補助犬のサポートによって身体障がい者の自立と社会参加が促進されるようにと「身体障害者補助犬法」が2002年に施行されてから、今年で17年。現在、日本全国で1000頭を超える補助犬が活躍していますが、役目を終えた補助犬の存在やその後を考えたことがあるでしょうか。引退補助犬のサポートを行う団体に話を聞きました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

引退補助犬の支援を行う、日本で唯一の団体

谷口さんと最初に迎えた盲導犬の「サファイア」。15歳2カ月で亡くなるまで、家族の一員として共に過ごした。「盲導犬は視覚障がい者をガイドしてくれるのがお仕事ですが、それだけではありません。いつも側で寄り添ってくれて心の支えでもあります」(谷口さん)

9月、奈良県葛城市にある、日本で唯一引退補助犬の支援を行う団体NPO法人「日本サービスドッグ協会」の事務所へお邪魔しました。この日は、スタッフの皆さんと一緒に5頭の犬たちが、尻尾を振って私たちを迎えてくれました。

穏やかでやさしい立ち振る舞いが印象的な彼らは皆、盲導犬やその繁殖犬として活躍した犬たち。ご自身も盲導犬の使用者である理事長の谷口二朗(たにぐち・じろう)さん(62)と、副理事長であり引退犬ボランティアでもある杉田琢視(すぎた・たくみ)さん(56)に、引退犬が抱える課題について話を聞きました。

お話をお伺いした理事長の谷口さん(左)と副理事長の杉田さん(右)。谷口さんは40代で視力を失った当事者。杉田さんは引退犬ボランティアでもある

「『身体障害者補助犬法』が施行された後、国の助成もあって育成団体や訓練施設が増え、数多くの補助犬が生まれました。現在、国内には29(の育成団体※平成29年度時点)があります。しかし一方で、引退した補助犬には一部の協会を除き、何の助成も支援もありません」と谷口さん。

たとえば盲導犬の場合、10歳前後で盲導犬を引退した後、平均して14〜15歳ぐらいまで生きるといいますが、引退後、亡くなるまでの5年間の生活を知る人は非常に少ないといいます。

「盲導犬の卵である幼犬を育てる『パピーウォーカー』や盲導犬自体は取り上げられても、引退後となると多くの方が知らないどころか、イメージさえしたこともないことがほとんどなのではないでしょうか」(谷口さん)

引退犬は年を重ねた分、落ち着いた雰囲気と貫禄があります。包まれるような優しさを感じました

実際に、引退した補助犬の行き先はどうなっているのでしょうか。

「その補助犬が所属する育成団体によって方針が異なりますが、多くの場合、引退後には『引退犬ボランティア』と呼ばれるボランティアに家族として引き取られて余生を過ごします。その場合は『譲渡』というかたちになり、その犬にかかる医療費や介護はすべてボランティア個人の負担になります」と話すのは、引退犬(元繁殖犬)ボランティアである、副理事長の杉田さん。

「引退後、すべての面倒を見ている引退犬ボランティアに大きな負担がかかってくるという現実がある」と引退犬の課題を指摘します。

加齢による病気や介護…。
「引退犬ボランティア」にのしかかる負担をサポート

足腰が弱った犬の歩行を補助する器具。日本サービスドッグ協会では、こういった器具も無料で貸し出している

具体的に、どのような負担があるのでしょうか。

「病気になった時、病院にかかると医療費は高額です。特に大型犬の場合、腫瘍などが発生しやすいという特徴があります。老衰などで介護が必要になった時、紙オムツやマットなどの介護用品も安くはありません。面倒を見てくださる引退犬ボランティアの方の経済的負担が大きくなってしまうという課題があります」(杉田さん)

日本サービスドッグ協会では、引退犬ボランティアの負担を少しでも軽くしたいと、電話やメールによる相談を受け付けているほか、経済面でも支援金のプログラムを用意し、支給しています。

一つは、引退補助犬の介護を支援する一般支援金です。

「使途については、特に細かく限定はしていません。病気や老いが進むにつれ、飼育費だけでなく介護用品の購入や冷暖房などの光熱費も大きな金額になってくるので、こういったところに当てていただいたりしています」(谷口さん)

もう一つが、高額医療費支援金の支給です。かかった医療費の領収書と一緒に申請できるもので、病気発症から1年間に20万円以上の医療費がかかった犬については5万円、30万円以上の医療費がかかった犬については15万円、50万円以上の医療費がかかった犬については25万円が支給される支援金です。

団体立ち上げから、これまでに支援した件数は3488件(※2019年3月末時点)にも上ります。

介護用品等、必要な道具の貸し出しも

床ずれ予防マットや紙オムツ、防水シート…。日本サービスドッグ協会が支給している介護品いろいろ。それぞれ介護に必須だったりあると便利なものばかりだが、引退ボランティアの経済的な負担になってしまうことも

高額な犬の介護用品も、ボランティアにとっては負担のひとつ。

「犬の介護用品は高額なものも多く、個人で購入するにはあまりに負担が大きく、断念されることも少なくない」と杉田さん。

日本サービスドッグ協会では、紙オムツのお試しセットやペットシーツ、タオル、毛布など介護用品を無料で支給しているほか、足腰をサポートするアシストバンドやサポーター、プロテクターなど補助具や、床ずれ予防マットの貸し出しも無料で行っています。

大型犬は体重もあるので、持ち上げるのも一苦労。こちらは寝たきりの引退犬を何頭も介護してきた経験のあるボランティアさんが開発した、犬に着せるタイプの介護服(非売品)。「こういったものがあると、一人でも犬を持ち上げることができます」(杉田さん)

さらには、歩けなくなった時に犬を運ぶための大型カートの貸し出しも。

「足腰が弱ると、一緒に出かけることも難しくなります。『もう歩けない』という状態になった時、それはすなわち犬の死が近づいていることを意味します。亡くなる前に一緒に思い出の場所を訪れたいと思っても、大型犬を乗せるカートは、安いものでも10万円ほどかかり、簡単に購入できるものではありません。
団体所有の大型のカートや担架なども無料で貸し出しをしています」(谷口さん)

40代で視力を失い、失意のどん底だった時、
一緒に歩いてくれたのが補助犬だった

日本サービスドッグ協会の事務所で、活動を支えるボランティアの皆さんと引退犬たち

代表の谷口さんは、難病により40代で視力を失いました。「理学療法士として働いていたが、何をするのも嫌になって自暴自棄になった」と当時を振り返ります。

「目が見えないので、どこに行くにも誰かの手を借りなければいけません。意地を張って一人で出かけると、電柱にぶつかったり溝にはまったりして、やっぱり一人では出かけられない。かといって、家族同士ではお互いにわがままも出てしまうようなところがありました」

「『出かけたい』と伝えた時に『今忙しい』とか『またあとで』という返事が返ってくることが重なると、私も『もういいや』と諦めて、次第に外に出ることが少なくなり、次第に引きこもりがちになっていきました」

サファイアの11歳の誕生日。「我が家に来てくれてありがとう。彼は私たち夫婦の長男です。サファイアと過ごすために、山の中の小さな家を購入しました。週末は山の家に…家庭に笑いが溢れるようになりました」(谷口さん)

そんな時、谷口さんは盲導犬の「サファイア」を迎え入れます。

「『カム』と声をかけると、いつでもすぐに私の元にかけつけてくれました。視力を失い真っ暗に感じていた中で、私を立ち直らせてくれたのが盲導犬でした。ただの道具ではなく、自分が人生で一番困った時に一緒に歩いてくれた存在なのです」

「この仔がおったら、どこでも行ける」

ハワイでの一枚。「新婚旅行で行ったハワイが病みつきになり毎年行っていましたが、見えにくくなってからは遠ざかっていました。『サファイアと一緒にハワイに行きたい!』、見えていたころの風景を思い出しながら共に訪れたハワイの風と光、そしてハワイの人たちの優しさに包まれ、またハワイ病に取りつかれました」(谷口さん)

夏はサーフィン、冬はスキーと、もともとアクティブだった谷口さん。盲導犬と一緒に生活するようになってから「自分が取り戻せた」と感じたといいます。

「『この仔がおったら、どこでも行ける』と思いました。始めて飛行機に乗って石垣島へ出かけたり、新幹線に乗ってディズニーランドへ行ったり、共に各地を旅しました」

「私にとって彼らは本当にありがたい、心から愛する存在です。道具じゃない。彼らは私の目であり、私の体の一部です。だから、そんな存在の彼らが『引退したら何もない』というのは違うと思いました。それが、活動に携われるようになった一番のきっかけです」

「盲導犬は、私の人生そのものです。トコトコと私の元に来て『おはよう』と言ってくれてスタートする、この仔たちとの幸せな日常は、いつか終わります。別れがいつか訪れますが、その日までは、この仔たちの元気な顔を見ていたい。それが私のモチベーションでもあります」

引退犬やその親きょうだいが眠れる
慰霊碑の建立も

寝たきりになってもカートに乗ってお散歩。「犬も、一緒に訪れた場所を覚えています。歩けなくなっても一緒に外に出てお散歩すると、犬も喜びます」(杉田さん)

サファイア引退後、二頭目の「レフ」を迎え入れた後も、15歳2ヶ月で亡くなるまでサファイアと生活を共にした谷口さん。

「サファイアが亡くなった時はすごくつらい思いをしましたが、その時はレフが側にいて、私を支えてくれました。やっぱりしんどい時に、いつもこの仔たちが側にいてくれたんですね」

引退補助犬慰霊碑の納骨式。慰霊碑前にいるのは、盲導犬のレフと繁殖引退犬のオーランド

そして2018年3月には、日本サービスドッグ協会の15周年記念事業として、団体の拠点である奈良県葛城市にある宝塚動物霊園奈良分院の協力のもと、多くの支援を得て「引退補助犬慰霊碑」を建立しました。

「引退犬だけでなく、引退補助犬と関わる一般の仔たちも含め、皆が楽しく安らかに、一緒に眠れる永代供養の場所です」

毎年生まれる引退犬
その存在を知ってほしい

阪急うめだ本店で開催されたチャリティーイベント「H2Oサンタフェスティバル」では、盲導犬ユーザーの方たちが活動に参加。笑顔で記念撮影

「現在、日本では1000頭を超える補助犬が活躍しています。その中で現役を終える仔たちももちろんいて、そうするとまた新たな補助犬が迎え入れられ、そうやってどんどん持ち替えされていくのですが、それはつまり、この先引退犬がどんどん増えていくということを意味します」と杉田さん。

「引退する補助犬がいるんだということをまず知ってもらうということ、そして活躍を終えた彼らを最期まで大切に面倒を見てくれる人を増やすことが、私たちの役目」と活動への思いを語ります。

「小さい子どもに、ペットを飼ったら、最期まで面倒を見ようと教えますよね。でも、補助犬に関しては、国がそれをできていない。公的な支援もなく、育成事業とは異なって影の部分の活動ですが、今後ここにもっともっと光が当たり、幸せな余生を送る引退補助犬が増えることを願っています。奈良の片田舎で活動していますが、粘り強く発信していけば、いつか声は届くと思っています」と谷口さんも思いを語ってくれました。

引退犬へのサポートを応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、日本サービスドッグ協会と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。「JAMMIN×日本サービスドッグ協会」コラボアイテムを買うごとに700円がチャリティーされ、体が不自由になった引退犬を乗せるためのカートを新たに一台購入するための資金となります。

「団体所有のカートが5台ほどありますが、全国各地からお問い合わせが重なってしまうと順番待ちの状態です。しかし、身動きをとることが難しくなった引退犬は、先がそう長くありません。引退犬ボランティアさんと引退犬が一緒に外に出かけ、亡くなる前に素敵な思い出をつくるお手伝いができたらと思っていて、新たなカートの購入を考えています。チャリティーアイテムで、ぜひご協力いただけたら」(谷口さん)

「JAMMIN×日本サービスドッグ協会」11/25~12/1の1週間限定販売のコラボアイテム(写真のトートバッグは税込2700円、700円のチャリティー込)。アイテムは他にキッズサイズTシャツやバッグ、パーカーなども

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、スーツケースから顔を出し、「一緒に出かけようよ」と笑顔を見せる引退犬。引退後も人に愛されながら、充実した余生を過ごしてほしいというメッセージを表現しました。チャリティーアイテムの販売期間は、11月25日~12月1日の1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

「たとえ役目を終えても、補助犬は体の一部」。引退補助犬が最後まで愛され、元気に過ごせる環境を〜NPO法人日本サービスドッグ協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2019年11月に創業7年目を迎え、チャリティー総額は3,800万円を突破しました。

【JAMMIN】


ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら


Instagramはこちら




[showwhatsnew]

【編集部おすすめの最新ニュースやイベント情報などをLINEでお届け!】
友だち追加