co.jp/charity_list/191007-fine/

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。

【JAMMIN】

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