人口約190万人、全国5番目の都市である札幌市。活気あふれるビル街の中に、札幌市図書・情報館がある。「本の貸し出しを行わない」「日本十進分類法で本を並べない」「飲み物の持ち込み可」など一般的な図書館とは明らかに一線を画すが、開館して1年足らずで100万人が来場した。一見すると特異に見えるが、働く人の幸せを考え抜いた館長のこだわりで溢れていた。(武蔵大学松本ゼミ支局=近藤 知佳・武蔵大学メディア社会学科2年)

札幌市図書・情報館、2018年に開館すると1年足らずで100万人が来場し、Library of the Year2019において「大賞」、「オーディエンス賞」を受賞した

実際に足を運んで驚いたのは、図書館であることを疑ってしまうようなお洒落な空間。館内では心地の良い音楽が流れ、ガラス張りの壁の向こうに来館者がリラックスして本を読んだり、作業をしたりしていることが分かる。

館長である淺野隆夫さんは、開館にあたって、全国の公共図書館だけでなく、企業の図書館や、美術館のライブラリー、書店などを見て回った。しかし、「これぞ!」というものには出合えなかったと言う。そこで、浅野さんは「書籍を出発点にするのではなく、働く人の幸せから逆算して考えた」と述べる。

札幌市図書・情報館 館長の淺野隆夫さん

ターゲットを働く人と定めたので、同館のコンセプトとして「はたらくをらくにする」と掲げた。都心の中心部という立地を生かして、ビジネスパーソンに役立つ情報を揃え、「課題解決型図書館」として整備した。

働く人に寄り添い本を集めた

本は大きく「WORK」「LIFE」「ART」と3つのテーマに合わせて選書され、配架されている。特に「WORK」のテーマを重視し、当館1.5キロメートル以内の企業に対して開館前に調査を実施した。

「ビジネス書でどんな本が欲しいか?」と聞いて回ると、1番多かった回答が「職場の人間関係」だったという。「統計書のような書籍ばかりでは『はたらくをらくにする』ことにはならないと感じた。それが最大の気付きです」と淺野さんは語った。

事前の調査でニーズを把握した上で集めた本を棚に配架するのだが、ここでは一般的な図書館が採用している日本十進分類法を用いない。司書が「テーマ」ごとに本を分けている。

「WORK」「LIFE」「ART」という3つの大テーマをつくり、そこから「働くとはなにか」「働かない方法を考える」「わたしにもできる?副業・複業」「だらだら働く」といったようにさらに細かくテーマ分けをした。分類に使われる言葉が柔らかいので、興味を惹きやすいと好評だ。

本棚の一部には、赤い磁石で囲まれたコーナーがある。これは「ハコニワ」と呼ばれ、特に興味を持ってもらいたい本を紹介している。利用者に次の行動を促すため、本に加えてパンフレットも置かれている。

赤い磁石で囲まれたハコニワのコーナー

利用者は開館後1年足らずで100万人を記録した。当初狙っていたビジネスパーソンだけでなく、利用者は学生から高齢者まで幅広い。平日でも、席は多く利用者で埋まっている。

開館後、周辺書店の売り上げが上がった。そこで、図書館・出版社・書店で協力し、トークライブや販促イベントを計画中だ。本好きの人間が一堂に会し、交流、体験を行う。淺野さんは「本が売れないと図書館の未来はない」と強調する。

取材の終わりに淺野さんは「まだまだ伸びしろがある」と笑みを見せた。たとえ一時のブームによる利用者が減っても、数ではなく、質で働く人を幸せにする工夫をしていくことを考えている。

時代に合わせて利用者は変化していき、その利用者に応じて図書館も変化する。電子書籍への移行が激化している現代では図書館という存在にどんな意味があるのだろうか。本と人、人と人とが交流し、活気に溢れているこの図書館にそのヒントは隠れていると感じた。

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