生と隣り合わせにありながら、まだまだ死が非日常的に捉えられ、タブー視されている現実があります。命と日々向き合うがん患者が自分らしく過ごせる場を運営しながら、日常の中で死をネガティブなものとしてではなく、その人が生きてきた人生を映し出すポジティブなものとして捉えられる文化をつくりたいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

がんになっても「大切にしたいものを大切にできる」場所

静岡県富士市にある「幸ハウス富士」。「病気になると目の前に壁が突然現れるような感覚になります。だからこそ、大きな窓でどこまでも遠くまで見渡せるようにしました」(川村さん)

もし、がんと宣告を受けたらあなたはどうしますか?余命宣告を受けたらどう感じるでしょうか。

「がんと宣告を受けた途端に、いきなり人生のレールから落ちたように感じる。でも、そんなことはなく、たとえがんになったとしても、その人がこれまで生きてきた人生、その人らしさ、大切にしてきたもの、大切にしたいものは、決して奪われることはない」と話すのは、NPO法人「幸(さち)ハウス」代表の川村真妃(かわむら・まき)さん(44)。医師として、これまで多種多様な死と直面してきました。

お話をお伺いした「幸ハウス富士」代表の川村真妃さん

「どんな人にも『大切にしたいもの』がある。それを大切にできる場さえあれば、『病気』にはなっても『病人』にはならないのではないか」と川村さんはいいます。

「病気になっても病人にならない場を」と2018年3月に静岡県富士市にオープンした「幸ハウス富士」は、がんと診断された患者とその家族や友人が気軽に訪れ、自分らしく過ごせる場です。毎週水曜に開放され、臨床宗教師との対話、ヨガやアロマセラピーなどのクラスが定期開催されています。

「身体はがんになっても心はがんに侵されていないということ、たとえがんになっても自分の人生は自分で選択できるということ。それを体感できる場所が『幸ハウス富士』です。私たちは常に寄り添い、傾聴し、どんな感情も包み隠さず、自分らしくいられる空間づくりを心がけています」

「たとえ病気になっても、その人らしさは失われない」

「幸ハウス富士」では毎週水曜日の午後に、リラックスヨガやアロマセラピー、宗教者とざっくばらんに話ができる「カフェ・デ・モンク」などのイベントを開催している

「病院では患者さんから『病気になったおかげで』という言葉はあまり聞かれないけれど、幸ハウスでは『病気になったおかげで、自分をいたわるきっかけができた』とか『病気になったおかげで、自分が本当にしたいことがみつかった』という声が聞かれます」と川村さん。

「私自身、医師として大学病院で働き、その中で多種多様な死と直面しました。病院や入院自体、患者さんやご家族にとっては非日常なものだし、医療従事者として肉体的な痛みの緩和以外で、患者さんのために介入できることはほとんどありませんでした」

医師として勤務していた頃の川村さん(左)。患者が病気になっても最期まで自分らしく過ごすことの大切さを痛感したという。お隣は夫の川村雅彦さん

研修医として働いていた頃、患者さんから「実は〇〇療法に興味がある」「がんに効くというサプリを飲んでいる」と代替療法について打ち明けられていながら、「主治医の先生にはいわないで」と、患者が本当の自分を見せられず、「いい患者」であろうとする姿に違和感を覚えたといいます。

「患者さんが自分の命を守るために一生懸命していることを隠さなければならないという部分に、私は違和感を覚えました。幸ハウスでは代替療法を進めるわけでもないし、アドバイスやカウンセリングを行っているわけでもありません。ただゆるやかなつながりの中で、生き方や考え方が受け入れられ、ありのままでいることができて、患者さん一人ひとりが『一番良い』と思えるものを選択できる場です。医療機関ではない自分たちだからこそ、提供できる空間のではないか」と可能性を指摘します。

「大切にしたいものを大切に」できる場を増やしていきたい

支援者から贈られた本で埋まる本棚。「幸ハウスを応援してくださる方たちに、つらかったときに背中を押してくれた一冊や立ち止まったとき寄り添ってくれた一冊のご寄付をお願いしたところ、全国から800冊を超える本が集まりました」(川村さん)

「幸ハウス富士」のオープンから1年半。「この1年半で『大切にするものを大切に』という私たちの思いが着実に文化として根付いてきた」と川村さん。

「ご家族やご友人と来て話をしたり、本を読んだり、ソファーで居眠りしたり、利用される方の過ごし方はそれぞれ。今では一緒に過ごしてきた患者さんたちが、ハウスの一員として新しい方を迎えてくださいます」

「幸ハウス富士」には、「いつかやりたいこと」が書ける黒板がある。「病気を治すことが1番の目標になりがちだからこそ、なんのために病気を治したいかという大きな夢や思いを考えられたらいいなと思い作りました」(川村さん)

利用者の中には、末期がんのためこれ以上の治療がなく、「家にいるといろんなことを考えてしまうから」と毎週訪れる方や、「自宅だと話せないような話がここではできる」と夫婦で訪れる方もいるといいます。「決して楽観的な状況ではなくても、安心して過ごせる空間があることで、一人ひとりまた普段の生活に戻っていく力をつけられたり、心をほぐし、自分が本当はどうしたいのか、本当に大切なことは何なのかに気がつけたりする場になっている」と川村さん。

「1年半を経て、『病気になっても、自分が大切にするものを大切にできる』という私たちの立ち上げ時の思いが、今、確信に変わりつつあります。ノウハウを活用し、同じような場所を各地につくっていけるのではないかと思っています」

死は、日常の延長線上にあるもの。日常的に死を語り合える文化を

さらに、幸ハウスを運営する中で「病気になってからはなく、もっと前から死について考えておくことができたら、より病気や新を受け止めやすくなるのではないか」と強く感じるようになったという川村さん。

元気なうちから大切な人たちと死について語り合い、共有できる文化をつくっていきたいと、広く一般の人たちを対象に死生観を語り合うイベントを開催しているほか、現在は大切な人と死生観を語り合い、「大切にしたいこと」を深掘りするためのきっかけにしてほしいと『48の質問集』を制作している途中だといいます。

制作中の質問集。「いい人生だな、と思えた瞬間はどんなときですか?」「あなたにとってのお別れとはなんですか?」「誰にどんな風にお別れをしたいですか?」などの質問を通じ、死生観を深掘りできるようになっている

「死は特別なものでも隠されるものでもなく、当たり前に私たちの生活の中に存在するもの。日常的に死を語れる文化をつくっていくことで、この瞬間生きていることへの感謝を深めていくことができるのではないでしょうか」

ドイツのホスピスで見た、死が日常の中で自然に存在する光景

宗教者との語らいカフェ「カフェ・デ・モンク」。「『カフェ・デ・モンク』は東日本大震災を機にはじまった移動傾聴喫茶です。住職・牧師・神職らが利用者とお茶を飲みながら世間話や悩み相談など、気軽におしゃべりできる時間。毎月幸ハウス富士でも提供させていただいています」(川村さん)

川村さんはなぜこの活動を始めるに至ったのでしょうか。

「小学校低学年の時に経験した祖父の死が大きいです。優しくて、威厳があった祖父。ですが、延命治療のためにありとあらゆる管がつながれた彼の最期は、同じ人なのかと思うぐらい苦しく、悲しそうでした」

「生きてはいるけれど、話すことも、食べることも動くこともできない。これが本人らしいと言えるのか。死に方に正解はあるのか。祖父の死をきっかけに、死に関する様々な書籍を読むようになりました」

「誰もが異なる人生を生きる中で、どうやったら安やかに死ぬことができるのか、一つの魔法のような答えがあるのではないかと探していたし、『穏やかな最期を迎えるお手伝いがしたい』と医師の道を志すようになりました。でも、答えを突き詰めると、毎回必ず例外が出てきます。静かで穏やかな死のためには何が必要なのか、答えを見つけられずにいました」

「幸ハウス富士」にて、料理好きの利用者さんが持参したお昼ごはん。「家庭の味を私たちにギフトし続けてくれています」(川村さん)

そんな時、母に連れられて訪れたドイツのホスピスで、余命宣告を受けた人たちが、緩和のための医療ケアを受けつつも「大切にしたいこと」を大切にして豊かに生き、日常の中で穏やかに命を引き取っていく姿を目にし、大きな衝撃を受けたといいます。

「たとえ死を前にしても、『大切にしたいこと』を受け入れてくる場があることが、究極の癒しと希望になるのだということを悟りました。日常の中に死が当たり前として、ありのままに存在すること。それが自然の姿であり、穏やかな最期のための必要なものであると感じました」

死を通じ、生をつないでいく

「大切な仲間が亡くなった後、みんなでその人のことを語り思いながら一枚の作品をつくりました。それが飾られることでその方がいつも幸ハウスとともに存在してくれている気持ちになります」(川村さん)

病気になっても「大切にしたいものを大切にできる」場をつくりたい──。その思いで精力的に活動する川村さん。過去に利用者さんは、幸ハウスをどのように利用されたのでしょうか。

「ある方は末期のがんで、できることが限られた中で『皆さんに何かしたい』と好きな音楽に世界各地の写真を載せた映像を制作されました」

「その方が亡くなる3日前に幸ハウスで上映会をやって、その時にご自身の音楽への思いや、世界各地の美しい場所への思いを語ってくださいました。ご家族や親戚も集まって、本当に楽しいひとときになりました。ご本人が亡くなった後、娘さんが『父はずっと夜遅くまで上映会の準備をしていて、それを皆で手伝ったのが思い出深い』と教えてくれました。最期の時の中で、自分の生きた証をかたちにしながら、大切な人たちに自分の生き様を伝え、かけがえのない贈り物を遺してくださいました」

2018年、「幸ハウス富士」設立の際の一枚。「一人一人の思いがつながることで、一人では決してできないことが可能になる体験をしました。かけがえのない仲間たちです」(川村さん)

「最期をこんな風に穏やかに迎えることができる。死は決して終わりを意味するものではなく、遺された人たちにギフトとして、生やつながりをつないでいくものなのだと思います」

「そういう意味でいうと、幸ハウスは患者さんのためだけの場ではありません。それぞれが『大切にしたいこと』を自信を持って語ることができた時、ご家族や携わってくださる医療関係の方やボランティアさん、地域の方にも、それがつながりとして穏やかに、幸せに、その場にあり続けます。『大切にしたいこと』を語り、つないでいく関係性があること。これが地域に少しずつ増えていけば、死の捉え方も少しずつ変わっていくのではないでしょうか」

「幸ハウス」の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「幸ハウス」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×幸ハウス」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、死生観を語らうイベントの開催や死生観を語り合う質問集の制作など、死がごく自然なものとして人々の日常の中に取り戻されていくための活動資金となります。

「JAMMIN×幸ハウス」10/14~10/20の1週間限定販売のチャリティーTシャツ(税込3500円、700円のチャリティー込)。Tシャツのカラーは全11色、チャリティーアイテムはその他バッグやパーカー、スウェットも

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、太陽や月、様々な草木や動物。どんな時でも、たとえ病気になっても、その人が生きてきた人生や大切なものは決して失われず色褪せない。そんなメッセージを表現しています。

チャリティーアイテムの販売期間は、10月14日~10月20日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「病気になっても、病人にならない」。がんになっても、最期まで自分らしく生きられる場を〜NPO法人幸ハウス

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。創業6年目を迎え、チャリティー総額は3,500万円を突破しました。

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