宮城県気仙沼市の唐桑半島で漁業を営む漁師、佐々木夫一(ささきゆういち)さん(61)は、漁師を募集している。

唐桑は、東日本大震災の被災地域。津波の被害と放射能の課題がある。ただでさえ環境問題、政治、経済の影響を直に被りやすい第一次産業だが、若者が漁師の魅力やメリット、苦労話などを聞いた。(オルタナS特派員=笠原名々子)

佐々木夫一さんの自宅で


■漁を辞めて、瓦礫掃除に行く漁師も

――全国各地からボランティアがたくさん来ていますね。

佐々木:この震災で、地元の人や全国から来たボランティアと絆はできたし、元気をもらっているけど、同時に裏切られることもあったなぁ。

――どんな裏切りがあったのでしょうか。

佐々木:震災後、漁ができないから、俺の船の乗組員たちに一カ月の休みを出した。でも戻ってこなかった人が2人いたんだ。1人はまだ20代で、そいつはどこの船でも長続きしなかったけど、俺の船に来てからちゃんと真面目にやるようになって、料理も上手だった。

ようやく仕事も覚えて来た頃に震災が起こった。無事だったけど、いくら電話しても出ない。連絡とれねぇんだ。多分だけどな、瓦礫の仕事に行ったんじゃないかな。

――瓦礫の仕事とは。

佐々木:津波で倒壊した場所の瓦礫を撤去する仕事があって、日給1万2千百円で午後の14時には終わる仕事だから、地元で人気がある。儲かるから、ヨレヨレの70歳のじいさんも行っている。そっちに行って、楽だから帰ってこなくなったんじゃないかな。

気仙沼市内。瓦礫の撤去作業はまだまだ続く


――今は何人で船を出しているのですか。

佐々木:5人の乗組員とやっている。同じように人が減ったもう1つの船と合体して。

――気仙沼の漁師は、全体的に人数が減ったのでしょうか。

佐々木:船をなくした人は瓦礫の仕事をしたり、たまに小舟で網やりながら瓦礫と両立したりしている人もいるよ。唐桑では、船をなくした人は1人。だいたい船は助かった。俺も、船が残らなかったらどうなっていたか。

■東京の若者は「絶対に」漁師になれない

――今も人手不足なのでしょうか。

佐々木:人手不足だね。漁師になりたい若いやつは少ない。だから漁師を募集したい。

――現在、乗組員の年齢は。

佐々木: 64、62、61、60、50だな。50代は若い方。ただ、失礼だけど若い人には期待してないわ。

東京の腰抜けにはできない。若者には「絶対」できない。100人に1人にしか無理だ。それくらい厳しい仕事なんだ。でも、「船に乗ってみたい」って気持ちがあるなら経験させてやりたい。今、男で船に乗ってみたいって言う人がいないんだわ。かえって女子の方が乗ってみたいって言う。その「乗ってみたい、行ってみたい」って気持ちが大切。

――漁師の仕事はどのぐらい過酷なのでしょう。

佐々木:猛吹雪の寒さの中に丸一日居るくらいの思いをせねばならない。

(佐々木さんの奥さん:逃げるところがないんだもん。船の上に居るしかないから。何したって帰ってくることできない。丘の上ならいくらでも逃げられるけど)

――佐々木さんは、辛い思いをしても漁師を辞めたくならないのですか。

佐々木:好きだから。好きじゃなかったら辞めている。

魚もそうだが、1番は魚を獲ることだ。自然を相手にものを得る。これが気持ちいい。

雨でも風でも、好きな人が向こうで待っていると聞いて、引き返すか。どんなことしてでも、ずぶ濡れになってもそこまで行くべ。それと同じだ。俺たちはそういうのに向かっている。

――だんだん、身近に考えられるようになってきました。

佐々木:俺は子どもの頃、素潜りでウニやアワビを獲っていた。それが普通なのよ。自分でものを得るという喜びを体験している人間だから、魚を獲る醍醐味から離れられない。

でも、ゲーム機だけ触ってきた人たちは、敵を倒す喜びは知っていても、敵を倒すためにどこが辛くてどこが痛いかは知らない。漁師の何が魅力かって、本当に乗って、本当に感じて、本当に獲って、本当に味わえるというところにある。1回やってみれば分かる。

漁師は、量が獲れる時もあるけど、獲れない時もある。フタを開けてみないと分からない。無限なわけよ。何の時期にどれがどのくらい、という話じゃない。

でも、1~3月はカレイ、タラ。3~5月は引き網でオキアミ。5~12月は流し網でカジキマグロっていう、だいたいの目安はあるけどな。

――とはいえ、漁師が向き合わなければいけない相手は、自然だけではないですね。環境問題、テクノロジー、政治、景気、人間の問題にも向き合わなくてはいけない。

佐々木:商社は外国からどんどん安いものを輸入するし、今はTPPだ、自由化だ!って騒いでいるけども、俺たちのように真剣に日本の食を考えている第一次産業の者を差し置いて、そういうことしたらどうなるか。

第一次産業に関わっている人はみんな、死ぬ思いでやっているんだ。若い者に給料払って道具を買って。老後の蓄えなんて無い。将来に希望を持っている同業者なんていくらもいないはずだ。

「セシウムが検出されているものを黙って食わせると思うか」後半へ続く。